「本末転倒に」NATO“拡大阻止”のはずが…北欧2カ国が加盟申請へ 専門家解説[2022/05/16 23:30]

ロシアが侵攻を開始してから2カ月半。ウクライナ軍は、東部で反撃を続けています。ここまでの戦いは、
アメリカやNATO(北大西洋条約機構)を始めとする国々の武器支援があってこそです。

NATO、ジョアナ事務次長:「ロシアによる残虐な侵略は勢いを失いつつあり、我々の支援があればウクライナは勝つことができる」

イギリス国防省の分析では、ロシア軍の地上兵力はすでに3分の1が失われた可能性が高いということです。

ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「占領者は追い込まれ、“特別作戦”が失敗していると認めたくないようだ」

ロシアが侵攻を始めた大きな名目の一つは「NATOを拡大させないこと」。ですが、その真逆の方向へ、国境1300キロを接する国が動き始めています。

フィンランド、マリン首相:「今のロシアは、ほんの数カ月前ともはや別物です。侵攻ですべてが変わり、ロシアを隣にして平和な未来を信じることはもうできない」

18日にも正式に加盟申請に踏み出す、北欧フィンランド。冷戦後、EU(ヨーロッパ連合)には加盟したものの、軍事同盟であるNATOには加盟せず、大国ロシアを刺激しないようにしてきました。

状況が変わり始めたのは、2014年のロシアによるクリミア侵攻。それでも関係国との連携強化で乗り切ろうとしてきましたが、今回のさらなる暴挙に、危機感は限界を超えたようです。

フィンランド、ニーニスト大統領:「民意・政党・政府・議会それぞれは、わが国の民主主義の強さを示した。きょうという歴史的な日を迎え、わが国の安全保障は最大限強化される」

長年“中立”の立場を支持してきた世論も、この侵攻で一変しました。NATO加盟を求める声は増え続け、いまや80%近くの人が加盟を支持しています。

フィンランド国民:「父は『今にもロシアが来るぞ』といつも言っていて『1940年代じゃないし、落ち着いて』と返していた。それでも父は『いやいやロシアはいつ来るか分からないぞ』と。父は正しかったのですね」「ロシアは“力”しか尊重しない。『目には目を』です。NATOに入れば、私たちはその力を手にできる」

同じく中立を保ってきたスウェーデンも加盟に向けて動き出しました。

スウェーデン、アンデション首相:「現状を見ると、NATO加盟が必要という結論にたどり着きます。一つの時代が終わり、新たな時代に入る。安心して新時代を迎えましょう」

加盟申請を行うことで、野党とも意見が一致したといいます。17日から訪問するフィンランドのニーニスト大統領と、加盟申請のタイミングを話し合うとみられます。

北欧2カ国の加盟申請が実現すれば、ロシアの西側の国境はほぼNATOの加盟国で埋められることになります。入っていないのは、侵攻を受けるウクライナと、当初からロシアを支持するベラルーシだけです。

ロシア国民:「NATOにチャンスはないと思う」「(NATO入りたい)国々には、やりたいようにさせればいい。どこもロシアに指図はできない」

ロシア国民の受け止めは冷ややかですが、プーチン大統領にとっては、とても許せるものではありません。16日、ロシアが主導する軍事同盟の会合が開かれました。

ロシア、プーチン大統領:「NATOの拡大について、これは『人工的に』作られている問題だ。皆さんに報告したいのは、ロシアは、これらの国とは問題はないということ。だから、加盟による直接的な脅威はロシアにはない。だが、軍事インフラのこの地域への拡大という点では当然、我々は対応することになる」


◆ロシア情勢が専門の防衛省防衛研究所、兵頭慎治さんに聞きます。

(Q.フィンランド、スウェーデンの動きに対して、ロシアはどう出てきそうですか?)

ロシアは政治的には相当強く反発するでしょうが、2カ国のNATO加盟を阻止することはできないと思います。短期的には、ロシアはフィンランドへの圧力を始めています。5月12日にフィンランドがNATO加盟を表明した翌日には、ロシアは代金未払いを表向きの理由に、フィンランドへの電力供給を停止しています。引き続き、2カ国が正式にNATOに加盟するまで、政治的・経済的な圧力、場合によっては軍事的な圧力を続けていく可能性があります。

(Q.2カ国がNATOに加盟すると、ロシアとNATOで国境を接する地域が増えますが、どういった影響が考えられますか?)

フィンランドがNATOに加盟すると、共有する国境が1300キロ増えます。この国境線をめぐる軍事的な緊張が高まる可能性があります。ロシアが危惧するのは、国境近くへの攻撃的な兵器、戦術核の配備です。逆にロシアがフィンランドとの国境付近に、核を含めた軍事力を配備する可能性もあります。フィンランドとロシアの国境のみならず、ロシアは飛び地のカリーニングラードに核を配備する可能性をちらつかせています。カリーニングラードはバルト海も含めて、NATO加盟国に完全に包囲された形になるので、地政学的にも追い込まれた形になります。2カ国が加盟すると、ロシアは何らかの軍備増強に踏み切らざるを得ないと思います。

(Q.ロシアはウクライナ侵攻の名目の一つに『NATO拡大阻止』を挙げてきました。本末転倒になっていませんか?)

その通りだと思います。軍事侵攻は、ウクライナがNATOに入らないことが一つの目的でした。結果的にNATOを引き寄せ、NATO加盟国と接する国境が増える、カリーニングラードが完全に包囲される状況を作ってしまいます。これがロシア国内のどう受け止められるのか。プーチン大統領は国内に『NATOに追い詰められている』と散々説明してきました。プーチン大統領の行動でNATOを引き寄せたことに対して、将来的にロシア国内で反発の声が上がる可能性があると見ています。

(Q.軍事的中立を保ってきた2カ国のNATO加盟で、今後ヨーロッパの安全保障のバランスはどう変わりますか?)

2カ国が加盟すると、ロシアとNATOの間の“緩衝地帯”がなくなり、直接対峙することになります。冷戦時代までは行かなくても、対立の構図が強まり、境界線をめぐって軍事的な緊張が高まっていく可能性があります。ロシアも独自の集団安全保障条約機構をもっているので、それを強化していく可能性もあります。

(Q.プーチン大統領はCSTO(集団安全保障条約機構)首脳会談で『どのように反応すべきかは、どのような脅威がもたらされるかに基づいて決定すべきだ』と述べました。どう分析しますか?)

CSTOでのプーチン大統領の発言をみると、ウクライナへの軍事侵攻に対して、CSTO加盟国から賛同を得たいという思いがにじみ出ていたと思います。ただ、政治的には賛同する姿勢を見せると思いますが、ベラルーシも含めて軍事協力は行わないとみられます。プーチン大統領は『フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は我々への直接的な脅威とはならないが、軍事インフラの領土的な拡張は我々の“反応”を招くことになる』と言明しています。核を含めた攻撃的な兵器がフィンランド・スウェーデンに配備される、NATO軍が常駐するといったことを想定して、2カ国のNATO加盟をけん制する強い姿勢が読み取れます」

(Q.旧ソ連を中心としたワルシャワ条約機構のような結びつきになりますか?)

現在のCSTOはロシアを中心とした旧ソ連の6カ国の軍事協力機構ですが、ロシアが一方的に軍事力を持っていて、ロシアが5カ国に安全を供与する仕組みでもあって、この6カ国が結束してウクライナへの軍事侵攻を支えることにはなりません。それでもCSTOにすがるしかない、協力・賛同を求めざるを得ないという、プーチン大統領の厳しい立場を表していると思います。

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