「蘇生の可能性ないと知りながら…」救急医らが涙で語る“救助と絶望”梨泰院事故[2022/11/01 23:30]

韓国・ソウルで起きた密集事故の死者は1人増えて、156人となりました。

当事者の証言などから明らかになってきたのは、圧迫のすさまじさと、事故が発生した道路の構造的な問題でした。

ソウル市内の体育館には、現場に残された洋服などが集められました。

バッグと上着を引き取りに来た女性は、坂の真ん中に取り残されたといいます。

事故に遭った女性:「気を失って覚えていないのですが、坂の真ん中にいたそうです。上がってくる人と下りてくる人に両方から押され続けて、何もできませんでした」

「事故は未然に防げたのではないか」という声が、日に日に高まっています。

坂の中腹にあるホテルの壁は、1メートルほど増築されていて、道路の道幅は狭くなっています。

数年前の画像を見てみると、建築物があり、2016年に区役所からの指摘を受け、撤去されました。

その後、そこをふさぐような形でピンクの壁が設置されました。

問題は、この壁があることで、建築法上4メートル以上でなければならない道幅が、3メートルほどと狭くなったこと。

現地メディアによりますと、坂の中腹5.7メートルの間に最も死傷者が集中していて、300人以上が倒れていたといいます。

畳10畳くらいの広さに、6〜7重にも折り重なっていたといいます。

現場の坂路へとつながる、メインストリートでも問題が発覚しました。

メインストリートは道幅が広くなっていますが、現場に近付くに連れて、徐々に道幅が狭くなっています。

通りにはみだしている、ホテルのテラスや、今回のハロウィンのために建てられた入り口はどちらも、地元メディアによりますと、違法に設置されたものだということです。

こうした構造物が、さらに過密な状況を生んだ可能性があります。

現場近くの住民:「人混みに流されて、お客さんが店に入れないから、入り口を囲ったのではないか」

ホテルのテナントが設置したテラスについては、去年、区が違法建築で摘発していました。

ところが撤去されずに残っていたといいます。

当時、坂の上の道を歩いていた女性は、あるきっかけを発端に、一気に押されたと訴えます。

女性:「突然、男たちが横一列に並んで『押せ』と声を上げた。その瞬間、前に進もうとした人たちが、坂道の方に押されていった。妹と手をつないでいたけど、妹は坂道に押されていった。私は壁の角につかまり、巻き込まれなかった」

「何者かがわざと押したのではないか」との声は、当初からSNSなどに上がっていました。

ソウル警察庁も、そうしたSNSや付近の防犯カメラ、52台を分析しているといいます。

当時、ただごとではない様子に、多くの人が救助に加わりました。

近くで食事をしていた、イム・ジュンギュさん(65)も、その一人。

イム・ジュンギュさん:「子どもたちが『助けて助けて』と。そして、その子がここをつかんだ。ここにつかまれと言ったら、1人は腕が伸ばせなかったから、指でギュッとつかんだ。隣の子も『助けて』と言ったが、どうしようもない」

現場に3番目に到着した、チェ・ハンジョ医師(43)です。

チェ・ハンジョ医師:「すでに修羅場でした。経験したことない状況で、車では入れず、救急カバンを持ち、歩いて向かった」

最初の通報から30分後、救急病院に一斉に出動要請が入ります。

現着してすぐに、女性の心肺蘇生を行ったのですが。

チェ・ハンジョ医師:「気管挿入をする時から、のどに血がたまった状態で、蘇生の可能性がないと判断し、他の人を助けに行こうとしたが、隣にいた男性が『自分の妻だ』と。だから途中でやめることができなかった。意味がないと知りながら続けるしかなかった」

多くの人が助けを求めていても“生かせる人を先に助ける”と決断せざるを得ません。

当時、履いていた靴には、今も血の跡が残ります。

チェ・ハンジョ医師:「きのう見たら、ついていました。まだ拭き取っていません」」

事故発生から1時間以内に撮影された映像には、救急車が到着しているにもかかわらず、踊り続ける人々が映っています。

多くの医療チームが現場に近付けない状態だったといいます。

チェ・ハンジョ医師:「あの災難が起きた時、周りの人を見て衝撃を受けた。人が死んでいくそばで、酒を飲みながら、ただ見ていたのです。あのような事態が起きた時は、呼び掛けに協力できたらいいのに」

医師免許を持つ国会議員、シン・ヒョニョンさんは、患者をどの病院に振り分けるか手伝いました。

共に民主党議員、救助活動を行った医師、シン・ヒョニョンさん:「現場の指揮官が搬送すべき人を搬送し、救急手当が必要な人を処置する。人員を適材適所に配置することが最も重要です。完璧な救急体制はなく、常にマニュアルに従って準備ができていたのか、必ず確認する必要があります」

こちらも読まれています