「なぜ君」小川淳也は立憲を変えられるのか 批判は封印? 維新との“あの問題”は[2022/01/22 10:30]

「なぜ君は総理大臣になれないのか」…
そんなタイトルのドキュメンタリー映画が公開されてから1年7カ月。

「民進党分裂」の混乱に翻弄され苦悩していた主人公の男は、去年の衆院選で宿敵を破り、その後の立憲民主党役員人事で政調会長に就任。
党の政策責任者として通常国会に臨んでいる。

小川淳也、50歳。
「なぜ君」のヒットでその知名度と好感度は一気にアップした。
一方で、先の衆院選では、他党の候補擁立を取り下げさせようとした行動が批判を浴びるなど、その一本気な性格を不安視する声も聞こえる。

良くも悪くも永田町の政治家らしからぬ男は、立憲民主を再生し、有権者の信頼を取り戻すことができるのか。(敬称略)

■ 「立憲は批判ばかり」の声にどう応える?

1月19日。
衆議院本会議での代表質問に、小川は立っていた。

「事態悪化を後追いする形で基準を緩め対策を緩和し、現実に引きずられ、その追認と追従を繰り返す姿は正に安倍・菅両政権以来、何度も繰り返し目にしてきた後手後手の対応そのものではありませんか!」

語気を強めて、岸田総理の新型コロナ対策を問いただす。
「一見柔軟、しかし結果的に朝令暮改の対応は総理の決定の重みを失わせています。
信頼が揺らいでいます」

それは同じく立憲民主から質問に立った泉健太代表の、比較的穏やかな口調とは大きく異なる、いわば「批判型」の質問だった…

代表質問のちょうど1週間前、私たちは東京・永田町の衆院議員会館で小川にインタビューしていた。
「立憲は批判ばかりの政党」というイメージ、それが衆院選の議席減につながったのではないかという指摘…
それらを率直にどうとらえるか聞いてみた。

「地元でもすごく言われましたね。『あんたたち批判ばかりじゃないか』と。
だからものの言い方とかマナーとか、そういう国民の印象にかかわることに関しては見直す余地が大きいと思います」

ただ…それでも批判することをやめてはいけないと語る。
「野党の本質は批判的立場から権力監視するということが最大の仕事なので、そこでひるんだり手を緩めたりするようでは野党の存在意義に関わりますよね。
野党も国民のために存在しているわけですから」

小川自身、2019年に発覚した、厚労省の「毎月勤労統計」不正問題で政府側を鋭く追及し名を挙げた人物だ。
そうした経験から、批判する側にも求められる“作法”があると考えている。

「理想は国民が『ほれぼれするような批判』をしなきゃいけない。
こういう形で切り込んでくれると聞いている方もむしろ気持ちいいとか、納得感があるとか。
不快感・不愉快な感じがするような批判はできるだけ軌道修正する。
相手に対する敬意や礼節を失っていないからこそ伝わるものがある。
そういう、『ほれぼれするような批判』をしてこそという思いは持ってますね」

そして行われたのが、代表質問での厳しい追及だった。

■ 小川淳也を通じて「政治家とは何か」を考える

小川の、政治に対するあまりにストイックな姿勢は、2020年に公開されたドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)で初めて多くの人が目にしたものだ。
映画の後半、民進党が分裂し混乱する中で小川は希望の党からの出馬を選ぶが、有権者からも批判され、カメラの前で苦悩する姿をさらす。
そうした不器用さもまた、多くの共感を呼んだ。

小川と親交のある、プロデューサーの若新雄純(慶應大学特任准教授など兼務)は、こう評する。
「一人の人間としてすごく魅力的、気になる存在ではあります。
『政治家ってもっと真っすぐであるべきだ』とか『自分の言葉で語るべきだ』とか言われるけれども、それをとことんやって不器用に生きているのが小川さん。
小川淳也という人を通して政治家って何だろうとか、人が権力を持って国や社会を統治するって何だろうとかいうことを考える、考えさせられる存在だと。
“必要悪”じゃなく、“必要不器用”みたいなものだと思う」

