「30分の皿洗いで食事代が無料」になるギョーザ店に、客足が途絶えないおにぎり屋さん。年齢を重ねても、誰かのために働き続ける人たちを取材しました。
絶品ギョーザ 76歳店主の想い
五山送り火で有名な「大文字」が見られる、大人気の観光スポット、京都市の出町柳。その一角にある「いのうえの餃子」。絶品ギョーザがウリの店です。
「ラーメンと定食(食べます)」
「おいしいのとギョーザ好きなのと、安いのですかね」
定食のライスは無料でどんぶりサイズの大盛にできます。「餃子定食2人前」が990円(税込み)。「ラーメン」は一杯600円(税込み)です。
1000円でおなかいっぱいになれるメニューがずらりと並んでいますが、「めし代のない人、おなかいっぱいただで食べさせてあげます。但し、食後30分間お皿洗いをしていただきます」という貼り紙もあります。
かつて「餃子の王将 出町店」の店主だった井上定博さん(76)。2020年に引退するまでおよそ40年、苦学生におよそ3万食の無料の食事を提供してきました。
大切にしているノートには、食事をした学生からの感謝の言葉があふれています。
「20歳ぐらいの時、嫁さんと駆け落ちして大阪に行ったんですよ。それからずっと苦労してきたからね。(職場の先輩)のおばちゃんが、俺らどうしてるか知ってるやん。『今晩、水炊きする、すき焼きする、焼き肉するから食べにおいで』。20歳から76歳になったけど、その間にいろいろ良いこともあったけどね。そのことが一番覚えてるわ」
「若い人たちに恩返し」
受けた恩を若い人たちへ。その思いは引退しても尽きることはなく、73歳で再び店を開くことを決意。もちろん、無料の食事サービスも。
この日“皿洗いを宣言”しながら入店してきたのは、京都大学大学院生の23歳です。
「きょうはお皿洗いさせてもらって、ご飯食べさせてもらおうかなと思ってきました。5回目ぐらいです」
「餃子定食1人前お願いします」
「(ライス)大盛りやった?」
「大盛りでお願いします」
1人前の「餃子定食」を注文しましたが、出されたのは2人前。井上さんのやさしさに触れ、学生も笑みがこぼれます。
「大学院で研究も忙しいので、バイトしているんですけど、家賃とか自分で払っていて、食費を浮かすことが助かっています」
「これ洗ったことある?」
「あります」
「これ洗っといてくれる」
毎月4万円の仕送りにバイト代2万円。家賃と光熱費で5万円かかるため、生活費はわずか1万円しかありません。困った時には、井上さんを頼ってしまうと話します。
「京都での親ですかね。ご飯、自分が食べづらい時でも、心のよりどころになっているというか。食べさせてもらうことができるのは、すごい感謝しています」
学生に限らず地元客を中心に、お昼どきや夕方の店内は満席に。
「焼きすぎた。ちょっと待ってな。よう焼いたギョーザや」
ギョーザを焼きすぎちゃいましたが、ユーモアたっぷりに笑いに変えるシーンもありました。
人気観光地の京都とあって、外国人観光客も少なくありません。
「recommendation?(お勧めはありますか?)」
「ん?分かります?まぁ、これじゃないか」
「パーフェクト。サンキュー」
外国人との接客は決してスムーズではありませんが、問題ないようです。
「アロイマーク(とてもおいしい)」
「ハートやから。それが一番通じるよね」
「胸がいっぱい」学生が涙
午後6時30分、同志社大学1年生(18)の男子学生が食事を終えると、井上さんに話しかけます。
「すいません。めし代の貼り紙はどういう?」
「めし代のない人は、皿洗ったら飯食える。こづかいないの?」
「皿洗って帰り」
勝手が分からず慣れない手つきの男子学生。見かねた井上さんがアドバイスします。
「面で洗うと早いから」
「お前のこうやろ、こんなんしてたら遅いやろ」
「分かりました」
皿洗いの後、残った時間でテーブルの調味料を拭いていきます。
「おコメとおかずと野菜が入っていた。(普段は)だいたいどれか欠けているので。満足度がすごい、おいしかったですし。唐揚げまで付いてくるとは」
人と話すことが苦手だという男子学生。「皿洗いがしたい」と話しかけるのが、食後になってしまったそうです。
「ちょっと焦げてるギョーザあげるわ。晩に食べとき」
「いいんですか。おいしかったです。ごちそうさまでした。ありがとうございます、本当に」
客には出せなくなった“焦げたギョーザ”はお土産に。男子学生も、井上さんの温もりを感じていました。
「言葉にできないくらい、胸がいっぱい。こっちが申し訳なくなるくらい」
「順繰りやわね。僕はあの人ら(先輩)に食べさせてもろうたし、それを困ってる子に腹減らせるのに食べさせる。こういうことを経験したらね、ひょっとしたら人に優しくなれるよね」
「(Q.何歳まで頑張りたい?)僕は99歳までいきたいから、99歳までぼけたくないから」
人気おむすび屋83歳看板娘
ところ変わって、東京・調布市仙川の商店街にある「おむすびてしま」。コメ店が経営するおにぎり屋さんです。
午前6時、朝早くからおにぎり作りをするのは、店の女将で“看板娘”の手島弘子さん(83)です。
手際よく次々とおにぎりを作っていく弘子さん。手のひらにのせたご飯はころころと転がすように、具を入れて最後に一握り、力を入れず優しく包むように握ります。
148センチあった身長も、現在は134センチに。小柄な体ですが、手を見せてもらうとこのサイズです。
この大きな手で握るおにぎりは1日300個。創業から50年以上、店のコンセプトでもある“素朴な味”を貫いてきました。
炊き立ての熱々ご飯で握ると、“冷めてもおいしい”おにぎりになるそうです。
名物「豚そぼろ」250円
店の一番人気は紅鮭おにぎり。具材の鮭はオーブンで蒸した後、焼いて仕上げていきます。
コメは新潟県胎内産コシヒカリ「みずばしょう」。有明海産ののりで包んだぜいたくな一品です。
他にも、こんなおにぎりがあります。
「お弁当は小学校のころ作ってもらってたので、思い出はあります」
息子の健太さんが子どものころから大好きだった「豚そぼろ」。“親子の思い出の料理”は、今では看板メニューの一つとなりました。
弘子さんが握ったおにぎりの味は…。
「ふわふわですよ。これがなかなかないんですよ」
「ちゃんと握ってくださっているので、愛がこもっている感じがします」
現在2代目の健太さん。目標は“母のおにぎり”を握れるようになることです。
83歳の弘子さんは、いつまで続けるつもりなのでしょうか?
「体が続く限り生涯現役」
50年以上おむすびを握り続けてきた弘子さん。生涯現役で頑張りたいと話します。
「どうぞどうぞ。いつもありがとうございます」
(2026年5月5日放送分より)


















