スノーボード・ビッグエアのワールドカップ。現世界チャンピオン、長谷川帝勝(たいが)選手(19)は今シーズン2勝目をあげました。
■世界で唯一の“偉業”
向かったのは、富山県・立山にある練習場です。
ビッグエアの現・世界チャンピオン、長谷川選手。何がすごいって、とにかく回るんです!
横に5回転半する「1980(ナインティーンエイティーン)」。しかも、長谷川選手はこの超大技でとんでもないことをやってのけるんです。
それが「4種類の5回転半」。技には進行方向に対して、どちらの足を前に滑るか、それぞれ左回りか、右回りかの4種類があります。
多くの選手には得意不得意があり、同じ技でも4種類すべてをそろえるのはとても難しいことですが、長谷川選手はこの5回転半を左足から左回り、その逆、左足から右回り、今度は右足から左回り、そして右足から右回り、全4種類の5回転半を成功することができるんです。これは世界でただ一人、長谷川選手にしかできない偉業です。
「言ってみれば、帝勝ってことですか?」
「そうです。帝に勝って自分が帝王になるという由来なんですけど、自分に勝ってこそまた新しい自分が手に入ると思うし」
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■地道な体づくりが「自信に変える」■地道な体づくりが「自信に変える」
長谷川選手はなぜ、離れ技を可能としているのか。返ってきた言葉は意外なものでした。
「自分は優れた身体能力もないし、スノーボードで突出した才能もないので。自分に与えられた才能は努力すること」
「努力の才能?」
「コツコツ地道にやってきたから今があるって思います。ピンチはチャンスって言うじゃないですか。どれだけそのピンチと向き合ってチャンスに変えられるかというのがすごく大事で。『立てるかな?』っていう不安を『これだけ練習してきたんだから立てる』。自信に変えることだと思うんです」
ある日の練習を見てみると、日が昇って間もない早朝。一人、体を動かし始めた長谷川選手。黙々とトレーニングを続けること1時間。
「背中や股関節や肩甲骨の硬さとかを確認してから滑りに行く。前ナショナルチームの子には『帝勝がやってる量はアップじゃない』って言われました」
オフシーズンにはこのトレーニングを、午前と午後に3セットずつ。地道な体づくりが、4種類の5回転半を支えています。
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■背中を押してくれた言葉■背中を押してくれた言葉
そんな長谷川選手。選手として大きく飛躍するきっかけがありました。それは2年前。当時、けがも重なり、結果が出ない日々が続いていた時のことです。
「(けがから復帰後)10割はリスクがあるから7〜8割程度でやっていこうと考えていたんですけど、日本人トップをずっと走り続けてきた角野友基くんが言ってきましたね。マイナス15℃ぐらいだったけど、1時間くらい立って話を聞いていました。『それじゃすぐ終わっちまうぞ、競技人生なんてあっという間に終わるからな』『勝てるものも逃しちゃう』というのは心にきた」
ケガを恐れて、どこか守りに入っていた長谷川選手にとって目の覚める言葉でした。
「『1番努力しているんだからできないわけがない』俺の背中も押してくれて」
「愛情があった?」
「そうです。愛情のある説教だった」
「でもけがするし、やっぱり安全性、一つひとつだぞって…」
「と思っていたけど、リスク取らずして上に行こうっていう考えは甘かったなと思って。常に攻める気持ち、挑戦する気持ちがより一層強くなりましたね」
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■五輪メダリストを下し…日本人初制覇■五輪メダリストを下し…日本人初制覇
すると、そのわずか1カ月後のワールドカップ。
「そのころ自分は5回転がマックスだったんですけど、5回転絶対やると決めて」
1回目に5回転を成功!いきなり高得点をたたき出すと、続く2回目、今度は逆の足から決めました。5回転を2本そろえる攻めの滑りを見せ、見事ワールドカップ初優勝です。
さらにその2カ月後の世界選手権では、北京オリンピック銀メダリストを下し、日本人初制覇を成し遂げました。
「新しい自分に出会えたっていう表現が1番合っているのかな」
「New帝勝?」
「そうです、New帝勝ですね。スノーボードのカルチャーとしてかっこいいものは第一。そこは根底なんです。そのうえでどう勝つか。勝ちにこだわらないとやっている意味がないので、誰もがかっこいいって思うランで勝つのが一番いいです」
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■松岡さんも感動「やっぱり時間をかけてこそ」■松岡さんも感動「やっぱり時間をかけてこそ」
「僕は本当に帝勝さんから大事な大事なことを教えてもらったなって気がするんですよね。帝勝さんの唯一無二というのは4種類の5回転半です。なぜそれができるのかと。それは唯一無二の努力ですよね。僕は、帝勝さんというのは誰よりも努力っていうものに対して時間をかけれる人なんだなって思います。今は、効率を求められています。これは僕も必要だと思いますよ。でも、皆さんが器用でずば抜けた才能を持ってるわけじゃないんですよ。やっぱり、時間をかけてこそ身に付けるものってあるんだって。努力する、時間をかける大事なことだなと思いますね」
「リスクをとることが大事だっておっしゃっていましたよね。リスクってなかなかとれないと思うんですが、積み重ねてきた地道な努力が裏付けとしてあるからリスクに挑戦できるリスクをとることができる。そんなふうに僕には聞こえましたね」
「あとは、普通どうしても自分が苦手意識を持ったら無理だとか、逃げちゃうものですよ。でも、時間をかければ努力すればできるって思える。これも1つの才能かなと思いますね」
「努力の天才なんですね」
「僕も含め、今年は皆さん努力に時間をかけてみませんか!」
(「報道ステーション」2025年1月6日放送分より)