今や日本が世界に誇る文化、“アニメ”。市場規模は、過去最高の3兆円を超え、特に好調なのが「海外展開」です。日本のアニメの何が、こんなにも世界の人々を夢中にさせるのでしょうか。(3月1日OA「サタデーステーション」)
■アニメ含むコンテンツ産業 海外展開20兆円超へ 人気の秘訣は
都内で行われたのはアニメに関するオンライン商談会。
「私たちは日本の有名なアニメから新しいIP(著作物)を探しています」
日本のアニメ制作会社の担当者
「ぜひ今年公開の私たちの映画を検討していただければ」
日本のアニメを求める海外バイヤーと、アニメを扱う日本企業が参加し作品のプロモーションなどを行います。
「これまで実写映画しかやってなかったという海外企業が、アニメを扱ってみたいみたいな問い合わせも本当に多いですね」
政府は、アニメを含むコンテンツ産業の海外展開額20兆円を掲げていて、実現すれば自動車の輸出額に匹敵します。今後も成長が期待される中、すでに海外で親しまれている作品も―
香港では、500万人規模のイベントが行われるなど、海外でも人気の「ドラえもん」。これまで70以上の国と地域で放送されてきました。中でもスペインでは、30年以上にわたり放送されている“国民的アニメ”です。
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■なぜ?国境超えて「夢中」に■なぜ?国境超えて「夢中」に
番組が向かったのは、バルセロナ。出迎えてくれたのは、「ドラえもん」が大好きな姉妹です。
「(Q.ドラえもん好き?)大好き。面白いし、夢中になって見だしたらやめられません」
スペインでは毎日放送していて、オリビアちゃんは欠かさず見ているといいます。
3歳の妹、ジネスタちゃんも。
「のび太…ドラえもん…」
絵本を見ながら、キャラクターの名前をしっかり認識していました。
「のび太はひみつ道具で悪さをしようとしますが、ドラえもんは『そんなことしちゃダメ』と教えます。教育的だし面白いです」
さらに、他のご家庭でも…。三つ子の兄妹が真剣に見ているのは、やっぱり…「ドラえもん」。
「普段3人一緒にソファで見ています」
アマヤカリナちゃん(10)
「こっちのテーブルで朝ごはんを食べながら」
三つ子の父親 アレックスさん(49)
「たまに夕食の時にね」
「ドラえもん」を見るのが日課です。
「描かれているのが日常的な話で、子どもたちはキャラクターの誰かに自分と近い存在を見つけられます」
市内の駅に向かってみると…
報告・若林奈織ディレクター(スペイン・バルセロナ サリア駅)
「あ、ありますね。ドラえもんとのび太くんが大きく描かれた看板です」
ホームの案内板や通路には、お馴染みのキャラクターたちが。このようにアニメキャラクターが起用されるのは珍しいといいます。
街の図書館には。
報告・若林奈織ディレクター(スペイン・バルセロナ クララ図書館)
「あ、『ドラえもん』ありますね!」
「私も『ドラえもん』が好きです」
さらに、「ドラえもん」のテーマソングを歌える人たちや、絵が描ける男の子もいて、あらゆる世代で抜群の認知度です。
古本市で「ドラえもん」の漫画を買う親子の姿もありました。
「子どものころから『ドラえもん』を見ていました。息子も見ています」
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■“日本アニメ” さらなる成長へ “配信”も後押し■“日本アニメ” さらなる成長へ “配信”も後押し
今、世界では“日本アニメ”のファン層にある変化が起きているといいます。
「今までアニメというと若年層中心だったが、今となっては購買力の高い年齢層にもアニメのファン人口が増えている」
後押ししているのは、動画配信サービスの普及です。
■30年以上 現地の「ドラえもん」配信会社を取材
番組が訪ねたのは、スペインで「ドラえもん」の配信に携わっているパコ・グラタコスさん。
「スペイン人の視聴者にとって理想的な作品だと思いました。日本人の友情、努力、自然への敬意が描かれていました」
しかし、国内に取り入れるには、難しい部分も…
「アルコールやダイエット、武器が登場する内容はそのまま放送できません」
立ちはだかったのは“倫理規制”。スペインでは、子ども向け番組で「アルコール」や「ダイエット」についての表現が制限されています。そのため映像をひとつひとつ確認し、“ウイスキー”という文字は画面から削除。「ダイエットをしている」というセリフは別の言葉にして放送しています。
さらに…
「翻訳・脚色は簡単ではありません」
例えば、お馴染みのこの“ひみつ道具”
「それじゃあ、タケコプター」
日本人なら「竹とんぼ」をイメージする人も多いかもしれませんが、スペインでは「竹」に馴染みがないといいます。そこで…
「ゴロコプテロ(GORROC?PTERO)」
帽子を意味する「ゴロ(gorro)」とヘリコプターの「エリコプテロ(helic?ptero)」を足して新しい言葉に。スペイン風にアレンジする一方で、多くの日本文化は、あえてそのままにしているといいます。
その結果…“ドラえもんの大好物”を売る店も登場。
「(Q.何を食べている?)DORAYAKI ドラえもんのアニメで知りました」
ただ1番売れているのは、あんこではなく…チョコレートを挟んだどら焼きです。
今後、“日本アニメ”がどう世界に進出すべきか―
パコさんに尋ねたところ、“意外な答え”が返ってきました。
「(日本は)今のままでいいのです。アニメに重要なのは、創造性・脚本・メッセージ。日本のアニメはその点が得意です。世界に合わせる必要はありません」
【取材後記】
幼い子どもから、おじいちゃん・おばあちゃんまで、どのような世代に声をかけても、皆が知っている「ドラえもん」。さらに、どら焼き店には長蛇の列。現地での「ドラえもん」の認知度は想像以上で、人々の日常に溶け込んでいたのが驚きでした。動画配信サービスの後押しで、 “日本アニメ”の海外市場が拡大する今、世界に向けた新しい取り組みも、もちろん大切です。私自身も、当初は「“日本アニメ”を世界に広めるためのアドバイス」を求めて取材を始めました。しかし、パコさんから返ってきたのは意外な答え。世界の人たちにとって、“日本らしさ”が1番の魅力で、アニメはそれを楽しむためのツール。日本は「変わらなくていい」という言葉に、はっとさせられました。この先も、“日本アニメ”がどのようにして世界の人々を魅了していくのか、さらなる成長が楽しみです。
(サタデーステーション 若林奈織)