「規正法」衆院通過も…地方組織から“総理退陣”求める声 菅前総理“会合”の狙いは

[2024/06/13 17:00]

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6月6日に「政治資金規正法」改正案が衆議院を通過し、審議の舞台は参議院に移った。岸田総理は、ひとまず大きな山場を乗り越えた形だが、自民党の複数の地方組織からは“退陣”を求める声があがる。ポスト岸田をめぐる動きは本格化するのか。

1)自民党地方組織から岸田総裁退陣を求める声

自民党の複数の地方組織から、岸田総裁退陣を求める声が上がっている。

6月4日の自民党・横浜市支部連合会で佐藤茂会長は「政治資金規正法 改正案成立の目途がついた今、敢えて総裁自ら責任を取り 身を引くよう苦渋の決断をしていただき、自民党総裁選挙では、大胆な改革と政治刷新を進めることのできる強いリーダーシップの取れる新進気鋭の総裁を」と発言した。さらに佐藤氏はANNの取材に対し「地方の自民党の会長として地域の党員の声をあえて総裁に物申した」と答えた。

神奈川県、中でも横浜は、菅前総理のおひざもとだ。
今野忍氏(朝日新聞政治部記者)は、佐藤氏の発言について以下のように指摘する。

自民党の中から総理総裁に対し、もうやめてほしいと声があがったことは非常に重い発言で衝撃的だ。2001年に当時内閣支持率9%だった森政権で自民党宮城県連から総理退陣を求める声が上がり、各地方組織に雪崩のように広がっていったことを思い起こさせる。先週から青森や長野でも岸田総理批判の声が上がり始めている。ただ、この件があって菅前総理に取材したところ、菅氏は「俺は言わせていない」と言っていた。

元東京地検特捜部副部長で衆議院議員を2期務めた若狭勝氏(弁護士)は以下のように述べる。

こういう動きは全国で次々と出てくるのではないか。国会議員の意向と反する形で地方が声を上げるのは、自民党の組織としては本来あり得ないことだ。自民党地方組織の幹部には、相当の思いを込めて、ここで言わなければ、岸田総理は自ら降りないのではないかという危機感がある。私が現職の自民党の中堅議員と話すと、本当にもう岸田さんに辞めてほしいという声が多くて、水面下でマグマのように強まっている。

2)「HKT」ら“非主流派5氏”と会合 菅前総理に思惑あり?

改正案が衆議院を通過した6月6日、菅前総理は都内で、「HKT」と呼ばれる、萩生田光一前政調会長、加藤勝信元官房長官、武田良太元総務大臣の3氏にくわえ、小泉進次郎元環境大臣を招き、会合を開いた。「終盤国会の情勢」や「岸田総理の政権運営」「9月の自民党総裁選」について意見を交わしたとされる。

HKT

自民党総裁選に向けた動きが活発化していると見ていいのか?今野忍氏(朝日新聞政治部記者)は、以下のように分析した。

私が菅前総理に直接取材したところ、「総裁選の話をしたわけではない」というコメントを得ている。しかし、この時期にHKTの3人と一定の人気を持つ小泉進次郎氏を含め会合を開いたこと自体が、ポスト岸田への布石としてメディアに話題を提供することに狙いがあった、と解釈すべきだろう。6月4日に菅氏お膝元の横浜市連から岸田総理退陣を求める声が上がり、6日に改正案が衆院選を通過。その夜にポスト岸田の有力候補である小泉進次郎氏とHKTを呼び、菅氏が会合を開いたこと自体が、ボクシングでたとえるなら、ゴングが鳴り、まずジャブを打ってきたようなものだ。この会合で何か重要なことを決めたというよりも…。菅氏自身は「(国会の会期が終わる)6月が終わってからだよね」と言っていた。7月の都知事選を戦う頃には、いよいよ総裁選への動きが活発化してくるだろう。

若狭勝氏(弁護士)は以下のように分析した。

私の経験上、これだけ表面に動きが現れて、メディアにも掲載させるのは、今後の政局が既に水面化では相当、話が煮詰まっており、関係者がある程度共有出来ているという段階まで来ているものだ。あえて、こういう形で動きを表面化させ、関係者の思惑を駆り立て利用して、さらにいい方向にもっていく戦略がある。小泉進次郎氏が会合に出席したことが総裁選出馬に直結するわけではないだろうが、人気のある彼の存在が今後の政局の一つ大きな鍵になるだろう。

杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、以下のように分析した。

過去、日本の総理大臣は自民党の中で戦いが起きて、反乱に直面してきたが、それが始まったのかと感じる。最近はこういう形でプレッシャーをかけていくのだなと。岸田総理の現在の状況は、ひとつは「政治とカネ」の問題に国民が不満を持ったこともあるが、プラス、今となっては、岸田さんの政権運営、ハンドリング、自民党内の仕切り、こちらも大きい。自民党内部では、「政治とカネ」の問題はとりあえず、法改正ができそうだから、次は自民党をどうするか、ということがポイントになってきているのだろう。総理が替わるという方向に流れが収れんするのか、注視している。

3)「検討」に次ぐ「検討」で論点先送り…政治資金規正法改正案の中身は?

