習主席のロシア訪問 中国は世界の仲介役になれるのか―針の穴を通すような交渉の行方[2023/03/19 11:00]

中国の習近平国家主席が20日から22日にかけてロシアを国賓訪問する。習主席にとってウクライナ侵攻以来、ロシアへのはじめての訪問となる。
習主席が宿泊するとみられるホテルは、18日には外交使節団以外の立ち入りが禁止されるなど、厳戒態勢が敷かれ、モスクワでは着々と準備が進められている。

中国は、ウクライナ危機を巡り先月「和平案」を提示し、仲介の姿勢を見せている。
今回の訪問で、事態はどう動くのだろうか? 会談のポイントとは?

■ロシアも中国も「戦争」に言及せず―本気の交渉の裏返しか?

「ロシアと中国の包括的パートナーシップ関係と戦略的協力のさらなる発展に関する議題について話し合う。多くの重要な二国間文書が署名される――」

中国の習近平国家主席の訪ロに関するロシア大統領府による発表だ。
中国側の発表でも「両国間の信頼を深めることが目的」だと説明している。
奇妙なのは、ロシアも中国も公式発表で「ウクライナへの侵攻」について一切言及していないことだ。

中国は2月24日にウクライナ危機をめぐり「和平案」を発表するなど仲介に前向きな姿勢を示している。
にもかかわらず、侵攻について直接言及しないのは不自然だ。

習近平氏は、ウクライナ問題について結果が見通せないような本気の交渉をしようとしているのではないだろうか。

■立場が弱いロシアと強い中国による“格差交渉”

プーチン大統領は一方的な併合から9年となる18日にクリミアを訪問して、死守する意志を示した。強硬な姿勢を崩さない一方で、いま、ロシアは中国に対して非常に弱い立場にある。
プーチン大統領は昨年末からしきりに習近平氏にモスクワに訪問してほしいとラブコールを送り、ロシアの外交プロトコル上、最高レベルの待遇で習氏を招くこととなった。

クレムリン関係者によると、訪問は4月や5月以降だとみられていた。
それが3月という早いタイミングになったのは、経済を含めて追い詰められているロシアが、粘り強く要求し続けた結果だという。
つまり予想以上に早いタイミングでの招待は、ロシアがいかに追い詰められているかを表している。

西側の制裁により、ロシア経済を維持していくためには中国からの支援が不可欠だ。
特にマイクロチップなどの技術製品を中国から購入できなくなれば、ロシア経済は深刻な打撃を受けることになる。
また、欧米への販売先をほぼ失ったエネルギー資源も、安い値段でも中国に大量に購入してもらうことが外貨獲得の手段となっている。
クレムリン関係者によれば、プーチン氏の最大の関心は、中国がどこまでロシアを支え続けてくれるかということだという。

逆に中国はロシアに対して様々な交渉が行える強い立場にある。
例えば、プーチン氏に「核兵器を使用すれば今後、一切の支援は行わない」などと迫ることで、ロシアによる核の使用や脅しに歯止めをかけることもできる。

中国はロシアをコントロールできる立場にあり、いまこの立場にある国は、世界で中国だけだろう。
今回の訪問で、習氏がこの立場を最大限に利用して、プーチン氏のコントロールに成功すれば、ウクライナとの交渉を開始するきっかけになりうる。うまくいけば、それは世界で中国の立場を圧倒的に高めることにつなげられる。

■中国主導による和平 アメリカは早速懸念表明

習近平氏の訪ロの発表を受け、アメリカは早速、国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官が17日、中国はロシアを利する形での仲介を行うだろうと指摘し、中国が仲裁役となることに「深い懸念」を示した。

中国が自らの影響力を最大限に生かせる形での着地点を探る場合、交渉案でウクライナのゼレンスキー大統領が、受け入れられるような交渉の下地を作ることは可能なのだろうか?

その意味で、プーチン氏との会談の後に予定しているとされる、ゼレンスキー大統領との交渉で、習近平氏がどのような提案を示せるかが、今回のロシアへの外交の成否を握ることになる。

■世界の仲介役として存在感を示す中国

習近平氏は、欧米が行き詰まったタイミングで、サウジアラビアとイランの仲介に成功させている。

今は、欧米がロシアとの対話の糸口を完全に見失ったタイミングだとも見えなくもない。
18日にはパリで、ウクライナ支援に反対するデモが行われた。ロシアの国営メディアはその規模は数千人にのぼると報じている。
一概には判断できないものの、西側の「支援疲れ」も見え隠れする。
こうしたタイミングを利用し、プーチン氏と過去10年でリモートも含めて40回の会合を重ねている習近平氏が難しい交渉をまとめていく可能性は十分にある。

仮に中国主導による停戦交渉が始まった場合、欧米がロシア・ウクライナで主導権を失うことにつながりかねず、これまで欧米と歩調を合わせてきた日本へのインパクトは大きい。
今回の習近平氏の訪ロは、日本を含めた西側諸国の対応も試されることになる。


ANN取材団

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