「プーチン政権後」にらむ?プリゴジン氏の支持急上昇 地方行脚は「政治的思惑か」[2023/06/07 17:00]

ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が、ロシア国内で勢いを増している。1カ月前、「弾薬はどこにあるんだ!」とロシア軍幹部を名指しで批判した、あの人物だ。

ロシア各地を訪問し、住民を前に演説。「誰かが真実を述べる必要がある」として軍部や政権批判を繰り返した。政界進出の可能性も示唆し、野党「公正ロシア」に接近する動きも…。

「大下容子ワイド!スクラブル」に出演した元テレビ朝日 モスクワ支局長の武隈喜一氏はプリゴジン氏の行動について「プーチン後も見据えた動き」だと解説する。その狙いとは。

■ ロシア国内で高まるプリゴジン人気

5月31日、ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が、「最も信頼できる政治家」を尋ねた世論調査の結果を発表した。
1位 プーチン大統領(42%)
2位 ミシュスチン首相(18%)
3位 ラブロフ外相(14%)
4位 ショイグ国防相(11%)だった。
そして5位に入ったのがプリゴジン氏(4%)。
上位10位に入ったのはこれが初めてだ。政治家ではないにも関わらず、メドベージェフ前大統領と肩を並べたのだ。

国内でのプリゴジン支持について、武隈喜一氏は他の政治家たちとは違う人気があるとみている。
「プリゴジン氏は、ほとんどロシアのテレビに出ていない。激戦地バフムトを取ったというのも、ロシア国内ではロシア国軍が取ったと報道されていて、プリゴジン氏が率いる『ワグネル』というのは日陰者のように扱われています。
その中でも人気が出ているというのは、彼のブログがよく読まれていることや、SNSの更新を頻繁に行っていることなどがあると思います」。
ネットやブログのフォロワーは46万人に及ぶという。

また武隈氏は、プリゴジン氏がロシア国内で支持されるもうひとつの理由をこう説明した。
「一番大きいのは、自分の身を危険な場所に置かず、甘い汁だけを吸って、戦争を食い物にしている人たちがたくさんロシア国内にいるということです。それはロシア軍部の中にもいるんだということを、プリゴジン氏は正面をきって言う人物。それを支持する国民はいるんだろうと思います」。

■地方行脚は政治的野心の現れなのか

プリゴジン氏が率いる「ワグネル」は、5月25日、激戦地バフムトからの撤退開始を宣言した。
その後、30日から31日にかけてプリゴジン氏は広大なロシア国内の各地を巡り、支援者らとの集会を開いている。
西部のニジニノブゴロド、中部のエカテリンブルク、ノボシビルスク、極東のウラジオストクを回るというハードなスケジュールだ。

集会でプリゴジン氏は、「すべてがうまくいっている」といった宣言を繰り返す軍部やプーチン政権に対し、「将軍たちに防弾チョッキを着せて、最前線に送り出せばいい」などと厳しい批判を繰り返した。
また集会では、記者から政界入りの可能性についての質問も投げかけられた。これについてプリゴジン氏は「我が国が荒れ果てて、映画『マッドマックス』のように車で追いかけ回されたりするようなら、その可能性はあるかもしれない」と政界進出に含みを持たせた。

プリゴジン氏が「地方行脚」を行う思惑はどこにあるのか?武隈氏は訪れた都市にポイントがあると言う。
「今回行っている都市は地方の大都市で、これは大統領選挙で候補者が最初に回る都市です。その重要な都市を回り、記者を集めて集会をするというのは、本人が否定しても政治的な思惑があると見ざるを得ない」。

■国政政党に接近も プリゴジン氏の狙いは?

ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は「プリゴジン氏はロシアの野党『公正ロシア』を掌握したいと考えている」と報じた(4月11日)。
「公正ロシア」は、2006年に設立された政党で、ロシア国内では与党「統一ロシア」、共産党に次ぐ、第3党だ。
また「公正ロシア」とプリゴジン氏の関係について、「党首は自身を守る人物を必要としている。一方でプリゴジン氏は既存の政党で主導権を掌握したいと考えている」とも伝えている。

「既存の政党で主導権を掌握したい」とはどういうことなのか?武隈氏は、プリゴジン氏の今後を見据えた動きだとみている。
「プリゴジン氏が党首になることや、政党を立て直そうという意味ではないと思います。プリゴジン氏というのは、政治的な立場や公的な立場がない人。そういう状況からすると、今後のプーチン政権が倒れたあと、ウクライナ戦争のあとを睨んで、なんらかの自分の政治的土台というのに片足を置いておきたいという動きだと思います」。

政治的にも法的にも、何の裏付けも持たないプリゴジン氏は、様々なシナリオに備えているのだと武隈氏は考えている。
「プリゴジン氏は先を読んで行動しているのだと思います。
もしロシアが内戦のような状態になれば、ワグネルの軍事力を持って対応する。もしプーチン政権が倒れ、次の政権になったときには、今度は政界に出ていって、自分の立場とかワグネルの立場を守って広げたいのだと。プラットフォームをたくさん持って、どういう状況になっても権力を維持していける体制をいまから準備しているのだと思います」。

(2023年6月6日放送 「大下容子ワイド!スクランブル」から)

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