日本でも、SNSを使った選挙のあり方が問われていますが、そのSNSが、大統領選挙の結果までをも左右したとされる国があります。無名の候補が、一国のリーダーを選ぶ選挙で一躍トップに躍り出た背景には何があったのか…。そして、その結果は、侵攻開始3年を前に急展開を見せるウクライナ支援にも大きな影響を及ぼす可能性があります。(2月22日OA「サタデーステーション」)
■”反EU・NATO” ウクライナ支援にも反対
ウクライナの南西に位置する、東ヨーロッパの国、ルーマニア。ある政治家の登場をきっかけに、いま、この国が揺れています。
私たちが取材に向かったのは、その渦中の人物の集会。多数のルーマニア国旗がはためくなか現れたのは、去年11月の大統領選挙で大躍進を果たした、カリン・ジョルジェスク氏、62歳。事前の世論調査では支持率1%に留まり、ほぼ無名の存在でしたが、SNSを駆使した選挙戦を展開。「ルーマニア第一主義」などを訴え、トップの得票を集めたのです。
過去にプーチン大統領を「愛国者」と称えるなど、ロシア寄りの姿勢でも知られ、ウクライナへの軍事支援にも反対しています。
「(ウクライナ支援は)絶対にノーだ。我々は戦争ではなく平和を望んでいる。争いに巻き込まれたくない」
集まった支持者からも、賛同する意見が。
「いま行われている戦争は、私たちの戦争ではありません。他の国の戦争に関わる必要はありません」
ルーマニアは元々、社会主義陣営の一員でしたが、1989年に起きた革命を経て民主化。当時、チャウシェスク大統領夫妻が銃殺される映像は、世界に大きな衝撃を与えました。その後、EUやNATOにも加盟。ジョルジェスク氏は、そのヨーロッパとの協調路線から大きく舵を切ろうとしているのです。
■広がる生活苦…ウクライナ支援疲れも
なぜいま、彼の主張が人々を惹き付けるのか。この日、私たちが集会で出会ったのは、支持者のアレックスさん(46)。
詳しく話を聞くため、翌日改めて彼の元を訪ねました。
指定された場所は、住宅街に建つ6階建ての建物。案内してくれた先にあったのは、屈強な男たちが汗を流すジムです。実はアレックスさん、アームレスリングの選手で、世界大会3位の実力者です。
そんなアレックスさんが、ジョルジェスク氏を支持する理由は―。
「今までの政治家は自分の利益のことしか考えていませんでした。経済を良くるための政策を、大統領候補として初めて示してくれたと感じています。ルーマニア中心の外交をやってくれると期待しています」
ウクライナへの軍事支援停止にも賛成だといいますが、揺れる胸のうちも…。このジムにはウクライナからの避難民もいるのです。
「とても複雑な問題です。みな、お互い関係が近いですから…」
支持者たちへの取材で見えてきたのは、インフレなど現状への強い不満や政治不信、そして、そうしたなか、ウクライナ支援を続けることへの葛藤です。
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■欧州結束の火種に?ウクライナ避難民の思いは■欧州結束の火種に?ウクライナ避難民の思いは
侵攻開始3年を前に、いま、ウクライナを巡る状況は急展開を迎えています。巨額の支援を嫌う、アメリカのトランプ大統領は、早期停戦に向けロシアとの協議をスタート。ウクライナやヨーロッパ各国の間では、頭越しの交渉に警戒が高まっています。
ヨーロッパは結束した対応を訴えますが、ルーマニアでの動きは、内側からその結束を乱す火種になりかねない状況です。さらに、ウクライナと接するEUのうち、ハンガリーとスロバキアも支援反対を主張。オーストリアでも、支援に消極的な極右政党が大幅に議席を伸ばしています。
侵攻開始以降、ルーマニアにはのべ約600万の人が、ウクライナから避難しました。ルーマニア国内で暮らす避難民は、いまの状況に複雑な思いを抱いています。
南部のミコライウから、娘と避難してきたハリナさん。ブカレスト市内の学校で、ウクライナの子どもたちの学習をサポートしています。周囲の人たちからの支援には感謝しているといいますが…。
「ルーマニアの人たちは、今の状況に少し疲れてきていると感じています。なぜこれほど長くウクライナを支援しないといけないのかと。政治的な状況が与える影響を心配しています」
■溢れるニセ情報 選挙に"ロシア介入"指摘も
SNSを追い風に、大統領選でトップに立ったジョルジェスク氏。しかし、その裏である疑惑が指摘されています。
国立政治行政大学のスルタネスク准教授が指摘するのは、選挙期間中に拡散していたという“ニセ情報”の存在です。
例えば、軍用車両が市街地を進む映像。実際にはルーマニア国内で行われたパレードの準備とみられますが、ウクライナでの戦争に備えた訓練の様子として拡散し、「戦争に巻き込まれるのでは」という誤解が広がったといいます。
事態を重く見た憲法裁判所は、「公正な過程が損なわれた」として選挙を無効と判断。5月にやり直し選挙が行われる予定です。
背後で関与が疑われているのはロシアです。確実な証拠が存在するわけではありませんが、ジョルジェスク氏が大統領になれば、ロシアにとってメリットが大きいといいます。
「ロシアの狙いは、ルーマニアなど東欧の国々と、EUやNATOとの間に溝を生じさせることです。EUや民主主義に対する信頼がなくなることを望んでいるのです」
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■真偽不明の情報が選挙左右…メディアの役割は■真偽不明の情報が選挙左右…メディアの役割は
SNSの真偽不明な情報が、選挙結果をも左右する状況は、日本にとっても、決して他人事ではありません。
現地のメディアは、この状況をどう見ているのでしょうか。訪ねたのは、ニュース専門のテレビ局「アンテナ3 CNN」。
朝6時から翌日の2時まで、20時間生放送でニュースを伝えています。
夜の看板番組でキャスターを務めるグダ氏も、SNSの危うさを肌で感じているといいます。
「SNSで発信する人たちは、情報の正確さはあまり気にしていません。本当の情報と嘘の情報を見極めるのが、多くの人にとって非常に難しくなっています」
テレビ局など既存メディアへの不満も自覚しているとしたうえで、果たすべき役割について、こう語ります。
「社会はいま分断されています。そうした状況で、我々テレビ局など報道機関のミッションは、事実を語ることに尽きると思います」
【取材を終えて】
今回の取材で強く感じたことが2つあります。
1つは、社会で進む分断の根深さです。ジョルジェスク氏の集会では、支持者らの強烈な熱気を感じた一方、冷めた目で見ている市民も多く、話を聞いた人のなかには、真剣に国外への脱出を考えているという女性もいました。その鮮明なコントラストこそ、ルーマニア社会のいまを表していると感じます。
そしてもう1つは、SNSとの向き合い方についてです。取材をしていて、非常に多く聞こえてきたのは、SNSの優れた点や魅力を指摘する市民の声です。これは、既存メディアへの不信の裏返しでもあり、実際、"切り取り報道"などへの厳しい声もたくさん聞きました。今後、ますますSNSの影響力が強くなっていくのは間違いないなかで、いまメディアの役割が改めて問われていると感じました。
(取材:「サタデーステーション」中村昌太郎)











