大後寿々花【3】生きている人間なのか、幽霊なのか…“存在感の薄い女”を体現!

[2024/06/29 21:00]

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11歳の時に映画「SAYURI」(ロブ・マーシャル監督)でハリウッドデビューを果たし、脚光を浴びた大後寿々花さん。2007年、ドラマ「セクシーボイスアンドロボ」(日本テレビ系)で連続ドラマ初ヒロインをつとめ、映画「女の子ものがたり」(森岡利行監督)、映画「桐島、部活やめるってよ」(吉田大八監督)、「お別れホスピタル」(NHK)などに出演。6月29日(土)には、映画「幽霊はわがままな夢を見る」(グ・スーヨン監督)が公開される。

■大学には絶対に行きたいと思っていた

2012年、映画「桐島、部活やめるってよ」に出演。主演の神木隆之介さんは、10歳の時に「Dr.コトー診療所」(フジテレビ系)で初めて出会い、「あいくるしい」(TBS系)や映画「遠くの空に消えた」(行定勲監督)など共演作も多い芸能界の幼なじみ的存在だという。

田舎町の県立高校映画部に所属する前田涼也(神木隆之介)は、監督作品が表彰されてもクラスの中では目立たない最下層の存在。しかし、ある日、バレー部のキャプテン・桐島が突然部活を辞めたことをきっかけに校内のヒエラルキー(階級)が崩壊することに…。

――撮影は高校時代ですか

「高校3年生の時でした」

――大学受験を控えていた時ですね

「はい。大学には絶対に行くと決めていました。AO入試(その大学の求める人物像に合致するかどうかで合否が決まるが、試験期間は長期にわたる)だったので、入試は一般よりも早かったんです。『桐島〜』の撮影は確か11月とか12月だったので、撮影の時にはもう受験は終わっていました。当時は、もう1回神木さんと一緒にお仕事ができるということが楽しみでした」

――「桐島〜」では、神木さんとぶつかる役でした。向こうはその場所で映画を撮りたい、大後さんは好きな人が見える場所だから譲れない

「そうです。それで、吹奏楽部の部長なので、サックスの練習もしなきゃいけなくて。サックスは全くやったことがなかったので、結構大変でした。サックスの練習シーンは、実際に自分で鳴らしていたので」

――かなり練習されたのですか

「結構練習しました。でも、沢島亜矢(役名)の心情とともに結構揺れても大丈夫だったので、正確な音を出すことに気持ちが行かないようにと思いましたけど」

――好きな人のキスシーンを見ながらサックスを吹かなきゃいけないというのはきついですよね

「そうですね。見たくないけど見てしまうという気持ちはすごくよくわかる気がしました。どうしても目がそらせない。でも、気取られてはいけないから、音も鳴らし続けなきゃいけないという感じで」

――サックスは今も吹けますか?

「どうでしょう?指自体の動きはあまりリコーダーと変わらないんですけど、息の入れ方がちょっと特殊なので、今すぐには鳴らせないと思います。

(役柄で)楽器をやると、それにハマってその後も楽器を購入したりしてやり続ける人もいるんですけど、音が大きすぎて、当時は家で練習ができなかったんです。近所迷惑になるので、いつも音楽教室みたいなところを借りて練習していました。最後の演奏シーンは、現地の高校の吹奏楽部の方にも入っていただいて撮影しました」

――撮影前にワークショップみたいなこともやられたと伺いました

「私はやってないです。あの役がまた単体でつるんでなくて、あまりなじめない女の子という設定だったので、それこそ女子チームと一緒になるシーンも本当に少なくて会話もほとんどなかったんです。

沢島のサックスの練習は一人だったじゃないですか。大体一人でサックスを吹いていて、ちょっと後輩に声をかけられるくらい。基本的に誰ともつるんでないんですよね。なので、グループで行動している女子チームとか、男子チームだとバレーボールの練習とか、それぞれあったみたいですけど」

――大後さんは、ちょっと異質のキャラでしたね。一人自分の道を行くみたいな。あれだけたくさんの人たちが出ていて、皆さんご活躍されている方も多いですね。完成した映画をご覧になっていかがでした?