6月6日に衆議院を通過した政治資金規正法の改正案は、10日から参議院で実質的な審議が始まる。

改正案の主なポイントは下記の通りだ。

1)議員の罰則強化では、“いわゆる連座制”が導入され、議員の確認書提出の義務づけ
2)政治資金パーティのパーティ券購入者の公開基準が現在の20万円超から5万円超に引き下げ
3)政策活動費は、10年後に「領収書」が全面公開。支出額にかかわらず領収書保存
4)企業・団体献金の禁止は盛りこまれなかった。

この中で「政策活動費の10年後の領収書が全面的公開」については、衆議院の審議でも質問が相次いだ。

国民民主党の長友慎治議員は、「10年後に不正が発覚したとして政治資金規正法の時効は5年所得税法も時効になる。結局は、誰も結局罰せられないとなるのではないか」と質問した。対して岸田総理は、「具体的なルールについて、法案が成立した暁には、罰則の要否等も含めて各党各会派で検討が行われると認識をしている」と答弁した。

政治資金規正法
国民民主

10年後に領収書を公開するとする今回の改正案の実効性について、今野忍氏(朝日新聞記者)は、以下のように語る。

現状、政策活動費が“公然とした裏金”となっている。政策活動費を政党が幹事長に渡し、自民党幹事長が年間10億円、二階氏は5年間で50億円を領収書なしで自由に使い、何に使われたのか永久に出てこず、全く検証することができなかった。10年後でも領収書が公開されるならば、その時点で検証はできる。ならば今回の改正案が全くの0点だとは言わない。しかし、自民党の内規で幹事長の任期が1期1年で3期まで。10年後には幹事長が3,4人交代しているわけで、10年後に「以前の幹事長がしたことなので分からない」ということで話が終わってしまう可能性は否定できない。

若狭勝氏(弁護士)は、改正案の問題点に以下のように言及した。

領収書の公開を10年後としているのは、それぐらいの時を経れば火の粉をかぶらずに済むという打算的な考えから来ているのではないか。私が東京地検特捜部の副部長をしていた際に、最も適用した法律が政治資金規正法だった。しかし今回の改正案は、違法性のある部分、抜け穴を残していて全く話にならない。改正案成立後の1年2年先に市民団体などから刑事告発される恐れが温存されており、国会議員が法律をつくる資質がないということを露呈している。今の改正案のままでは、政策活動費については、収支報告書の虚偽記載か個人献金禁止違反の2つの犯罪のどちらかが成立してしまう可能性を残しており、違法性を内包したままの改正案が可決されてしまう恐れがある。参議院では、国民のため、国家のためにもっと審議を深掘りするということを強く求めたい。

4)「政治とカネ」問われる永田町の論理

長く、ブラックボックスであり続け、あらためて取りざたされている「政治とカネ」の問題について、本来、どうあるべきなのか。   ↓

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杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、「政治とカネ」をめぐる永田町での議論に疑問を投げかける。

我々一般国民が、政治家は何をしているのか、活動のために何が必要なのかをあまりにもよくわかっていない。政治にお金がかかるとしても、具体的にどのようなカネがどう入ってきて、どれぐらいかかるか、「見える化」がされていない。そのあたりが明確になり、透明性があれば、国民も納得できると思うが、「金がかかるんだからしょうがないだろう」と内容があいまいなまま話が止まっていては、「政治とカネ」対する国民の不信感は消えない。政治が何をすべきかは、今後も長期的に考える必要がある。また、政治に必要な資金を、どうやって国なり国民が負担していくかということについても、長期的な視座をもって議論し続けていくことが大切だろう。

今野忍氏(朝日新聞政治部記者)は、以下のように語る。

岸田総理、衆議院の解散は見送りという報道が出ている。今の支持率からすると、解散はかなり厳しいだろう。二つある総理の権力のもうひとつは人事だが、夏の人事を検討するにも、今の支持率でできるかどうか。諸刃の剣になりかねない状況だ。

<出演者>

若狭勝(弁護士。83年に検事任官。元東京地検特捜部副部長。衆議院議員を2期経験後、政界の引退を公言)

今野忍(朝日新聞記者。政治部で選挙などを担当。自民党を中心に与党を担当し、菅、安倍政権を取材。テレビ朝日政治部への出向で総理官邸クラブ)

杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学で特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任)

「BS朝日 日曜スクープ 2024年6月9日放送分より」

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