国際

2025年2月15日 12:00

“海上封鎖”演習反対・アラスカ産LNG輸入要請?トランプ政権が打ち出した対中国政策 日本に求める“役割”は?

2025年2月15日 12:00

広告
3

米国のトランプ大統領は、ロシアのプーチン大統領との間で、ウクライナ情勢での終結に向け、交渉開始で合意したが、中国が軍事力を増強するアジアの安全保障は、どのように考えているのか。
石破総理との日米共同声明には、中国による台湾“海上封鎖”の軍事演習に反対する方針を初めて明記した。アラスカ産LNGを日本に輸入するよう持ち掛けたのも、中国の対外進出を封じ込める意図があるとされる。専門家は「米中覇権争いが激化する中、米国では日本の重要性が高まっている」と指摘する。

1) 日米共同宣言に新たな表現「台湾への威嚇に反対」 意味するものは…

共同声明では「日本の南西諸島における二国間プレゼンスの向上」「台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調」「中国による東シナ海でのあらゆる現状変更の試みへの強い反対」「南シナ海での不法な海洋権益に関する主張や威嚇的で挑発的な活動に対する強い反対を確認」などと、中国への強い批判が盛り込まれている。日米安全保障条約第5条(アメリカの対日防衛義務)が尖閣諸島へ適用されることも改めて確認された。

小谷哲男氏(明海大学教授)は、上記の内容に加え、新たに追加された「対中抑止」の内容に注目する。

軍事面では「対中抑止」、とりわけ台湾有事の抑止こそ、米国が最も目指している。ただ、アメリカ一国ではもはや非常に難しいため、日本を含めた同盟国のさらなる協力が必要ということだ。この一連の文言の中で最も注視すべきは、台湾海峡について「台湾に対する威圧に反対する」という表現が今回、初めて入ったことだ。この「威圧」は、ここ数年台湾周辺で中国が行っている、海上封鎖の軍事演習を指している。この海上封鎖の軍事演習への反対が今回初めて表明された。これは単なる表明ではなく、もし中国が台湾に対して本格的に海上封鎖をするようなことがあれば、日米がそれに対抗するという意味が含まれている。今後、日米としても海上封鎖に対抗するような訓練、演習も行っていくという、これまでよりも強いメッセージだ。これは米国の要求だけではなく、日本としてもこの海上封鎖は何としても防がないといけないので、日米両者の思惑が一致したということだと思う。
まず日米で取り組むべきは、共同声明にも含まれているが、指揮統制面での連携を強化すること。それを踏まえて南西諸島での日米のプレゼンスを強化し、尖閣有事や台湾有事に備え、日米がさらに緊密に連携をして共同作戦を行えるようにしていくことが必要になる。

トランプ政権の対中政策を分析するにあたり、杉山晋輔氏(元駐米大使)は、米国全体の大きな流れを捉える必要があるとした。

米国から見ると、この10年単位で、中国は非常に強く大きくなり、「力による現状変更」は目に余る、しかし、中国には対応していかなければいけないと。2032年にはGDP全体で初めて中国が世界1位になり、米国が1位の座から転落すると予測される中で、米国の対外政策の一丁目一番地は対中政策だ、と。これは別に共和党のトランプ氏だから、ルビオ氏だからということではない。オバマ政権の後ぐらいから米国は官民、共和・民主、誰を問わずにそういう意識がある。その中では、日本で考えられているよりも、日米同盟は重要で、やはり日本との関係は非常に大事にしなければならないし、対中政策の関係の中で、日本の重要性が必然的に出てきている。トランプ氏だけではなく、今の米国が置かれている全体の大きな流れをもっと認識したほうがいい。

2) アラスカ産LNG“輸入”要請と「対中戦略」の関係とは…

もう1つ見ておきたいのが「対中戦略」の経済分野だ。トランプ大統領は首脳会談で、「我々(日米)は極めて攻撃的な中国の経済的侵略に対抗するため、一層緊密に協力することに合意した」と発言。

