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2025年12月20日 07:00

【ウインターカップ2025】「負けるなら駿で」正智深谷・成田監督が託すエース・加藤駿 けがを乗り越え日本一へ 高校バスケ

【ウインターカップ2025】「負けるなら駿で」正智深谷・成田監督が託すエース・加藤駿 けがを乗り越え日本一へ 高校バスケ
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埼玉の雄・正智深谷と絶対的エース

埼玉県の強豪・正智深谷高校が今年もウインターカップの舞台に姿を現す。
14年連続15回目の出場となる常連校は、これまでに3人のBリーガーを輩出してきた全国屈指の名門だ。

正智深谷トロフィー
正智深谷高校のトロフィー

チームを指揮する成田靖監督は、「埼玉王者でありながら、チャレンジャーであれ」と語る。その象徴としてチームの中心に立つのは、中学時代からその名を馳せてきた絶対的エースでありチームの主将である加藤駿選手(3年)だ。

正智深谷・加藤駿選手(3年)
正智深谷・加藤駿選手(3年)

宇都宮ブレックスU15出身 正智深谷のエース

加藤選手の経歴は輝かしい。宇都宮ブレックスU15時代には全国ベスト16を経験。正智深谷に入学してからは、1年時から主力メンバーとして活躍してきた。

「一番の目標はBリーガーになって活躍すること。そして、日本代表にも絡めるような選手になっていきたい。国を背負ってオリンピックに出るのが一番高い景色」

プロ、そして日本代表を目標にする彼は、誰よりも練習の虫だった。朝練習、そして全体練習後には必ずシューティングを行うのが日課だ。

「練習前後に打てる時間があったらとにかく打ち込む」
シュートを打つ加藤駿選手(3年)
シュートを打つ加藤駿選手

その成果は、彼のプレーを見れば明らかだ。柔軟性に富んだボディバランス、ミドルレンジや3Pシュートに代表される鮮やかなシュートタッチは、膨大な練習量に裏付けされたものだった。

しかし、その貪欲なまでの鍛錬は、皮肉にも彼の体に歪みを生んでいた。医師から告げられた診断は、「10年に1人」レベルの重度の疲労骨折。

彼の世界が、音を立てて瓦解(がかい)した瞬間だった。

けがに泣いたラストイヤー、そして見つけた「光」

「もうバスケはできないのかもしれない」
加藤駿選手 インタビュー
インタビュー中の加藤駿選手

加藤選手は高校3年間で、肩の脱臼、足の疲労骨折を2度経験している。1度目の疲労骨折は高校2年の11月から2月にかけて。そして2度目は、ラストイヤーの6月のことだった。

「全治4ヶ月」

医師からその言葉を聞いた時、「またか」という絶望が心を支配した。
不安で眠れない夜もあり、思考は悪い方へと傾いたことがあった。

「本当に復帰してもパフォーマンスが戻るかわからない。そんな不安もあったし自分の中で色々考えて不安が強かった」

あれほど身近だった体育館が遠くに感じられ、足を運ぶことさえ躊躇う日もあった。そんな彼を暗闇から引き戻したのは、共にコートを駆けたチームメイトの言葉だった。

「早く復帰して、一緒に試合出ような」
チームメイトを励ます加藤選手(3年)
チームメイトを励ます加藤駿選手

仲間の声に支えられ、再びコートに戻ることができた加藤選手。コートの外からチームを見つめたことにより、気づいた景色があった。

正智深谷では、レギュラー以外の部員も同じメニューのきつい練習をこなしている。それを乗り越えて、コートに立てるのはわずか5人。

自分には、勝利に向かって一緒に切磋琢磨する多くの仲間がいる。だから、自分がプレーできるのだと痛感した。

「自分の中では勝つことが第一優先。だが、今まで支えてくれた人たちにしっかり結果で恩返しできるような大会にしたい。目標は表彰台だが、全部勝つ」

エースの心に、新たな覚悟が宿った。

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「なんでけがをするのがお前なの?」指揮官の苦悩

正智深谷・成田靖監督
正智深谷・成田靖監督

加藤選手を1年時から起用し続けてきた成田靖監督は、怪我が発覚した当時の心境をこう振り返る。

「なんでけがをするのがお前なの?……そう思いましたよ」

加藤選手は優秀なスコアラーでありながら、ディフェンス、声出し、リーダーシップ、どこにも手を抜かない選手だ。

「自主練には口を出さない」という監督の方針。

練習の虫である加藤選手に対し、それが裏目に出てしまったのかもしれない。そう語る表情には、指導者としての後悔が滲んでいた。

成田靖監督と加藤駿選手
成田靖監督と加藤駿選手

エースである加藤選手を主軸にしたチーム、正智深谷。しかし、彼がいないコートはチームに成長を促した。

「加藤がいないことを負けた理由にしたくない」
練習に臨む加藤選手
練習に臨む加藤駿選手

チームメイトたちの意識が変わったと成田監督は語る。

成田監督の胸中には、チームの手応え以上に、エースに対する特別な想いがあった。けがで主要大会に出場できなかった加藤選手の無念を、誰よりも理解しているからだ。

「駿は(今夏の)インターハイもベンチにいなかったし、去年のウインターカップもベンチにいなかった。彼の中ですごい悔しさと、『俺がいれば』っていう思いが多分あると思う」

空白の時間を過ごしたエースに、これ以上何を望むのか。指揮官が出した答えは、勝利への責任をすべて背負っていいという、最大級の愛ある重圧だった。

「負けるなら駿で負けたいなって。このウインターカップでみんなお前がエースだって知ってるんだから、勝とうが負けようが全部お前が背負っていいよっていう風な思い」

加藤選手の復帰と、留守を守ったチームメイトの成長。
ウインターカップを前に、正智深谷はかつてない最高の状態を迎えている。

不屈のエース 最後の冬にアーチを描く

正智深谷の初戦の相手は、静岡県の浜松学院興誠高等学校だ。浜松学院興誠は、けがで戦線を離脱していたキャプテン西垣玲央選手(3年)も復帰し、今年は190cm超えの選手2名を擁するゴール下の強さに定評のあるチームだ。

対する正智深谷は、190cm台を2人擁した昨年とは一転、今年はスモールチーム。
サイズで劣る正智深谷にとって、「高さ」への対策は不可欠だ。

練習中の加藤駿
練習中の加藤駿選手

決戦を前に、余念なく練習に励む加藤選手。その表情は、最後の大会に挑む決意に満ちていた。
彼の瞳は、ただ前だけを見据えていた。

加藤選手の想いは一つ。

「自分のチームの役割は点を取ること。だが、それ以外でディフェンスやリバウンド、ルーズボールを追いかけたりすることが正智深谷で一番大切にしている部分。それを自分が率先してやることで、このチームや自分に関わってくれた人に恩返しがしたい」

彼の目標は高校バスケのステージで、表彰台に上がること。目指すは優勝だ。そして、一人のバスケットボールプレーヤーとして見たい景色は、日の丸を背負う未来。

シュートを放つ加藤選手
シュートを放つ加藤駿選手

このウインターカップは、そこへ至る通過点の一つに過ぎないのかもしれない。

傷を強さに変えた『不屈のエース』は、「恩返し」の思いを胸に、今日も3Pラインから放物線(アーチ)を描く。

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