101年続く釜めし専門店。具材によって火加減など調理工程を変えるこだわり。釜めしを始めるきっかけは、関東大震災にありました。「しょうゆラーメン発祥の地」といわれる東京・浅草。創業111年の中華店では、昔ながらの中華そばが時間と共に味が変わると評判に…。なぜ長く愛されるのか?ヒミツに迫ります。
■101年続く“釜めし発祥の店”
浅草で1世紀にわたり愛され続ける「100年食堂」。そこには代々受け継がれる「グルメ遺産」があります。
東京・浅草。この地で101年続く老舗があります。新年を迎えた3日。およそ600人が来店した、その名も「元祖 釜めし春」。店名に「元祖」と付く通り、「釜めし発祥の店」だといいます。長年足を運ぶ、常連さんが多いんです。
「浅草に来ると必ず『釜めし春』に来る。家族で過ごす特別な場所」
「おいしい。釜めしは『釜めし春』だけ。よそへは行っていません」
この100年食堂の「グルメ遺産」が、創業時から愛され続ける「五目釜めし」。エビやトリ、タケノコなど5種類の具材のエキスがご飯に染み込んだひと品です。100年以上にわたり、お客さんの舌を楽しませてきました。
「おいしい。好き、このにおいが。しょうゆベースのにおいが食欲をそそる」
「20歳くらいの時に1回食べて、こんなにおいしいモノがあるんだという感じ」
季節限定メニューの「かき釜めし」。ぷりぷりの広島県産のカキをしょうゆベースのタレで炊き込みました。
こちらは「特上釜めし」。カニやいくらなど、8種類の具材がふんだんに盛られた贅沢なひと品です。
この100年食堂のグルメ遺産「元祖釜めし」はどのように生まれたのでしょうか?
次のページは
■伝説のワザが?元祖釜めし■伝説のワザが?元祖釜めし
豊田慶子さん(80)。3代続く老舗の3代目女将です。
「私が聞いた話では、関東大震災の時に夫の祖母が上野の山に避難した。その時、みなさんが釜や鍋などを持ち寄って炊いていたのを見て、ヒントにした」
そこからひらめいたのが「釜めし」。一人ひとりに提供する1合釜を開発したといいます。
女将の夫である3代目店主・豊田隆さん(84)は大きな病気をしたため、自宅で静養中ですが…。
「(夫は)すごくこだわっている。味見して、ちょっと違うなとか。おコメは『どこの何のコメを今注文しているんだ』って。『それをちょっと持ってこい』って家で炊いてみて、そういうチェックは今でもうるさい」
おコメは釜めしに合う、粘り気の少ないモノを厳選しています。
中村悟さん
「(Q.ダシをとらない?)ダシはないです。具材からのダシだけ」
味付けは、創業時から変わらず、しょうゆ・酒・みりんのみ。素材本来のうま味を大切にしてきたのです。ごはんの炊き方には、伝統の技があるといいます。
「ムラができないように混ぜるのは必要だけど、あまりいじり過ぎると米が割れる。食感が悪くなる」
さらに、具材によって火加減を調整。フタをするタイミングも変えているといいます。
「五目釜めし」は、ご飯を混ぜて40秒ほどしてからフタをします。一方、「かき釜めし」は、1分半ほど待ちます。
「カキは水分量が多いので、フタをするタイミングがちょっと遅くなる」
カキの水分を逃がすため、フタをするまでの時間を長く。ご飯が柔らかくなり過ぎないようにするためです。
「感覚的にどれくらいで沸騰するか、何となくタイミングが分かる。それに合わせて作業している」
厨房にはガス台が70口あり、一つひとつ、タイミングを見極めて仕上げていきます。まさに職人ワザです。
こちらは40年通い続ける女性。
「私は気に入ったら何十年でも通うタイプ」
このお店は、お客さんの要望に応えてくれるといいます。
「“おこげ”を(多く)頼んだ。好きだから。おいしい」
お客さんをとりこにする100年食堂のグルメ遺産。
「オレは来たいから来る。おいしいから来る。なじんでいるから来る。この店がずっとあるから来ている。何歳生きられるかですよ」
次のページは
■スープのコツは「雑」■スープのコツは「雑」
続いては、浅草で100年続く町中華。昼と夜で味が変わる摩訶不思議な中華そばとは?
裏浅草に位置する、大正3年に創業した「中華料理 あさひ」。飲食店の激戦区、浅草で1世紀にわたり生き残ってきた老舗だけにメニューは豊富です。
常連が足しげく通い続ける訳は?
「この辺でズバ抜けておいしい。なので通っちゃいますね」
「(味は)変わらない。だから通っている」
そんな100年食堂の「グルメ遺産」が、創業時から変わらぬ味を守り続けてきた、ちぢれ麺が特徴の「中華そば」。多い日はおよそ100食出る看板メニューです。
味を受け継ぐのは4代目店主の植木隆一さん(59)。
「味を変えないのが唯一のこだわり」
先代である祖父が86歳の時に急死したため、突然、のれんを引き継ぐことになった植木さん。
「おじいちゃんがやっている時はこう見てさ、自分でこうやってみて再現するんだけど、どうも薄かったり濃かったりするからさ」
残されたレシピはないため、信じるのは自分の舌のみ。祖父の顔を思い浮かべたところ、答えが出ました。
「雑にやってみたらピッタリ。コツは雑だった」
中華そばのスープは鶏ガラベース。そこに豚骨と豚足を加えています。
「豚骨は甘み、豚足はワイルドさを出すように」
「(Q.鶏と豚以外に何か入れる?)これだけ。おじいちゃんの時から変わらないね」
しょうゆベースのクリアなスープが特徴の中華そば。浅草は「しょうゆラーメン発祥の地」といわれています。鶏ガラのすっきりとしたスープは、豚の甘みとコクがプラスされ深みが増すのです。
次のページは
■味が変わる中華そば?■味が変わる中華そば?
さらに、この中華そばには、常連さんが通いたくなるヒミツがあります。
「(営業中に)だんだん味が変わってくる。煮込んでいるから」
実はこの中華そばは昼と夜とでは、味が変わるというのです。
店主が「味を変えている」のではありません。スープに使う材料を取り出さず、営業中も煮込み続けているので、「味が変わる」のです。
「出だしと最後は多分濃さがだいぶ違うと思う。(午後)5時くらいのラーメンが一番うまいかも。お客さんは知っている」
常連さんの中には昼と夜2度、中華そばを楽しむ人もいるといいます。
「アッサリしているのか、濃くなるのか、どっちが良いかって言われると分からない」
「(Q.どっちもおいしい?)うん。それなりに食べているから」
そして、100年守り続けている味にひと手間加えた人気メニューもあります。
これぞ、新グルメ遺産「しょうがそば」。スープはそのままで、おろししょうがをタップリとトッピング。体が温まること請け合いです。
「おいしい。他じゃないよね」
浅草で愛され続ける100年食堂。将来の5代目も腕を振るっています。
「続けられていることはありがたい。お客さんも来ていただいているしね。そういう意味では幸せ。あさひは」
「うまいね。ごちそうさまでした」