「結構同じシーンが何回か繰り返されているじゃないですか。でも、撮っていると、どこをどう撮っているのか途中でわからなくなってくるんですよ。それが完成する時にどういう風に組み込まれていくのかなっていうのが、一番気になっていました。

いろんな視点で同じシーンを何回も撮っていたので、完成した作品を見て、『この人はこの感情がここで来るのね』と、後で全部答え合わせを自分もされていく感じでした。

登場人物も多かったですし、同じ場所にいるのに、それぞれの視点と心情があって、それを細かくつまんでいく作業というのは、監督が一番大変だったろうなあって思いました」

――桐島くんすごいですよね。この子一人のことでこんな風に展開するというのは、原作を読んでなかったのですごく驚きました。いろいろなタイプの作品に出演されていますが、判断基準は?

「特に希望は話してないです。その時どきでという感じです。ただ、大学には行くつもりだったので、最初からそういう話はしていました」

2012年、慶應義塾大学環境情報学部に入学。学校生活と仕事を両立させ、大学進学後も「二十四の瞳」(テレビ朝日系)、大河ドラマ「八重の桜」(NHK)などに出演。2016年に卒業後、女優業を本格化。

――4年間で卒業されて

「はい。ちょっと山の中にある大学を選んでしまったので、移動が大変でしたけど、それは自分で選んだことだったので。授業に出席できるようにという相談は事務所にもお願いして調整していただきました」

■映画「SAYURI」がきっかけで時間があると海外へ

今年5月はアメリカに滞在。時間があると海外に行っているという。

「『SAYURI』がきっかけで英語に興味を持つようになったのですが、英語はやってもやっても知らない単語、文章が絶対出てくるので、そこは今もずっと勉強しながらという感じですね」

――海外にはいつ頃から行かれるようになったのですか?

「中学生の時に1回、2週間の短期留学でアメリカに行って。高校でも2週間ぐらい学生寮を経験しました。寮生活とホームステイを経験して、そのあと大学の卒業旅行で行ったのですが、アメリカがメインで、ロサンゼルスが一番長かったです」

――今年の5月に行かれたのは?

「語学とお芝居を学ぶために訪れました。向こうの役者さんは、演劇学校をちゃんと出ている方が多くて、海外のプロフィルにはトレーニングの経歴を書く欄があるんですよね」

――ハリウッドで活躍されている俳優さんは、売れてからも演劇学校に行かれている方も多いですね

「そうなんです。『こんなに有名な人も行くの?』っていう俳優さんも学ばれているんですよね。そこはやっぱり日本と違うなあって思って。結構学校によっても、先生によっても、
演技法や学び方が違うんです。だから、そういうのは見ていても面白いなあって思いました」

――今は日本の俳優さんもハリウッド映画とか海外の映画などにも出てらっしゃいますが、そういうことも考えてらっしゃいますか

「ご縁があればという感じですね」

――「SAYURI」でハリウッド映画も経験されていますし、それは大きいでしょうね

「そうですね。アメリカに行ったら絶対その話にはなりますね。結構見てらっしゃる方が多いので。やっぱり伏見稲荷大社の鳥居の中を走っているシーンが一番海外の方も印象が強いみたいです」

――あの鳥居のシーンの映像も美しくて印象的でしたね

「はい。海外の方も好きみたいです。鳥居が日本のイメージというか。時々観光客の方が千代が走っている真似をして写真を撮っているのを見かけると、多くの方の記憶に残っているのかなと思います」

――アメリカは今、日本以上に物価が高いので結構大変では?

