専門家「関係改善は厳しくなる」演説から読み解く中台関係 台湾新総統に頼清徳氏

[2024/05/20 23:30]

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台湾の新たな総統に民進党の頼清徳氏(64)が就任しました。かつては、自らを「台湾独立の工作者」と表現したこともありますが、20日の演説では「中国の脅威から台湾を守る」と宣言。早速、中国側は反発を強めています。

■警戒感も 対中関係は“現状維持”

新たな4年の始まりです。宣誓は孫文の肖像画の前で行われます。

台湾 頼清徳新総統
「私は必ず憲法を遵守し、職務に尽くし、人民の福利を増進し、国家を守り、国民の期待を裏切りません」

先の選挙で選ばれた、医師であり元台南市長でもある頼清徳総統。中国と距離を置き、親米路線を掲げる民進党が政権を担うのは、これで3期連続となります。演説で強調した中国との関係は、蔡英文政権の踏襲「現状維持」でした。

台湾 頼清徳新総統
「傲慢でもなく卑屈でもない、現状を維持します。(1)国防の力を強化、(2)経済安全を構築、(3)台湾・中国の両岸におけるリーダーシップの発揮、(4)世界との価値観外交を推進し平和共同体を形成。抑止力を発揮し、戦争を回避し、実力で平和の目標を達成すべきです」

そして世界にも訴えかけました。

台湾 頼清徳新総統
「中国の軍事行為と脅迫は、全世界の平和と安定を脅かす最大の戦略的挑戦だと思われています。台湾は世界の地政学に影響を与えています。台湾海峡の平和と安定が、世界の安全と繁栄につながるのです」

その中国。不快感の表れなのか、戦闘機を防空識別圏に進入させ、軍艦を周辺海域に展開させました。

中国外務省 汪文斌副報道局長
「台湾独立は破滅の道だと、私はここで強調したい。どんな看板を持ち出し、どんな主義を掲げても、分裂を推し進めることは必ず失敗します」

■「台湾が民主世界のMVPに」

頼清徳総統は中国に対して強い表現で警戒感を示す一方、世界における台湾の位置付けはこのように表現しました。

台湾 頼清徳新総統
「台湾はアジアで初めて同性婚を合法化した国家。民主指数、自由度はアジアでのランキングはトップ1、2の評価。民主主義の台湾は世界の光となった。この栄光は台湾全人民のもの。台湾が民主世界のMVPになる」

経済に関しては…。

台湾 頼清徳新総統
「台湾は『経済の太陽が沈まない国』になる能力を持っています。台湾人民は、より豊かな生活ができるようになります」

20日の就任式には約2万人が参加しています。祝福ムードではありますが、頼清徳総統を取り巻く状況が順風なわけではありません。例えば19日は、民進党の本部が入るビルの前で、数千人単位の野党の抗議集会が開かれました。新総統就任式の前日にこういった抗議集会が行われるのは異例です。

大学生
「与党は野党とよく話し合うこと。意見を聞き、互いに協力する。反対のための反対をしないこと」

■“ねじれ”議会で少数与党

台湾の議会において、頼清徳総統が率いる民進党は与党ではありますが、過半数を占めていません。先日は議会改革法案をめぐり負傷者が出るほど衝突するなど、安定とは程遠いものがあります。また、総統選での得票も蔡英文前総統と比べると3分の2程度しかなく、有権者からの支持や求心力が高いわけでもありません。そういう部分を意識してなのか、20日の演説では…。

台湾 頼清徳新総統
「3つの党がどこも過半数席を取っていない。これは新しい視点で考えれば、与野党が互いの理念を共有し、共に様々なことに挑戦できる表れです」

台湾政治は時に若者たちが左右するとも言われます。新総統誕生をどのようにみているのでしょうか。

若者
「いつまでも現状維持してもしかたないと思う。8年間何も変わらなかったから、これからも変わらないと思う」
「(Q.有言実行できると思う)人民次第だと思います。彼の言葉が胸に刺さったら、人々は力を発揮することができる」

■演説になかった“言葉”と“配慮”

新政権になって中国との関係はどう変わるのでしょうか。中台関係や軍事問題を専門とする、東京大学・松田康博教授に聞きました。

(Q.“現状維持”ということは、中国と台湾の関係が大きく変わらないのでしょうか)

東京大学 松田康博教授
「これまで以上に関係改善は厳しくなる。就任演説に“2つの重要な言葉”がなかった」

その2つの重要な言葉というのが『中華民国憲法』と『両岸人民関係条例』です。中華民国憲法とは、中国本土も領土に含むことを前提とする台湾の憲法。両岸人民関係条例とは、国家統一を前提として、中国との人の往来のルールや法的問題の扱いを定めた台湾の法律です。つまり、どちらも“1つの中国”を象徴するキーワードですが、これを使いませんでした。蔡英文前総統は、過去の就任会見で、2つの言葉を使用しました。

東京大学 松田康博教授
「“中台は1つの中国に属する”と主張する中国側に、一定の“配慮”のため、台湾側が使用。水面下で台湾側と中国側がコミュニケーションを取れたからこそ反映できた言葉」

頼清徳総統がどちらも使わなかったことについて、松田教授はこう話します。

東京大学 松田康博教授
「1月の当選から就任までの4カ月間、水面下で頼新政権と中国側の話し合いが全くうまくいかなかったことを表す。新総統が誕生するまでの期間は、中国とコミュニケーションを図るうえで重要。このままでは今後4年間、中国とのコミュニケーションに期待を持てない」

(Q.頼新政権に対して、中国はどう動くのでしょうか)

東京大学 松田康博教授
「今後4年間で、中国はありとあらゆる方法で、台湾の頼新政権に軍事的・経済的圧力を高め、SNSを使ったネガティブキャンペーンなど含めて、徹底的に台湾内政をかき回そうとするはず」

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