体操の橋本大輝選手(22)は、団体でまだ金メダルを取ったことがありません。金メダルへ必要なことは、完璧を求めすぎないこと。つまり、目指すのは“きれいなダイヤモンド”ではなく、“いびつなダイヤモンド”でした。
■橋本大輝選手 4度目の挑戦
個人総合で2つの金メダルを持つ、橋本大輝選手。しかし団体はというと、いまだ金メダルを獲得していません。
なかでも僅差に泣かされたのが、東京オリンピック。金メダルとの差は「たった0.103」だけでした。
橋本選手にとって、今大会は4度目の挑戦です。
橋本選手:「(団体では)今まで何個も苦い経験をしまくっているんですよね。その経験値は他の人と違うのかなと思います。やっぱり自分が最年少なんですけど、今まで経験してきた世界体操から得たことを伝えていくことが一番必要かなと思っている」
■1つ目の壁「あん馬」…つなげることが難しい
では、橋本選手が得た経験とは一体なんなのか。そこには、乗り越えるべき“2つの壁”があるといいます。
橋本選手:「2と5だと思います。第2種目と第5種目が僕は一番キーになるかなと思います」
橋本選手が挙げた「第2種目と第5種目」とは、「あん馬」と「平行棒」のこと。どうして、この2つを挙げたのでしょうか。
まずは「あん馬」の理由についてです。
橋本選手:「あん馬がうまくいかないと精神的にしんどいですよね。去年は、あん馬でブレーキだったじゃないですか」
松岡修造さん:「2人落ちましたね。あん馬が一番地味で簡単そうに見えるんですよ。でも一番ミスが多いのは、あん馬じゃないですか」
橋本選手:「そうですね。(ひとつの)技ができるのは簡単なんですよ。でも技を10個つないでミスなく演技することは、すごく難しいんですよね」
去年の世界体操、大きな敗因となったのが「あん馬」でした。なんと、3人中2人が落下。この種目だけで、金メダルの中国とは2.5点差がつきました。
0.1点を争う体操において、致命的な大差を序盤から追いかける展開になってしまったのです。
橋本選手:「あん馬は上半身と下半身をうまく連動させて旋回を一周一周回さなければいけない。例えば、ひじがポンって曲がっただけでも潰れてしまう。一瞬でも迷えば動作が遅れて失敗する種目ですし、立て直すのもそう簡単ではない」
小さなミスが大きな減点へとつながっていく第2種目。これが乗り越えるべき“1つ目の壁”です。
■2つ目の壁「平行棒」…取りこぼしが許されない
一方、第5種目の「平行棒」は、あん馬とは違う難しさがあるといいます。
橋本選手:「平行棒は一番ミスが出にくいが、きれいにいかないと得点が出ない種目。平行棒で15点を取れる選手が14.6点とかで止まると、どうやって詰めようか考えないといけない」
確かに、過去3回の世界大会を振り返ると、2019年も、2021年も、2022年も、3人全員が15点をそろえたことはありません。
ミスが出にくい種目だからこそ、取りこぼしが許されない。これが乗り越えるべき“2つ目の壁”です。
■大事なのは“完璧を求めすぎない意識”
では、団体戦で立ちふさがるこれらの壁を、どう乗り越えていくべきなのでしょうか。
松岡さん:「今回アントワープといえばダイヤモンド。どうすれば一番輝けるものを見つけられる?」
橋本選手:「確実に言えることは、完璧なダイヤモンドはないです。今までの世界体操やリオ五輪もそうですけど。金メダルを取った時の映像すべて見返してますけど、18演技(6種目×3人)ミスなく金メダルを取った年は1回もないです。なので点を取れるところで取らなきゃいけない、取れなかったけど(ミスを)最小限にしなければいけない、(得点を)最大限に取っておかなければいけないってところが、今一番必要なのかなと僕は思ってます」
実は金メダルを取った大会も、すべてが完璧ではありませんでした。つまり大事なのは、完璧を求めすぎない意識です。
橋本選手:「みんな心に余裕を持ってほしいと思います。それにつなげるためには自分が得点を取るだけでなく、チームがどうやったら得点を取れるのか。『大輝がいれば大丈夫』と思わせられるような演技ができれば、それがやっぱりみんなの精神的な安定にもなりますし、安心感にもつながって演技のパフォーマンスの向上も図れるかなと思っています」
エースの輝きが、チームを輝かせる。橋本選手には輝かしい未来が見えています。
松岡さん:「世界体操は、何を最終的につかめればいいと思っていますか?」
橋本選手:「今まで頑張ってきた僕らの4〜5年間の悔しさが見えるような、内側がきれいなダイヤモンドがいいと思います。外側はいびつでも磨けば磨くほどきれいになって形が整えられる。だからこそ、やはり一番はダイヤモンドを取る。それをどれだけ来年に向けて形をきれいにして、パリ五輪の金メダルになるかってところですね。僕はそう思います」
(「報道ステーション」2023年10月3日放送分より)
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