現在公開中の続編映画、「香川1区」も注目を集めている。
今回も小川を取材の中心に置いてはいるが、同じ選挙区で宿敵とも言える初代デジタル大臣、平井卓也のインタビューも敢行。
香川1区という保守的な選挙区を通して、「政治とは何か」「選挙とはどうあるべきか」を問いかける作品だ。

もともと小川は選挙に弱い。
ライバルの平井は、祖父・父とも国会議員という政治家ファミリーにして地元の有力紙・四国新聞などのオーナー一族だ。
過去の小選挙区での勝敗で言えば小川の1勝5敗(4回は比例で復活当選)。選挙の弱さはそのまま党での立場の弱さにつながっていた。

だが今回は違った。

■ 擁立取り下げ“直談判” 反省しつつも…

映画「香川1区」でも描かれているように、明らかに小川陣営側には“熱量”があった。
それは「なぜ君」の好影響もあったと、小川本人が認めている。
「政治家とか政治活動の一断面を切り取って見えるようにしたことで、結果として小川さんの考えとか抱えている思いとか志とか、そういう部分に共感しました、
シンパシーを持ちましたという方が県内外で増えたことは間違いない」

実は、小川に対しても逆風は吹いていた。
平井と小川の一騎打ちと見られていた香川1区に日本維新の会が女性候補を擁立したことがきっかけだ。
小川はこの候補擁立を取り下げるよう、維新の馬場幹事長らに直談判したのだが、その様子を維新の他の議員らがSNSで発信。
「非常識」「強引すぎる」などと批判の声が集まった。

当時の行動自体は反省していると小川は言う。
「自分自身の立ち居振る舞いとかものの言い方とか、そういうことに関しては非常に反省が多いです」

ただすべては野党を一本化し、自民を倒すという目的のため、との考えは変わらないという。

「維新から共産党まで野党は一本化すべきなんです。
なぜならそれは自民党にとって一番脅威でしょ。
そういう闘争方針をとらないとやっぱり自民党は緩むし、なめてかかってきますよね。
(一本化による)ある程度の妥協とかが必要だというのはその通りで、それに対する批判があるならば甘んじて受け止めますが、しかし最終的には国民の便益という意味で、それこそが政治の本質、選挙の本質だと思うんですね」

ちなみに小川は今回のインタビューで、個人的な考えとしながらも、次期参院選の1人区では共産党も含めた野党一本化が必須だと断言している。

■ 時に激高…理想追求の危うさとは

映画「香川1区」では、維新候補の取り下げ要請騒動に関連して、小川の意外な一面が映し出されている。
政治ジャーナリストの田崎史郎に批判された小川が激高するシーンだ。

小川本人は、こう釈明する。
「結構気性は激しい方なんですよ。
だからどうしても個人的な感情とかはむき出しになることも多いですし、そういう意味では私のもうひとつの本質、一面があらわになったと思っています、お恥ずかしながら」

第1作の「なぜ君」では見られなかった小川の姿。
若新雄純は、小川の理想追求に危うい一面があることを指摘する。

「小川さんは理想というものに対して本当に強い思いがあって、そのために自分の生活を犠牲できるという覚悟を持っている。
そこに僕たちは胸を打たれるし僕も魅了されている部分があります。
一方で社会を運営していくというのは、ある個人の理想ではなく社会にとっての理想を実現するために非常に難しい調整をしていく仕事。
そこに関して小川さんは『自分の理想』というエネルギー源が強いからこそ時に暴走してしまったりとか、何でそこはもうちょっと待てなかったか、というところがあると思う」

最終的に3人が争うことになった香川1区で、小川は平井に2万票近くの差をつけて勝利した。
小川の周辺で沸き起こった、熱狂とも言えるような強力な支持。
だが、立憲全体で見ればそのような追い風はほとんど吹いていなかった。

「全体の投票結果が開いたときに、香川1区がこんなに熱がこもっていたのに、(他の地域が)あんなに冷めていたのかとギャップに驚きました。
全体で議席減らしているわけでしょ。驚きましたよね」

