“競歩は大玉転がし”山西利和 負けから得た絶対王者の発想「自分の枠をはみ出す」[2023/05/09 18:17]

競歩の山西利和さん(27)。スピードはなんと自転車よりも速く、20キロも歩いています。

2019年、そして去年と世界選手権を連覇。この競技の絶対王者ですが、8月に行われる世界選手権の3連覇そして、来年のパリオリンピック金メダルへ今、新たな取り組みをしています。それが、「自分を超えていこう!」です。

■“競歩は大玉転がし” 一体どういうこと?

陸上・20キロ競歩の山西利和さん。来年行われるパリオリンピックの金メダル大本命ですが、実は一つの負けが誰も届かない境地へと押し上げていました。

その負けとは、2年前の東京オリンピック。この大会に世界王者として臨んだ山西さんでしたが、結果は銅メダル。一体、何が起こったのでしょうか?

山西さん:「世界選手権で1回勝った。勝ち方を何となく知ったような気になるじゃないですか」

松岡修造さん:「金をとったからですよね?」

山西さん:「周りの選手が僕をどう扱うか変わってくるんですよ。先頭集団って10人くらい一緒に歩いてるわけじゃないですか。前にいるのは1人じゃない、大体」

松岡さん:「数人でいます」

山西さん:「大玉転がしみたいな感じだと思います」

競歩が大玉転がし?それって一体どういうことですか?

山西さん:「若干この人が前の時もあれば、若干この人が前の時もあるんです。それは2人とか3人でちょっとずつ責任を分散しながら」

松岡さん:「そんなのやっているんですか?」

山西さん:「大玉転がしは、ある程度スピードがついたら、皆がちょっとずつ触るだけで転がっていくでしょ」

松岡さん:「確かにそうです!」

山西さん:「ああいう感じなんですよ。(競歩も)ちょっと自分が頑張ったらペースが維持されて、他の選手が次頑張ってくれたら、またペースが維持されていく」

松岡さん:「今の聞いていたら、『なるほど』っていう思いと、ちょっと他力本願的な感じにも聞こえる」

山西さん:「でも、ほとんどの選手がそうだと思います。マラソンだって絶対そうじゃないですか。ピュンって飛び出して、最後までゴールした人なんていない」

■負けから得た発想「自分本位にレースを作る」

競歩は、選手が入れ代わり立ち代わり先頭を変わりながらレースを引っ張っていきます。

本来、山西さんの戦い方は中盤まで集団で力をため、ラストスパート勝負!しかし、東京オリンピックは違ったのです。

山西さん:「大本命が1人いると、“この人が頑張ってくれるだろう”という大玉を1人で押し続けてくれるみたいな。(東京五輪は)ずっと僕がこの集団を蹴り続けないと、この集団というボールは前に転がってくれないんだなって思った時があって、それがちょっとしんどいなっていう」

世界王者になったことで1人で大玉を転がし続けなくてはいけなくなった山西さん。ペース配分が崩れ、勝負所である最後のスパートで失速してしまいました。

「このままでは勝てない」、そこで考えたことが成長につながったんです。

山西さん:「自分本位にレースを作っていくっていう感じです」

松岡さん:「山西本位?」

山西さん:「そうです。僕のやりたいと思うようにやる。自分の枠からはみ出していかなきゃいけない。ちょっとずつはみ出して、ここまでを自分の枠としますよみたいな。この幅を広げていく」

松岡さん:「自分の枠を広げようって作業をした?」

山西さん:「周りはひとまず置いといて、自分がどういうふうにレースをするか。自分がどう勝つかを第一に考えてレースを作るという感じです」

■去年の世界選手権 今までのセオリーにない戦い方

これまでの勝ちパターンや競歩の常識を超える必要があることに気が付きました。自分の枠をはみ出して「1人で大玉を転がしちゃえ!」。

山西さんの変化を指導にあたる愛知製鋼の内田隆幸コーチも、次のように話します。

内田コーチ:「誰にもできないことを今、練習で取り組んでおります」

松岡さん:「より自ら攻めてく感覚、待つんじゃなくて?」

内田コーチ:「そうです。自分でレースを作っていって、ふるい落としていって一気に行く」

山西さん:「(1人で大玉を転がすのに)必要なのはテクニックではなく実力なんです。体力的な部分とか土台がちゃんとできるから上に乗っかるものが増えてきて、自分のレースのレパートリーみたいなものが、やっと出てくる」

そして、去年開催された世界選手権。開始直後から、いきなり飛び出しました。今までのセオリーにない戦い方!枠をはみ出しました。

山西さん:「自分にとっては90%の力だけど、周りの選手にとっては95%という戦い方をする。相手がもっと頑張らなきゃいけないペースに引きずりこんでいく」

終始、大玉を1人で転がしていき、会心のレースで見事優勝!

そして山西さん、来年のオリンピックに向け、全く別の枠をはみ出そうとしています。

■アスリート委員に当選「1歩前に踏み出していく」

山西さん:「競歩の観点でみてこういう方向、心技体でみてもこういうのあるとか。あんまり自分がやってこなかったラインでもう少し頑張ってようかなとか」

去年7月、世界陸連のアスリート委員に当選。現役の世界王者として活躍する傍ら、国際大会のルール制定など競技の発展や社会貢献活動も行っています。

松岡さん:「山西さんっていう人間の枠を超えようとしている感じがした」

山西さん:「そうです、そんな感じです」

松岡さん:「(アスリート委員を)あんまりするような感じに見えない」

山西さん:「全然しないです。誰かと意見を交わすとかって、そんなに得意じゃないんですけど。ちょっとでも怖いと思うところに行かなきゃいけないですよね。自分の枠の中って安心安全なので、そこから一歩踏み出すっていうのは、うまくいくかどうか分からなかったり、保証がないところに行かないといけなかったり、失敗するリスクがあったり。そこを多少飲んで1歩前に踏み出していく」

(「報道ステーション」2023年5月8日放送分より)

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