今年のコメの予想収穫量が去年よりも68万トン増加して、9年ぶりの高水準になったと発表されました。こうしたなかで、作付け面積を増やして規模拡大を進めるコメ農家に話を聞くと、生産者が抱える課題が見てきました。
“宝の山”は価格2倍
「コメがいっぱいあるろ!“宝の山”だよ!おととしに比べて価格が2倍!!前までは安くて安くて、どうにもならんかったけど、いま“宝の山”」
コメ袋を前に満足そうな表情を浮かべるのは、新潟県魚沼市の関隆さん(73)。
魚沼市と南魚沼市の田んぼ、およそ90ヘクタールでコメ作りを行っています。
「これ1トン。これで70万円。もう考えられない値段だよ!」
連日猛暑が続いた新潟県。高温障害による品質低下も懸念されていましたが…。
「今年、この品質であれば、これから先も魚沼ではコシヒカリで勝負できるんじゃないかなっていう」
関さんが生産した魚沼産コシヒカリ、今年の収穫量は330トンで過去最大。去年よりも作付面積を増やしたことで増産できたといいます。
なぜ、価格高止まり?
「消費者の皆様には、この約10年で最大の増産ですから、コメが足りなくなる状況にはないことをご理解いただき、必要な時に必要なだけコメを安心して買い求めていただきたい」
今年の主食用のコメの予想収穫量は、およそ747万トン。去年より68万トン増加し、2016年以来9年ぶりの高水準になっています。
多くの地域で天候に恵まれたことや、作付面積が広がったことで収穫量の増加につながったとしています。一方で、コメの平均価格は前の週から6円下がったものの5キロあたり4205円。新米が出てからも高止まりが続いています。
都内のスーパーで売られている新米はどれも税込み4500円以上、中には5000円を超えるものもあります。
「すごい、高すぎ」
「(Q.一時期、新米が出たら(値段が)下がると)散々言ってたけど、全然下がらなかったですよ。安くなるって、どこが安いのよって」
新米の収穫量が増えているにもかかわらず、なぜ価格は高いままなのでしょうか?
理由の一つは、農家からコメを集荷する農協が前払い金として支払う「概算金」の全国的な上昇。この概算金が上昇すると、最終的にスーパーなどでの販売価格が上がります。
「夏の段階ではですね、あまりおコメがたくさん出てくるような良い情報が少なかったんですね。JAさんにしろ、集荷業者にしろ、自分たちが必要なコメを集めようと思った時に、ある意味取り合いみたいになって、価格が上がっていった」
専門家によると、不作になるのではという不安感から争奪戦が起き、新米の価格が上昇したといいます。しかし、ふたを開けてみれば、近年で最大の予想収穫量でした。
「ただもう農家さんと契約している集荷業者も多いですし、農協さんももう概算金を決めて発表してしまっているので、ここから余りそうだから安くしますってわけにはやはりいかない」
農協や集荷業者が高値で仕入れているため、コメが十分にとれていることが分かっても、価格を下げるのは難しいといいます。
あふれる新米 価格影響は?
「順調に、今年は新米が入荷していまして、徐々にいっぱいになってきています。去年の今頃は、入荷にかなり心配してたんですけど、今年はそういうこともなく」
岐阜県にあるコメの卸会社の倉庫には、入荷したばかりの大量の新米が積まれています。
去年と違い、順調にコメが入荷されているなか、こんな異変が起きていました。
「(農家の)コメが倉庫にね、あふれているということで、少しでも出さなきゃいけないっていう話をお聞きしました」
コメが倉庫からあふれ、価格を下げてでも売ろうとする農家が出てきているといいます。
「新潟のほうの生産者から『だいたい60キロで3万7500円ぐらいでどうだ』っていう、引き合いが来たんですけども、結構高いもので『ちょっとそれでは』ってお断りはしていたんですけども、最近になって『いくらなら買ってくれる?』というような表現で、ご連絡をいただいている」
実際に、コメが余っているという新潟の農家は、次のように話します。
「買い手が決まらなくて、どんどん置く場所がなくなって、お金のかかる倉庫に預けたりとかもするんで」
今月に入り、新米が想定より売れなくなり、自前の倉庫だけでは生産したコメが入りきらず、保管料を払って倉庫を借りているといいます。
「価格を下げるっていうのも検討の範囲ですけど、あんまり下げすぎると何のためにね、販売してるのか分からなくなってしまうという。設備投資もかなりかかるんで。難しいですよね」
手放す農家 複雑な胸中
コメの価格に振り回される農家。その一方で、魚沼市の関隆さん(73)は新たな挑戦を始めました。
「この一角が、来年は全部うちの(田んぼ)になるんだよ。これいま白い所が全部うちのもの。これ(作業場)を中心に、東京ドーム1個分ぐらいになる」
さらなる大規模化に向け、来年から作業場周辺の田んぼはすべて、関さんがコメ作りを行うといいます。
「そしていずれは…今度はこっちがばぁっと!10年後、20年後、俺はいなくなるけれども、ここが今度うちの田んぼに全部色が変わってくるはず」
関さんのように大規模化を進めていく農家がいる一方で、コメ作りをやめざるを得ない事情を抱えた人がいました。
「ごめんくださーい」
魚沼市で40年以上、兼業コメ農家を続けてきた小林俊一さん(76)。
ステージ4の肺がんを患い、コメ作りができなくなり、去年から1.2ヘクタールの田んぼをすべて、関さんに預けているといいます。
「がんになって4年ぐらい自分で(コメ作りを)やっていたんだけれども、体力的にもう無理だと。追肥だとか、畔の草刈りとか、自分で動くっていうのが、体がもう。息が続かなくてダメで」
妻が関さんと幼なじみということで、関さんに田んぼをお願いした小林さん。しかし、胸中は複雑だったといいます。
「だから体壊しても肺がんになっても、宣告されてもずっと(コメ作りを)やってた。体がついていかないことには、どうもこうもなんねえ」
「ステージ4のB(の肺がん)ですといわれて、完治はしません。手術もできません。でもがんを宣告された時の落ち込みっていうのはなかった。だけど、田んぼが自分でできねえ。農家としてやっていけねぇって時のほうが、気持ちはすげえ落ち込んで悔しかったり寂しかったり眠れなかったりした」
小林さんから預かった大切な田んぼ。しかし、大規模化を進めていくうえで経営者として、難しい判断もありました。
「俺がいなくなったら、今度は若い連中がやるわけだ。俺は小林さんに対しても田んぼを貸してもらってありがたいっていう気持ちがある。小林さんが田んぼを貸してくれるから、今の90ヘクタールとかそういう面積をやれるわけだけども」
しかし、小林さんから預かった田んぼは、作業場から車で20分ほど離れた場所で、移動に時間がかかります。また、魚沼市の田んぼは形が不ぞろいな所も多く、作業効率が下がってしまうといいます。
それでも、大規模化を進めていくのには、理由があります。
「あと10年経てば(コメ農家の)平均年齢は80歳。作る農家はもう本当にいなくなるんだよ。せめて、うちが第二作業場を作って、規模拡大していかなきゃダメだ。俺は立ち止まりたくないな」
(「羽鳥慎一 モーニングショー」2025年10月15日放送分より)