トランプ大統領

共同声明では、「AIや先端半導体といった重要技術の開発における協力」「米国から日本への液化天然ガス(LNG)輸出を増加することによりエネルギー安全保障を強化する」とした。中でもLNGについては、アラスカ州北部のガス田と南部の港を1300kmのパイプラインで結び、LNGをアジアへ輸出する計画があるとしている。昨年の日本のLNG輸入の8%を占めるサハリン2より遠いものの、日本まで1週間ほどで運ぶことができるという。関係者の一人によれば、日本からの投資はアメリカの対日貿易赤字のうち、560億ドルを削減する可能性もあり、トランプ大統領が重要視している「貿易赤字」の削減にも一役買いそうだという。

LNGが「エネルギー安全保障」という言葉とセットで語られていることに関し、杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、以下のように分析をした。

日米首脳会談の前日に、元駐日大使のビル・ハガティ氏がワシントンのシンクタンクで行った講演で最も多く言及していたのはLNGに関することだった。ポイントは2点ある。一つは、日本がロシアから購入しているLNGをアラスカ産など米国のものに置き換えたいという希望。ロシアを制裁で孤立させるためにも日本のLNG輸入先を米国に変えさせたい、ということ。二つ目は、米国のLNGを日本に輸入し、さらにそれを東南アジアに卸して、中国が東南アジアに作ろうとしているエネルギー支配圏「エネルギードミナンス」を潰したいということだ。ロシアと中国双方に対しての施策として、米国は非常に力を入れようとしている。 
サハリンのLNG決済を行うロシアの銀行は制裁対象だが、LNGの決済だけはアメリカが半年程度の例外措置を認めている。しかし、いつまでこの措置が続くかは不透明で、長期的な意味ではアメリカからLNGを購入したほうが日米の経済関係は強化される。ただ問題は、1300キロのパイプラインを引くには時間も資金も非常にかかり、コスト的に見合うのか、そして、日本の民間企業がそこで乗ってくるかどうかだ。参画するかどうかはあくまで企業判断になるので、ハードルは結構高い。石破総理の帰国後の発言を聞くと、ワシントンでのトランプ大統領の首脳会談後の前のめりの発言に比べ、実現は簡単ではないとの印象を持つ。
LNG

3)米中覇権争い激化へ 日本は中国との関係どうする?

激しさを増す米中の覇権争い。米国からの対中国政策の要請が多岐に渡る中、日本はどのように中国に対応すべきなのか。杉山晋輔氏(元駐米大使)は、以下のように指摘する。

日本にとって中国は長い歴史上でも、最も大きな近隣重要国なので、そこは米国も非常に気にかけるし、日本も気にするところではあるだろう。ただし、中国は非常に重要な近隣国ではあるが同盟国ではなく、日本にとっては、米国だけが唯一の同盟国だ。一方で、日米同盟を運営するということは、守るべきものを一緒に守るという同盟の本旨は守る必要があるが、対中政策において米国と全く同一の政策をとることではない。日米で緊密に協調をしながら、米国は米国の政策を、日本は日本の政策をとる。これが本来の同盟の姿だ。だから中国との間では「戦略的互恵関係」を掲げている。同盟の本質を毀損しない範囲でそれぞれの国益に従って動くことは、各国、皆そのように動いているし、当然やるべきことだ。
石破総理

小谷哲男氏(明海大学教授)も「同盟関係に悪影響が出ない限り、米国が日中関係安定化の動き自体に反対することはおそらくない」と分析しつつ、日中関係のあり方には以下の通り指摘した。

単に日中関係を良好にするだけではなく、日本も取るべきものを取ることが大切だ。習近平国家主席がまさに今、首脳会談を呼びかけているが、それについても、「ああそうですか」と応じるのではなくて、尖閣諸島周辺に毎日のように政府の公船が来ている状態では受け入れられないと言っていく必要がある。

<出演者プロフィール>

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」の主任研究員を兼務。)

杉山晋輔(元駐米大使。外務審議官、外務事務次官などの要職を歴任。トランプ政権や米議会の要人と緊密関係を構築)

杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)

(「BS朝日 日曜スクープ」2025年2月9日放送分より)