国民の9割「辞任歓迎」ジョンソン英首相辞意の“決め手”と“破天荒ぶり”を解説[2022/07/07 23:30]

イギリスのジョンソン首相が7日、辞任を表明しました。

ジョンソン首相:「保守党の議員は新党首、つまり新首相が必要だと考えました。私は新しいリーダーを選ぶ手続きを始めるべきという考えに同意します。新たに閣僚を選び、新しい党首が決まるまで首相を努めます。私がこの数日、必死に皆さんの負託に応えようとしてきたのは、私がそうしたかっただけでなく、それが私の役目であり、皆さんに対する使命であり、責務であると感じたからです。新型コロナのパンデミックからの脱却、ヨーロッパ最速でワクチン接種開始、最速でロックダウン解除。この数カ月、西側諸国を率いてプーチンによるウクライナ侵略に対抗してきました。ウクライナの皆さんへ。イギリスはウクライナが自由を求める戦いを終えるまで支援を続けます。誰が新党首になろうとも、最大限の協力を約束します。国民の皆さん。なかには安心した方も大勢いるでしょう。恐らく多くの方が失望したでしょう。世界最高の職を手放すことをとても残念に思っています。国民の皆さんからは大きな栄誉を頂きました。新首相が決まるまで、国民の利益は守られ、政府は継続します。今は暗く見えることがあっても、国民が結束すれば、未来は必ず輝くはずです」

1日前は、辞任を強く否定していたジョンソン首相。しかし、すでに“辞任は避けられない”という見方が濃厚でした。

政権転覆を引き起こしたのは、2つのスキャンダルです。

1つは、国中がロックダウンし、屋内での集会が禁止されている最中のパーティー。

ジョンソン首相:「2020年5月20日夕方6時過ぎ、私はスタッフに感謝を述べ、25分後に職務に戻りました。仕事上のイベントだと思っていた」

苦しい釈明が続き、高まる辞任の声。先月、与党保守党は、ジョンソン首相に対して信任投票を行うことに。身内の4割以上が不信任票を投じましたが、この時はなんとか窮地をしのぎました。

ほっとしたのもつかの間。ピンチャー与党院内副幹事長の痴漢疑惑を現地メディアが報じました。

この事実を知っていたうえで役職に任命したのか。ジョンソン首相の任命責任が問われ始めます。

当初、首相側は“何も知らなかった”と説明し、閣僚たちもメディアに出演するたび、擁護の姿勢を取ってきました。

コーフィー労働・年金担当相:「私の知る限り、首相はクリス・ピンチャーに対する具体的な批判内容を関知していなかった」

クインス教育政務次官:「昨晩とけさ、首相官邸に回答を求めると、彼を任命した時点で何か具体的な批判や苦情が出ていることは、首相は関知していなかったという疑いの余地のない答えが返ってきた」

その潮目が急に変わります。ジョンソン首相自ら“何も知らなかった”という説明を翻したのです。

ジョンソン首相:「2年半ほど前、ピンチャー氏の苦情について報告を受けました。今思えば、私がそのことに対応しておけば良かったと思います。彼はその後も悪質なふるまいを続けていたからです」

この変遷が引き金となり、この2日間で閣僚や政府高官、合わせて60人近くが辞任する事態に。最終的に辞任ドミノは、自分にもふりかかった形です。

ジョンソン首相は7月24日で、就任から3年という節目でした。

その破天荒な言動ゆえに、批判されることも多かった半面、熱狂的な支持者も多くいました。

自らも旗振り役だったEU離脱の完遂。それ以外にも、肥満対策のため2700億円かけてサイクリングコースを整備したり、最初は“後手後手”だと批判されたコロナ対策も、世界でも最も早くワクチン接種を開始するなど、評価される政策も多くありました。

ウクライナ侵攻後、先進国首相のなかで最も早く首都キーウを訪れたのもジョンソン首相でした。

ジョンソン首相:「この数時間、この国の美しい姿を見ました。素晴らしい国です。一方で、戦争の悲惨な部分も目にしました。許しがたい戦争です。必要のない戦争です」

ウクライナの大統領府顧問は感謝のメッセージを出しました。

ウクライナ、ポドリャク大統領府顧問:「ジョンソン氏は、すぐに物事の本質を理解していた。侵攻を小さな紛争とみなさなかった。私たちはウクライナを効果的に防衛するために必要なすべて、武器やパートナーシップを手に入れました。ジョンソン氏のおかげで、勝利はウクライナの未来を象徴するものだと分かりました」

ジョンソン首相は今すぐ辞任というわけではなく、10月の党大会までは続ける予定です。

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ジョンソン首相の支持率は、おととし9月からマイナスでしたが、去年の春以降、新型コロナのワクチン接種を進め、ロックダウン解除に向かっていく間はプラスでした。

その後、再びマイナスに転じ、去年12月にパーティーの問題が発覚してから、一気に支持率が落ちました。

いったん、ロシアによるウクライナ侵攻で、ジョンソン首相が存在感を示したことで持ち直しましたが、それも長くは続きませんでした。

支持が低迷するなかでの辞任の表明となりました。

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◆ロンドンにいる大平一郎支局長に聞きます。

(Q.ジョンソン首相の辞任表明について、国民はどのように受け止めていますか?)

現在、オンラインで緊急の世論調査が行われていて、ジョンソン首相の辞任を「歓迎する」と答えた人が90%に上っています。さらに、暫定の首相を立ててでも、ジョンソン首相は「即刻辞任すべき」だと考える人は70%以上に上っています。

ジョンソン首相にとって、即刻辞任は何としても避けたいということで、空いた閣僚などの穴埋め作業を急ピッチで進めていると考えられます。

私は約3年前、官邸の就任演説を取材しました。当時、ジョンソン首相は「民主主義の信頼を取り戻す」と声高らかに宣言していましたが、結果的には真逆の結末になってしまいました。

(Q.なぜこれほどまでに辞任の大合唱になったのでしょうか?)

再び嘘をついた形になったことで、完全に信頼を失い、同僚議員の反発を招いたのだと思います。これまでもジョンソン政権はスキャンダルを連発していました。

特に、ロックダウン中に官邸で行わたパーティーをめぐっては、ジョンソン首相が事実と異なる証言をしたとして、党内からも「嘘つき」という批判が上がりました。

ジョンソン首相は「良い経験になった。二度と同じ過ちは繰り返さない」としましたが、再び約束を破って堪忍袋の緒が切れてしまったのだと思います。


(Q.ジョンソン首相は、ウクライナ問題に積極的に取り組んできました。辞任で、どのような影響が出てきますか?)

世界から見ると、イギリスはウクライナ支援に積極的と映っているのは事実です。ただ、国内ではジョンソン首相のウクライナ支援に対し、冷ややかな目線もありました。

スキャンダルが持ち上がるたびに、ジョンソン首相がウクライナを訪問したり、ゼレンスキー大統領と電話会談をしてきました。

官邸は偶然だと言っていますが、スキャンダル隠しという見方は根強くありました。イギリスの政治の混乱が、ウクライナだけではなく、物価の急上昇などの問題にどう立ち向かうのかという懸念が渦巻いている状況です。

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