「危ない橋」がいっぱいの米国 「来るものが来た」とおびえる市民 崩落で6人死亡か

[2024/03/28 07:00]

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 米国では旅行メディアが、全米の橋の安全度を特集することが多い。「最も危険な橋」などと刺激的な見出しが付けられるが、こうした特集は「怖いもの見たさ」から多くの読者の関心を引くという。

 というのも、全米には「危険な橋」が身近に多くあるからだ。米連邦高速道路局(FHA)によると、米国には約61万4000の橋があり、この約40%が平均的な耐用年数である50年を過ぎても十分な補修がないまま使用されているという。このうちFHAが「劣悪な状態」と考えているのは約4万2000もある。
(テレビ朝日 デジタル解説委員 名村晃一)

開通から47年 検査では「まあまあ」の分類が悲劇に

 米東海岸のメリーランド州ボルティモア港に架かるフランシス・スコット・キー・ブリッジの崩壊は大型タンカーが橋脚に衝突したことが原因だが、米国民にとっては、橋の改修工事が進まない中、「来るものが来てしまった」という気持ちにさせる事故だった。

 フランシス・スコット・キー・ブリッジは1977年に架けられた。開通から47年で、老朽化の基準となる「50年」には達しておらず、2021年5月のFHAの検査では「良好」と「劣悪」の間の「まあまあ」状態と分類されていた。

 それでも構造的に問題があったのではないかという疑問が米国民の間に沸き起っているのは、フランシス・スコット・キー・ブリッジが架けられた3年後にフロリダ州タンパで大規模な橋の崩落事故があったからだ。

 1980年5月9日、悪天候で視界がゼロに近い中で航行していた貨物船が、タンパ湾に架かるサンシャイン・スカイウェイ・ブリッジに衝突した。橋は崩落し、長距離バスを含む車両7台が水深40メートルの湾内に転落し、35人が死亡した。今回のボルティモアでの崩落事故に酷似している。

 タンパではその後、7年かけて新しい橋が架けられた。この事故をきっかけに、米国では船舶の衝突による衝撃を軽減するための橋脚保護基準が強化された。

 26日に崩壊したフランシス・スコット・キー・ブリッジは、最新の規制が適用される前に建設されている。年間の車両交通量は約3500万台に上る。1980年代後半に改修工事が行われていたが、タンパでの崩落事故を受けた新基準を満たすための大規模改修は行われなかった。

すべて改修に18兆円以上が必要 分かっていても手付けられず

 米国で「危ない橋」が放置されているのは、修復するのに莫大な資金が必要だからだ。米国土木学会の試算によると、全米の橋をすべて修復するためには1230億ドルが必要だという。1ドル=150円で換算すると18兆4500億円となる。「危険な橋」は承知していても、米政府といえども簡単に手を付けられる事業ではない。

 バイデン政権はインフラ投資の看板政策である「米国雇用計画」の中に、老朽化した橋の架け替えに補助金を拠出することを盛り込んでおり、「危険な橋」問題を緊急の課題として取り組む姿勢を示している。ボルティモアでの事故直後にバイデン大統領が、橋再建のための巨額費用を連邦政府が負担することを表明したのも、「危険な橋」の現状を意識してのことだ。

荷揚げ船は北上 心配するニューヨーカー「大動脈は大丈夫か」

ニューヨークに架かるジョージ・ワシントン・ブリッジ=ロイター/アフロ
ジョージ・ワシントン・ブリッジはニューヨーク・マンハッタンに入る大動脈だ=筆者撮影

 ボルティモア港は東海岸の物流の要でもある。港に入れなくなった他の大型タンカーなどは、今後、荷揚げのためにニューヨークなどの拠点港に向かうことになる。

 ニューヨークには、ハドソン川の河口近くにかかる1931年開業のジョージ・ワシントン・ブリッジがある。ニュージャージー州側からニューヨーク・マンハッタンに入るための大動脈で、交通量は極めて多い。映画などにも度々登場する日本人にもなじみのある橋だ。

 フランシス・スコット・キー・ブリッジが崩壊した瞬間の映像をニュースで何度も見たニューヨーク市民はジョージ・ワシントン・ブリッジの下を航行する船舶が増えるのではないかと恐れている。

 ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社は荷揚げのための船舶が増えるための準備を進める一方で、「大型タンカーはジョージ・ワシントン・ブリッジの下は通過しない。同じくマンハッタンの東側のイースト川に架かる橋の下も通過しない」と強調し、市民の不安解消に躍起だ。

  • 2021年5月の米連邦高速道路局の検査では「まあまあ」と判断されたフランシス・スコット・キー・ブリッジ=ロイター/アフロ
  • ニューヨークに架かるジョージ・ワシントン・ブリッジ=ロイター/アフロ
  • ジョージ・ワシントン・ブリッジはニューヨーク・マンハッタンに入る大動脈だ=筆者撮影
  • 崩落したフランシス・スコット・キー・ブリッジ=NTSB/ロイター/アフロ

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