イスラエルがイランの国営テレビを爆破するなど、攻撃の応酬が激化。また、イランの要人が相次いで殺害されている背景には内通者の存在があるといい、イラン指導部の弱体化も指摘されている。
■政府内、イラン国民に不満高まる
イラン国内では、大きな被害が出ている。
「ニューヨーク・タイムズ」によると、イスラエルの攻撃により、イランの政府高官は20人以上、著名な核科学者は9人が死亡する被害を受けている。死亡した人たちのなかには革命防衛隊のサラミ司令官、イラン軍のバゲリ参謀総長、核科学者のテヘランチ氏などが含まれる。
さらに、イランの最高指導者・ハメネイ師の殺害計画もあったとされ、ロイター通信によると、イスラエル側がトランプ大統領にハメネイ師の「殺害のチャンスがある」と伝えたものの、トランプ大統領はこれを却下したという。
最高指導者の情報まで、イスラエル側に漏れていたのだろうか。実際に、要人殺害の背景には内通者が存在している可能性が指摘されている。
アラブ系メディア「アルジャジーラ」によると、核科学者のテヘランチ氏は自宅を攻撃され死亡したが、イラン国内に浸透したイスラエルの協力者が居場所を報告した可能性があるとされている。
さらに「アルジャジーラ」は、「イスラエルはイラン国内の情報提供者の発掘を強化した。攻撃はこの分野が進歩していることの証明だ」と報じている。
また「ニューヨーク・タイムズ」は「イラン政府内では情報収集と防衛の失敗への不満の声が飛び交っている」と伝えている。
AFP通信によると、イラン革命で、アメリカで亡命生活をしているイラン元皇太子 レザ・パーレビ氏も「イラン政府は弱体化し分裂している。イランは崩壊するかもしれない」と述べている。
政府内だけでなく、イラン国民の間でも不満が高まっている。
1979年のイラン革命以降、厳しい戒律や監視に国民の不満が募るなか、2022年には風紀警察がヒジャブ未着用の女性を殺害し、抗議デモが拡大したこともあった。
また、経済制裁の影響による高インフレで国民生活が困窮しており、今回の攻撃でこうした不満が爆発する可能性もある。
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■「親イラン組織」弱体化で…■「親イラン組織」弱体化で…
続いて、イラン弱体化のもう一つの要因である親イラン組織について見ていく。
13日、イスラエルのネタニヤフ首相はイラン国民に、「イスラエルが戦っているのはイラン国民ではない。あなたたちを抑圧し貧困に追いやるイスラム体制だ」と呼び掛けた。
ここで指摘されているイスラム体制は、イランからイラクを経てレバノンに至るシーア派の影響圏「シーア派の三日月地帯」と呼ばれる場所で、親イラン組織などでイスラエルに対抗してきた。
シーア派のイランから支援を受ける主な親イラン組織は「イスラム組織ハマス」「イスラム教シーア派組織ヒズボラ」「シリアのアサド政権」「イエメンの親イラン武装組織フーシ派」などで、「抵抗の枢軸」とも呼ばれている。
しかし、これらの親イラン組織が弱体化している。
「ハマス」と「ヒズボラ」はイスラエルの攻撃により弱体化。「アサド政権」は反政府勢力により倒壊。「フーシ派」はイスラエルにほとんどの攻撃を迎撃されている。
そのため、イランと歩調を合わせて報復するのは困難になっているとみられている。
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■核施設への攻撃が…核開発への引き金となる懸念も■核施設への攻撃が…核開発への引き金となる懸念も
そんななか、イスラエル軍はイランの核施設にも攻撃をしている。
「ウラン235」と呼ばれる物質は、濃縮することで原子力発電用の核燃料や核兵器に転用できる。
AFP通信によると、2015年の「イラン核合意」ではイランによるウラン濃縮度の上限を3.67%と定めていた。しかし2018年、トランプ大統領が一方的に合意から離脱した後、イランは濃縮度を60%まで引き上げ、核兵器用に必要とされている90%に迫っている。
IAEA(国際原子力機関)は、先月17日時点でイランにある60%に濃縮されたウランの貯蔵量は408.6キロと報告。60%よりさらに濃縮する技術があれば、核爆弾9個分に相当するという。
今回の攻撃で、イランの核施設にどのような被害が出ているのだろうか。
IAEAの報告では、中部のイスファハンでは核施設にある建物4棟が損傷。ナタンズではウラン濃縮施設の内部で放射性物質などの汚染が発生した可能性があるとされている。そして、フォルドゥでは被害は確認されなかった。
核施設への攻撃が、核開発への引き金となる懸念も出ている。
ロイター通信によると、核兵器開発は最高指導者のハメネイ師が2000年代初頭に宗教令で禁じ、2019年には「核爆弾の製造と備蓄は間違っており使用はハラーム(禁忌)だ」と話していた。
一方で、去年4月、イラン革命防衛隊の核安全保障担当幹部は「核施設に対するシオニスト政権(イスラエル)の脅威を踏まえ、これまでの判断から脱することもあり得る」と述べ、イスラエルの脅威を受けて核を巡る原則を見直す可能性にも言及していた。