ボクシング・井上尚弥 “青の軌跡”歴史的勝利の背景にあった秘策[2023/08/01 19:11]
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7月25日、井上尚弥選手(30)がスーパーバンタム級でWBC・WBOの王座を獲得し、4階級制覇を成し遂げました。試合翌日、井上選手にお話を伺うことができました。元サッカー日本代表・内田篤人さんが、歴史的勝利の背景にあった秘策に迫ります。
■青いバラの意味は「チャレンジャー」
衝撃は刹那(せつな)。最大の敵を攻略するためのモンスターの秘策…。
新王者誕生の翌日、元サッカー日本代表・内田篤人さんがジムを訪れました。
内田さん:「顔がきれい。切れてる箇所とか全然ない」
試合から一夜、所属ジムで行われた会見。
井上選手:「(Q.寝られましたか?)一睡もしてない。それだけこの試合にかけてきた思いが強い」
内田さん:「寝られないアスリートは多いですね。試合後は。(眠気が来るのは)きょうの夕方くらいじゃないですか。時差ボケみたいな」
内田さん:「青いバラ。青い意味は分かりますか?」
井上選手:「チャレンジャー」
挑戦者サイドにある青コーナーへ、5年2カ月ぶりに上がった井上選手。相手は2団体王者のスティーブン・フルトン選手(29)です。
内田さん:「怖さとか危機感はありましたか?」
井上選手:「ありました。『一つ階級を上げて、初戦で挑む相手ではない』。でも、挑むって決めたからには、超えないといけない」
■プロ人生初の試合延期 井上選手の心境
ライトフライ級でデビューし、スーパーバンタム級まで階級を上げた井上選手。一方のフルトン選手は、この階級をベスト体重として9年間無敗を貫いてきました。
身長で4センチ、リーチでは8センチもの差があります。この体格差をいかに埋めるか。井上選手が行ったのは、これまで以上にハードな打ち込みです。
井上選手:「今からスパーリング」
大橋会長:「いいよ」
トレーナー:「スパーリングって伝えていいですか?」
さらに体格差のある選手たちとの激しいスパーリングに時間を費やしました。しかし、オーバーワークにより、拳を負傷。
プロ人生で初めて試合延期を決断しました。
内田さん:「気持ち的にはどう持っていったんですか?」
井上選手:「一時、気持ちも落ちましたけどね」
それでも、拳がふるえない期間もフルトン選手へのイメージを固めていました。
井上選手:「延期したことが本当にプラスと言えるような試合内容にしたい」
■アメリカから招かれたスパーリングパートナー
5月、待ちわびたスパーリングが再開されました。
井上選手:「(Q.コンディションは?)最初は結構重たかったですけどね。スパーリングで追い込んで戻ってきてる」
試合が近付くなかで、井上選手はある秘策を完成させようとしていました。
鍵を握るのはこの男、ジャフェスリー・ラミド選手(23)です。アマチュアで2度の全米チャンピオンになった実績を持ち、井上選手が才能を認める若き逸材です。
井上選手は、試合1カ月前にアメリカからラミド選手をスパーリングパートナーとして招きました。階級は一つ上のフェザー級、身長やリーチの長さはフルトン選手とほぼ同じです。
1週間で26ラウンドに及んだスパーリング。この時、井上選手はあるパンチに確かな手応えを感じていました。
井上選手:「フルトン用に。フルトンにはこのパンチが当たる」
それは、井上選手がフルトン選手に当てた最初のパンチ。ボディーへのジャブ。
井上選手:「なんで自分が必要以上にボディーをたたいたか分かりますか?」
内田さん:「分かりません」
井上選手:「身長が高いので顔を打とうとすると、上半身の顔ってすごく動くじゃないですか。動かないのって腹なんですよ」
ラミド選手とのスパーリングでは、リーチと身長に勝る相手に届かなかった顔面へのパンチを見せました。ボディーへのジャブを当てることで、次の攻撃へとつなげていました。
井上選手:「だから必要以上に腹を狙った」
■今回の挑戦のテーマ「超えろ」
フルトン選手との試合で放ったボディーへのジャブは45発。体格に勝る相手から、自分の領域を作り上げると…。
内田さん:「ダウンとったシーンも左のジャブからの右ストレート」
井上選手:「絶対当たると思っていた」
ボディーへのジャブが、必殺のコンビネーションを生み出し、8ラウンド・1分14秒でTKOで勝利しました。
内田さん:「階級以外にも色んな壁を超えたんじゃないか」
井上選手:「今回の挑戦のテーマが『超えろ』。『フルトンに対して』、『ファンの期待』、色んな壁を超えろ。すべての意味で、超えられた』
井上選手:「(Q.高い壁を超えるために大切にしてること)きのうから一睡もしてないので頭が…。すごく良いこと言おうと思ってるんですけど、全然頭が回らないです」
(「報道ステーション」2023年7月31日放送分より)