党として議席を減らす中、ついに選挙区で勝った小川自身の立場は大きく変わった。
推薦人集めに苦労しながらも代表選に立候補。
3位となって、泉健太新代表のもと、政調会長という要職を得た。

そして1月19日、衆議院本会議での代表質問。
小川は、岸田総理への質問中であるにもかかわらず、自身が思い描く立憲民主の未来像を、こう謳い上げた。

「対話を旨とし根本問題に取り組み、構造改革を進め、社会の持続可能性を回復し未来への責任を果たす。
立憲民主党はその挑戦を牽引する政党でありたい、そう願っています」

■ 「明日が不安」な若い世代の信を得るには…

これからの立憲民主はどんな政党を目指すのか。
代表質問1週間前のインタビューで、小川はこんな風に答えていた。

「シンプルにいえば、持てるものを代表している政治勢力に対して持たざる者を代表する政治勢力ということになるでしょう。
所得階級でいえば中間所得層から低所得者層まで含めたいわゆる普通の暮らしをしている庶民ですよね、その立場に立つというのが大まかな立ち位置」

ただ、立憲民主に対する有権者の目は厳しい。
ANNの世論調査で立憲の政党支持率はここ数年、10%前後をうろうろしている。安倍・菅政権が新型コロナ対策にいくら苦戦しようとも、立憲の支持が改善する気配はなかった。

そんな中で小川が特に気にするのは、若い世代の多くが、保守である自民党を支持していると言われることだ。

「通常自民党や共和党や保守党を支持する人たちというのはいわゆるエスタブリッシュメントで十分いろんなものを持っている。
持っているものを守らなければいけないということで保守政治に流れるわけです。
ところが今の若い世代は何か持っているのか? 例えばお金はあるのか、資産を持っているのか? ないですよね。ないのに何かを守ろうとしているわけです。
何を守ろうとしているのか。それは明日が不安でしょうがないから、何も持っていないけど、ささやかな今日を守りたい、となっているわけですよね」

小川はこの現象を「反動的な保守」と呼んでいる。
「明日が怖いから、ささやかな今日を守りたいというある種の『反動的な保守』に、我々大人社会が追い込んでいるということです。
だから彼らの世代に対して、社会の持続可能性を回復する、先行きに見通しを持てる社会にしていくという、その決意と覚悟、また見識や力量ですよね。
それをやれる立憲民主党でありたいと私は思いますね」

■ 「君は総理大臣を目指すのか」

若い世代の信を得られる立憲になれるのか。
差し当たり7月に予定される参院選に向けての公約作りで、小川の政調会長としての力量が問われる、のだが…
若新雄純は、そもそも小川に政調会長を任せたところに、立憲の抱える問題が現れているという。

「政策の調整ってきれいごとだけでは無理で、今までいろんな立場の人が作ってきた社会の仕組みに関して、折れてもらったり一緒に組んでもらったりということをやる立場で…
それをやる政調会長が小川さんのやるべき仕事だったのかと疑問に思う。
立憲はこういった個性的な政治家をうまく使えてないというか、配置できてないんじゃないか」

「なぜ君は総理大臣になれないのか」…
その問いが、小川淳也に投げられた意味を若新は考えている。

「まっすぐなことは大事なんだけど、まっすぐだけでは社会が回らないということも小川さんが突き付けている。
それが『なぜ君は総理大臣になれないのか』というタイトルにも込められているんではないかと思います。
ただ小川さんには変わってほしくないという気持ちもある…」

選挙にも勝った。党の要職を務めるまでに至った。
そんな小川に、最後に聞いてみた。
「君は総理大臣を目指すのか」

「いずれ責任者として私が願う構造改革をすすめ、次世代に恥じぬような社会の持続可能性を回復するという大時代的局面において、その責任を果たそうとする意欲や意志がないのであればここにいることはない、
それがないのにあえてここにいることを正当化できる理由がないですよね」

まわりくどい表現で、肯定した。

テレビ朝日報道局 佐々木毅

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