ボクシングのバンタム級で史上初となる4団体統一を果たした、井上尚弥選手(30)。
今後、階級を上げて戦うため、4本すべてのベルトを返上しました。そのバンタム級で、最初のチャンピオンベルトを手にしたのは、弟の井上拓真選手(27)でした。
新チャンピオン誕生の裏には、知られざる光と影がありました。
■拓真選手「悔しさは、人一倍ある」
井上尚弥選手が返上したバンタム級4本のベルト。その最初の1本をつかみ取った、井上拓真選手。
試合後すぐ、兄弟でインタビューに応じてくれました。
尚弥選手:「このバンタム級のベルトを井上家に持って帰ってきてくれと」
拓真選手:「ほっとしてます」
拓真選手のボクシング人生は、まぶしすぎる光との戦いでもありました。
圧倒的な強さで、輝きを放ち続けている兄の尚弥選手。拓真選手は、スポットライトを浴びる兄の背中を見つめてきました。
拓真選手:「悔しさは、人一倍ある。他の選手と比べられるわけじゃなく、身近な兄弟で比べられるので。その悔しさは、ずっと小さい頃からありましたね」
そんな弟を兄は…。
尚弥選手:「物心がついた頃からボクシングやっていて、その頃から同じ目標に向かって走っていってる。気持ちも、分かり合えていると思う」
■兄弟の人生分けた“運命の一日”
少年時代から共に、世界チャンピオンを目指しながら、違う道のりを歩んできた2人。兄弟の人生を分けた、運命の一日がありました。
4年前、兄弟で同時に臨んだ初めての世界戦。正規王者のベルトに挑んだ拓真選手。しかし、4ラウンドにダウン。その後、立て直すも12ラウンド判定負け。
この直後の試合、世界のど真ん中に躍り出たのが兄の尚弥選手でした。目の上をカットしながらも、12ラウンドの激闘を制します。
この日を境に、4団体統一への歩みを一気に加速させた尚弥選手。一方、拓真選手には、世界戦の機会が訪れることはありませんでした。
拓真選手:「悔しさはずっと。あそこで勝てていたら、見える景色も全然違う。だから、もう負けたくない」
■封印していた…“兄弟スパーリング”
大きく開いた兄との距離を少しでも縮めるために、もがいた日々。
そんな拓真選手に、覚醒の時が訪れます。きっかけは、兄との“絆のスパーリング”でした。
尚弥選手:「自分が一番そばで見てきて、拓真の実力も分かってるし、弟だし。あの時期に、スパーリングをやろうとは言いましたけど」
尚弥選手、4団体統一戦の約2週間前。兄弟が、リングへと向かいます。
本気でスパーリングを行うのは約10年ぶり。実は、感情のぶつかり合いを避けるため、長年、兄弟でのスパーリングを封印していたのです。
それは兄から弟へ、心をつなぐ時間でした。
尚弥選手:「技術もそうですけど、一番は気持ちですかね。『自分がメインでやってるんだ』って気持ちが、大事だと思うので」
■兄が見た景色に…ついにたどり着く
より強く、自分に自信を…。その答えを出す日がやってきました。
兄が返上したバンタム級のベルトを賭けた試合。拓真選手にとって、3年半ぶりの世界戦です。
尚弥選手:「自分の試合より緊張します。勝ってくれと」
すると5ラウンド、相手のひじが顔面を襲います。そんな状況でも拓真選手は…。
拓真選手:「兄(尚弥)がカットしているのを見てきたので、焦りはなく、冷静にいけましたね」
ここから、相手の猛攻を耐え凌ぎます。
尚弥選手:「弟(拓真)が、もう見切っている。ジャブとワンツーでダメージを与えていく」
拓真選手:「(兄の声が)聞こえてましたね。ワンツー当たるんだから打てって」
ドクターストップの可能性もあるなかで、恐れず前へ。兄が見た景色に、ついにたどり着きました。
拓真選手:「(Q.お兄さんの背中に少し近づいた?)近づいたとは言えないですね、まだまだ。兄のハードルは高いので、それでこそ自分も強くなれている」
尚弥選手:「本当によくやったと。ここからがスタート。頑張ろう」
拓真選手:「頑張ろう」
(「報道ステーション」2023年4月19日放送分より)
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