「はい。ちょっと今はよろしくないです。ランチでも3000円とか4000円になるので。でも、海外は面白いので、またスケジュールが空いたら行くと思います」

■初めての下関ロケで“存在感の薄い女”に

6月29日(土)に公開される映画「幽霊はわがままな夢を見る」に出演。主人公は、女優になる夢に破れ東京から故郷・下関に戻ってきた富澤ユリ(深町友里恵)。仕方なく、父・昌治(加藤雅也)が経営するFMラジオを手伝うことになるが倒産寸前。さらにユリに不気味な青年(西尾聖玄)と元同級生・菊池美穂=お菊(大後寿々花)がつきまとうように…。

――いつ頃撮影されたのですか

「一昨年の冬だったと思います。山口県でロケだったのですが、私は下関に行くのは初めてだったんです。空が広くて、自然がいっぱい残っていてとても楽しかったです」

――大後さんは、ちょっと影が薄いミステリアスな役柄でしたね

「そうですね。今まで出会ったことがないタイプの役でした。最初に監督さんが『幽霊っぽさは欲しい』とおっしゃっていて。『もしかして“お菊”は幽霊なんじゃないか?という感じがするように』とおっしゃっていました」

――学生時代、お菊はユリにいじめられていて、それが原因で自殺してしまったのかなと思いました

「そう思いますよね。スーッと現れて影が薄くて(笑)。衣装も白くてフラーッという感じだったので。お菊は本当に人間なのか、本当は存在していないのか、と疑いたくなるシーンがいくつかあって面白かったです」

――大後さんは子役時代から、いじめられたり、いたぶられたり…という設定の役柄が結構多いですね

「そうですね。よくいろいろな人から『かわいそう』って言われることが多いんですけど、今回は結構仕返しというか、言い返していたので面白かったです。いじめたユリは覚えていなくても、いじめられたほうはガッツリ根に持っているタイプの女の子で忘れない。本当にいじめられた方は忘れないんだなあって」

――今回は声も変えていましたね

「はい。ちょっと低めにして、ボソボソという感じのしゃべり方にしました」

――ラジオのスタジオのマイクの前で話しているシーンは、ヘアスタイルとメイクの雰囲気も全然違っていましたね

「ラジオドラマのシーンですね。髪型に関してはいろいろ話し合いました。髪を片方だけ耳にかけるか、かけないか、両耳にするか…とか。全然違って見えたなら良かった。皆さんのおかげです。私は現場に行って、用意していただいたお衣装を着て、メイクさんにヘアメイクしていただいて現場に入るだけなので、本当に皆さんと作るという感じの方が強いと思います」

――下関では撮影の合間はどのように過ごされていたのですか?

「撮影の合間は、地元の方に聞いてラーメンを食べに行ったり、市場の近くでの撮影があったので、市場を覗きに行ったりしていました。

(主演の)深町さんが下関出身の方だったのでいろいろ教えていただきました。私はずっとホテルに滞在だったんですけど、ホテルからここに行ったらショッピングモールが…とか教えていただきました。

あと、下関の駅と、それこそ市場で撮影が終わった後とかは、どの方面に行ったらご飯屋さんがあるかとか、どの方面に行ったら神社があって…とかも教えていただいて行っていました」

――今後はどのように?

「私は映像が好きなので、これからも映像をやっていきたいです」

――ジャンルとしては何かありますか

「最近はお母さんの役も何度かやらせていただいていて面白いです。考えてみれば、結婚して出産してお母さんになっている友だちもいるので、私も同じように年を重ねているんですけど、自分の中ではその感覚があまりなかったので、『うわーっ、私小学生の子どもがいるお母さん役をやっている』みたいな。

だから、何か自分の想像を超えた年齢の役だったりとか、そういう役柄設定だったりとかもあったりするのかなって。自分で計画を立てるというよりは、予想外のところから自分の役の幅を改めて知ることになったりするので、出会いを楽しみたいと思います。お母さんになったかと思えば、逆に制服を着た時もあったりとか…いつまでイケるかなって(笑)」

茶目っ気タップリの笑顔に子役時代の姿が重なる。子ども時代からの成長の軌跡が作品として残っている。演じる役柄の幅も広がり、今後のチャレンジも楽しみ。(津島令子)

ヘアメイク:木戸かほり

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