「甲子園を目指す高校球児たちの熱い戦いが、北海道や沖縄でひと足早く始まりました。今回私が取材に行ったのは、今年のセンバツで初出場を果たしたエナジックスポーツ高等学院。世界へ羽ばたくトップアスリートの育成を目的に、2021年に創立されました。このチームには常識に捉われない戦術があるんです」
高校野球で異例の「完全ノーサイン」
今年春のセンバツ、創部3年(当時)の沖縄・エナジックスポーツが驚きの野球を見せました。
ノーアウト1塁の場面、監督からサインは出ません。しかし、選手たちはエンドランを仕掛けます。さらにノーアウト2塁・1塁のチャンス。ここも監督からのサインはありませんが、今度は送りバントを決めます。
このチームは、高校野球では異例の「完全ノーサイン」で、選手自身が考えて攻撃を組み立てているのです。その秘密に迫ろうと、ヒロド歩美キャスターが沖縄へ取材に行きました。
「ノーサイン野球の魅力は何だと思いますか?」
「自分たちの考えで動けるので、積極性がとても持ち味になるかなと思います。どんどん動いていくチームなので、相手からしたら厄介」
エナジックスポーツの武器は機動力を生かした攻撃。積極的な走塁で次の塁を狙います。センバツでは1試合で6盗塁を記録しました。
積極的に動くランナーの狙いをバッターが察知。試合状況を見ながら選手自身が考えるので、監督からサインが出ることは一切ありません。なぜノーサイン野球が成立するのでしょうか?
「全寮制なので、24時間ずっと一緒」
部員のほとんどが沖縄出身ですが、全員が寮生活を送るエナジック。朝から晩まで四六時中一緒です。
「ノーサイン野球はコミュニケーション。人の考えが分からないとできない野球なので。日頃の練習からおかしいことや小さな気付きがあったら、すぐ集合をかけて意見を浸透させるようにしています」
彼らが大事にしているコミュニケーションは、練習中も欠かしません。
「走塁はどうやって1点取るかを考えて、相手の隙を付きながらかき回して、試合につながる走塁を意識してやっていこう」
気になることがあれば選手同士でとにかく話します。
試合中も選手だけで狙いを確認し合い、作戦会議も選手だけ。打席直前もコミュニケーションを取ります。試合後も同様です。
「2アウトから、あそこは無理する必要ないかなと思った」
こうしてノーサイン野球に必要な洞察力や判断力を磨いていきます。
監督歴45年の名将「笑顔で見てる」
ところで、監督は一体どのような役割を果たしているのでしょうか?試合前のミーティングでも、監督は一歩引いた位置で選手ではなくグラウンドを見ていて参加していません。
「選手との作戦会議やミーティングに監督は参加されるんですか?」
「あまりこっちが言ってしまうと、押さえつけるような感じになるので」
「具体的にされてることは?」
「笑顔で見てる。サイン作ると拒否反応を起こすと思う」
神谷監督はかつて、浦添商業を2008年夏の甲子園ベスト4に導いた名将。45年にわたる監督経験を経てノーサイン野球にたどりつきました。そこには、教育者としての思いが詰まっていたのです。
「自分から意見を言える、指示待ちではなくて。これからの社会はそういう時代。『何のためにこれをやるのか』自分で考えてできるようになっている」
「(監督が)自分たちに任せてくれてることに、すごく感謝している。失敗を恐れるなと言われていて、たくさん失敗して、いろんなことを学んで、今こうしてノーサイン野球ができるようになったかと思います」
「ノーサインという一つの戦術に挑戦することで、選手たちは自分の行動に責任を持てるようになり、野球以外でも次に何が起きるか予想する力がつくようになったと話していました」
「確かに選手の自主性に任せる指導法は、いろんなところで実践されていると思うんですけど、ここまで完璧にやって、しかもチームが強豪に育っている姿は見たことがないですね」
「エナジックスポーツの夏の甲子園を目指す沖縄大会初戦は29日(日)です」
(「報道ステーション」2025年6月24日放送分より)