ドスン、ドスンと音がする。
空から大量に何かが落ち、地面に叩きつけられている。
何が落ちているのか。
CNNやロイターが配信してくるライブ映像を、編集ブースで極限まで拡大する。
その場にいた全員が息をのんだ。
落ちているのは人だった。
2001年9月11日。ニュースステーションの放送直前に、アメリカン航空11便がニューヨークのワールドトレードセンター北棟に激突した。
さらに放送中、今度は南棟にユナイテッド航空175便が突入した。
テレビ朝日の報道フロアにいた我々は、これがハイジャックによるテロ攻撃だとは思いもしなかった。
110階建てのツインタワーは旅客機激突から2時間の間に南棟、北棟の順番で崩れ落ちた。
一連のテロ攻撃で2977人が亡くなった。
あれからまもなく25年になる。
7月20日にニューヨーク支局に赴任した私は、渡米最初の週末にワールドトレードセンターの跡地を訪れた。
そこで米国の“変化”を目の当たりにした。(ニューヨーク支局 大野公二)
「愛していると伝えて」乗客の肉声も
ツインタワーが建っていた場所は、巨大プールのモニュメントになり、縁には犠牲者の名前が刻まれている。
2014年にオープンした9/11メモリアルセンターには、朝から多くの人が訪れていた。
目立つのは修学旅行?の学生たちだ。クラスごとに記念写真を撮っている。
入口ではワイワイと賑やかだった学生たちだが、展示される内容に衝撃を受け、皆が口をつぐんでいく。
旅客機の乗客が家族に残したボイスメッセージが流れる。
「どうやらハイジャックされたみたい。とても低い場所を飛んでいる。でも心配しないで。子供たちに愛していると伝えて」
録音された声は震えていた。
ショックを受け非常口から出ていく生徒もいる。
学生たちの会話を聞いていると「こんなことがアメリカで本当に起きたんだ。信じられない」と何度も話していた。
今年成人(18歳)を迎える若者は2008年生まれで、事件を実体験していない。
現在アメリカの約4割近くの国民が9.11を経験していない(または全く記憶にない)世代になっている。
生徒たちの会話を聞いていても、9.11同時多発テロはリアルタイムの危機から、「社会科の教科書に載っている歴史上の出来事」になっているのがわかる。
米国民に「大きな変化」
実はこの25年間で、アメリカ国民のテロに対する意識や危機感は大きく変化している。
調査会社ギャラップが継続的に実施している「全米で最大の懸念・課題は何か」という世論調査では、
2001年直後は「テロ」が圧倒的1位だったが、近年は「インフレ・経済」「移民問題」が常に上位となり
テロを最大の懸念に挙げる人は、わずか1%にとどまっている。
さらに衝撃だったのは、今月発表されたギャラップの別の意識調査だ。
「日常生活においてあなたの安全を脅かす最も大きな懸念事項は何か」との質問に、最も多くの人が「政治(国内の分断・政治的暴力)」と答えたのだ。
病気などの健康問題よりも、「政治」が上回ったのは、同様の調査を行った140カ国の中でアメリカが唯一だった。
「団結の力」はいまや
9/11メモリアルセンターの展示は充実していて見終わるまでに2時間以上がかかった。
「ここではアメリカ同時多発テロで犠牲になった人々や、事件後の復旧作業のため亡くなったボランティアの方々を追悼するとともに、人間の悪い面を見るのではなく、良い面を称えています」との説明で一連の展示は締めくくられている。
強調されていたのは、救助活動や復旧活動で人々がみせた「団結の力」だった。
9.11テロ直後、アメリカ国民はアルカイダという外部の敵に対して一丸となり政府への信頼感や愛国心を高めた。
しかし25年が経った今のアメリカは、テロという外部の脅威は歴史の1ページになり、代わりにアメリカ自身が自国にとっての最大の脅威になった。
そして国民は政治的分断の深さに怯えている。





