轟音と共に巨大な粉塵の塊が建物と建物の間から迫ってくる。
人々が叫びながら逆方向に逃げている。
まさかタワーが崩れ落ちるとは思っていなかったのだろう。
「Oh my God...」
その言葉と共に、撮影者が粉塵の渦にのみ込まれた。
真っ暗になった画面の中で、悲鳴が何度も響く。
画面が一度途切れ、再び少し明るくなった。
そこに広がっていたのは、一変した世界。
人も建物も、何もかもが灰色一色になっていた。
“封印”された崩壊タワー真下の映像
25年前の9月11日、ハイジャックされた2機の旅客機が、立て続けにワールドトレードセンターに突入した。「ニューヨークの顔」だった110階建てのツインタワーは崩壊し、多くの命が奪われた。
そのタワーの真下で撮影され、一部始終を記録したビデオテープが存在する。突入から崩壊まで、最小限の中断だけで撮影された約1時間の映像。実はこのビデオテープ、9.11の1週間後にFBIに提供されたのち、24年間公表されることがなく、去年初めて存在が公になった。
今回テレビ朝日はこの映像の撮影者から放送の許可をいただくことができた。あの日、タワーの真下で何が起きていたのか。そしてなぜ映像は、24年間“封印”されたのか。さらになぜ去年、映像は公開されたのか。
(ニューヨーク支局 大野公二)
「見てはダメだ!見てはダメだ!」

ツインタワー北棟から立ちのぼる黒煙。奥にはオレンジ色の炎も見える。
映像は1機目の突入直後からスタートする。サイレンを鳴らして消防車が集まってくる。人々は不安そうにタワー上部を見上げているが、事故だと思っているのか、そこまでの切迫感はない。
しばらくして、撮影者が異変に気がついた。
突然画面が揺れる。
周りから次々と悲鳴が上がる。
あまりの状況に、タワーの方を見るなと叫ぶ声も聞こえる。
2機目がツインタワーの南棟に激突する。
撮影者が涙声になっている。
南棟からも大量の黒煙が立ちのぼる。
カメラは偶然、タワーから逃げてきた人を捉える。
撮影者が問いかける。
1機目が突入した北棟から脱出してきたという。
脱出した男性は、まだ発生から40分強しか経っていないこの時点で、突入した2機がハイジャックされたものであることを把握していた。
迎えたタワー崩壊の瞬間 その時…
そして現場は、ツインタワー南棟が崩壊する午前9時42分を迎える。
轟音とともに、あっという間に粉塵の塊にのみ込まれていく人々。
誰もが全身灰色になり、皮膚と服の区別がつかない。ほとんどの人が咳き込み、呼吸するのも困難なことがわかる。
そこかしこで、生き残ったことを神に感謝する言葉が聞こえる。
撮影者も自分の車の中に避難し、現場を離れようとする。
なかなかかからないエンジン。ようやくエンジンがかかると、車内にカーラジオのニュースが流れてきた。
灰色一色で彷徨い歩く多くの人の間を縫うように車はゆっくりと進み、撮影者は現場から離脱した。
撮影者が語る あの日の真実
崩壊したタワーの真下で撮影された約1時間のこの映像は、なぜ24年間も“封印”されたのか。9月3日、ニューヨーク市内にある撮影者の自宅を訪れた。
エドワード・スフェラッザさん(54歳)。空調設備業者の技術者だった彼は、あの日、仕事で現場を訪れていた。
何が起きているのか確認しようと外に出ると、大量の紙が落ちた路上で、皆が燃えるタワーを見上げていた。
そして、空調機器の状態を記録するために持っていたビデオカメラをまわし始めた。
しかし2機目がタワーに突入する。
そしてタワーが崩壊する。
映像を見ると、粉塵にのみ込まれたところで一度画面が途切れていた。
彼は9.11の前年に結婚したばかりだった。
明らかにした24年間“封印”のワケ
一命を取り留めた彼は、その後PTSD(心的外傷後ストレス症)に20年以上苦しむことになる。
今でも焦げ臭い匂いを嗅ぐと、あの日の記憶が蘇るという。
そしてもう一つ、彼が映像を24年間“封印”した理由がある。
彼は20年以上ずっと自分を責め続けていた。タワーの人々を助けにいくのではなく、逆方向に走って避難した自分の弱さをずっと許せずにいた。だからこそ、映像を見ることはなかったし、誰にも見せたくなかった。
彼には9.11後に生まれた二人の子供がいる。
自分が体験したことを我が子に伝えたいという思いはあったが、それもずっとできなかった。逃げた自分を知られたくなかったのだろう。
自分の弱さを責め続けPTSDに苦しんだ彼は、なぜ去年映像を公開する決断をしたのか。
彼は去年、9.11の映像を集めて歴史的記録として保存している団体にビデオテープを提供した。
彼が部屋の奥から持ってきたビデオカメラとバッグ。あの時の粉塵がこびりついたままの状態で保管されていた。
アメリカ社会で進む 記憶の風化

アメリカ社会では9.11の記憶の風化が止まらない。
今や国民の約4割が9.11を直接経験していないか、もしくは全く記憶にない世代になった。世論調査でも「最大の懸念・課題は何か」との問いに、「テロ」と答える人はわずか1%にとどまっている。
彼も記憶の風化に危機感を抱いている。
9.11同時多発テロから25年。9.11の記憶を「消化」したアメリカのトランプ政権は、今、イランとの戦争に進んでいる。
エドワードさんの二人の子供は23歳と21歳になった。リビングルームには、二人の小さい頃の姿を描いた絵が飾られていた。
あの日の記憶に苦しみ続けた彼の、心からの願いだ。