これまで、誰も成し遂げたことのない偉業に挑む選手がいます。
ボクシング世界3団体統一王者・井上尚弥選手(29)。13日の試合に勝てば、バンタム級で史上初めて4本のベルトが揃うことになります。そんな井上選手に、6カ月密着しました。
■井上選手にしか分からない…“強すぎるがゆえの感情”
世界戦1カ月前。井上選手のもとを内田篤人さんが訪れました。
内田さん:「ドネア戦、お疲れ様でした。素人ながらに、一生懸命応援させて頂いた。あれは、気持ち良かったですか?」
井上選手:「めちゃくちゃ気持ち良かったですね」
2022年6月、ノニト・ドネアとの3団体統一戦に臨んだ、井上選手。「ボクシングの生ける伝説」と呼ばれたドネアを2ラウンドでリングに沈めた圧勝劇に、世界が沸きました。
日本人初となる3団体統一。この時、井上選手が見据えていたのは…。
井上選手:「4団体統一にリーチをかけているので、バンタム級で本当のナンバーワンを目指して」
世界のボクシングを統括する主要4団体の完全統一。しかし、層の厚いバンタム級で、この偉業を成し遂げたボクサーは歴史上、誰もいません。
世界戦まで4カ月となった8月、ドネア戦後、初めてのスパーリング。世界戦へ、本格的なトレーニングが始まりました。トレーナーに指示を出し、試合のイメージを固めます。
万全の準備を整える、その一方で、漏らした本音がありました。
井上選手:「(Q.次は、特別な試合になると思うが?)結果、ついてくるものは特別なものになるが、(相手のポール・)バトラーに対してどうかって言ったら、そんな特別なものはない」
ここまでバンタム級で4年間。井上選手は、王者たちとベルトをかけた死闘を繰り広げてきました。
最強のライバルと呼ばれたドネアを倒し、手にした3本のベルト。しかし…。
井上選手:「ドネアだからこそ、楽しかったというのはある。良い勝負すればライバルになるが、圧勝したらライバルではなくなる。圧勝しちゃうから、ライバルにならない」
井上選手にしか分からない、“強すぎるがゆえの感情”です。
■「刺激的な場所でやらないと…」渡米で“闘志に火”
世界戦3カ月前、井上選手は新たな刺激を求め、アメリカに渡りました。
多くのチャンピオンを輩出する、名門・ワイルドカードジム。中にいたのは、アメリカの世界ランカーたちです。“日本のモンスター”の実力を確かめようと、集まりました。
井上選手にとって普段と違う、アウェーのリング。最初の相手は、井上選手より軽いフライ級。アメリカユースのチャンピオンで、オリンピックではメダルを期待されるホープです。
1分のインターバルを置くと、今度は2階級上、フェザー級の世界ランカーとスパーリング。階級もスタイルも異なる強豪たちとスパーリングを重ねます。
井上選手:「目、腫れた?」
父・真吾トレーナー:「ちょっとね」
さらに、合宿後半には、世界戦の挑戦権を持つトップファイターから、スパーリングの電撃依頼がありました。
井上選手:「チャンピオンなんですか?次、挑戦するんですよね」
真吾トレーナー:「きのうの時点で言われて。スパーリングをやりたいという話があった」
スーパーバンタム級世界1位、アザト・ホバニシャン選手。井上の1つ上の階級、体格に勝る相手が前へ。世界1位のパワーに押されます。すると後半、井上は4ラウンド目で紙一重でパンチを見切ります。
井上選手:「ナイススパー」「海外の選手やトレーナーが見てるなかでやるっていうのは、気が抜けない。刺激的な場所でやらないと成長しないかなと自分の中で感じた」「さすが、世界ランキング1位の潰し方をしてくる。課題が圧倒的に見えている」
闘志に火がついた瞬間でした。
■極限の日々…“練習の質”上げながら体重落とす
世界戦まで2カ月、井上選手は前人未到の道を歩み続けます。
内田さん:「孤独では、ないんですか?」
井上選手:「ここからですね、孤独になっていくのは。減量に入っていって、体重も自分との戦いになってくる。誰からも助けてもらえない域に入ってくる」
世界戦まで1カ月。その身を削る戦いが始まりました。
バンタム級のリミットは53.524キロ。普段63キロの井上は、1カ月で10キロの減量を強いられます。
練習の質を上げながら体重を落とす、極限の日々。8年にわたり、井上の食事をサポートする栄養士は、次のように話します。
栄養管理士 村野あずささん:「体脂肪率の高い選手が体を10キロ落とすのと、低い選手が体を削ぎ落とすのは全然種類が違う。最後の2キロは、水分をカットしていかないといけない。体に対する負担も、とても大きい」
世界戦まで2週間です。
井上選手:「(Q.試合に向けて恐怖は?)追い込むこともできるし、追い込まなければ不安にもなる。追い込みすぎると、体重も落としているし、疲れも抜け切れず、オーバーワークになる。今、一番練習の強度的に難しいところに来ている」
リングが近付いていました。先週12月6日、世界戦まで6日。自分自身との戦いは、ギリギリまで続いていました。
井上選手:「まだ、自分の強さに満足できていない。ファンの方が、こういう倒し方をするであろう倒し方をしたくない。それを遥かに超えていきたい」
(「報道ステーション」2022年12月12日放送分より)
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