米国のトランプ大統領は、ロシアのプーチン大統領との間で、ウクライナ情勢での終結に向け、交渉開始で合意したが、中国が軍事力を増強するアジアの安全保障は、どのように考えているのか。
石破総理との日米共同声明には、中国による台湾“海上封鎖”の軍事演習に反対する方針を初めて明記した。アラスカ産LNGを日本に輸入するよう持ち掛けたのも、中国の対外進出を封じ込める意図があるとされる。専門家は「米中覇権争いが激化する中、米国では日本の重要性が高まっている」と指摘する。
1) 日米共同宣言に新たな表現「台湾への威嚇に反対」 意味するものは…
共同声明では「日本の南西諸島における二国間プレゼンスの向上」「台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調」「中国による東シナ海でのあらゆる現状変更の試みへの強い反対」「南シナ海での不法な海洋権益に関する主張や威嚇的で挑発的な活動に対する強い反対を確認」などと、中国への強い批判が盛り込まれている。日米安全保障条約第5条(アメリカの対日防衛義務)が尖閣諸島へ適用されることも改めて確認された。
小谷哲男氏(明海大学教授)は、上記の内容に加え、新たに追加された「対中抑止」の内容に注目する。
まず日米で取り組むべきは、共同声明にも含まれているが、指揮統制面での連携を強化すること。それを踏まえて南西諸島での日米のプレゼンスを強化し、尖閣有事や台湾有事に備え、日米がさらに緊密に連携をして共同作戦を行えるようにしていくことが必要になる。
トランプ政権の対中政策を分析するにあたり、杉山晋輔氏(元駐米大使)は、米国全体の大きな流れを捉える必要があるとした。
2) アラスカ産LNG“輸入”要請と「対中戦略」の関係とは…
もう1つ見ておきたいのが「対中戦略」の経済分野だ。トランプ大統領は首脳会談で、「我々(日米)は極めて攻撃的な中国の経済的侵略に対抗するため、一層緊密に協力することに合意した」と発言。
共同声明では、「AIや先端半導体といった重要技術の開発における協力」「米国から日本への液化天然ガス(LNG)輸出を増加することによりエネルギー安全保障を強化する」とした。中でもLNGについては、アラスカ州北部のガス田と南部の港を1300kmのパイプラインで結び、LNGをアジアへ輸出する計画があるとしている。昨年の日本のLNG輸入の8%を占めるサハリン2より遠いものの、日本まで1週間ほどで運ぶことができるという。関係者の一人によれば、日本からの投資はアメリカの対日貿易赤字のうち、560億ドルを削減する可能性もあり、トランプ大統領が重要視している「貿易赤字」の削減にも一役買いそうだという。
LNGが「エネルギー安全保障」という言葉とセットで語られていることに関し、杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、以下のように分析をした。
サハリンのLNG決済を行うロシアの銀行は制裁対象だが、LNGの決済だけはアメリカが半年程度の例外措置を認めている。しかし、いつまでこの措置が続くかは不透明で、長期的な意味ではアメリカからLNGを購入したほうが日米の経済関係は強化される。ただ問題は、1300キロのパイプラインを引くには時間も資金も非常にかかり、コスト的に見合うのか、そして、日本の民間企業がそこで乗ってくるかどうかだ。参画するかどうかはあくまで企業判断になるので、ハードルは結構高い。石破総理の帰国後の発言を聞くと、ワシントンでのトランプ大統領の首脳会談後の前のめりの発言に比べ、実現は簡単ではないとの印象を持つ。
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3)米中覇権争い激化へ 日本は中国との関係どうする?3)米中覇権争い激化へ 日本は中国との関係どうする?
激しさを増す米中の覇権争い。米国からの対中国政策の要請が多岐に渡る中、日本はどのように中国に対応すべきなのか。杉山晋輔氏(元駐米大使)は、以下のように指摘する。
小谷哲男氏(明海大学教授)も「同盟関係に悪影響が出ない限り、米国が日中関係安定化の動き自体に反対することはおそらくない」と分析しつつ、日中関係のあり方には以下の通り指摘した。
<出演者プロフィール>
小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」の主任研究員を兼務。)
杉山晋輔(元駐米大使。外務審議官、外務事務次官などの要職を歴任。トランプ政権や米議会の要人と緊密関係を構築)
杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)
(「BS朝日 日曜スクープ」2025年2月9日放送分より)