政治

2025年1月23日 17:00

国民民主「103万円の壁」見直し“譲れない論点” 立憲民主の“切り札”とは?

2025年1月23日 17:00

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少数与党の石破政権が臨む通常国会は1月24日召集だ。与野党の激しいやり取りが予想される中、立憲民主党の長妻昭氏と国民民主党の古川元久氏、両党の代表代行が『BS朝日 日曜スクープ』で熱弁をふるった。
2025年度予算の年度内成立をも左右する「年収103万円の壁」の行方は?そして、夏に控える“連続選挙”に向けた“切り札”とは…。

1)国民民主党「103万円の壁」引き上げ協議の舞台裏

多くの国民の関心を集めている「103万円の壁」の見直し協議。所得税がかかる年収は現在103万円超で、与党側は123万円への引き上げを提示した。これに対し、国民民主党は「話にならないと」と反発。議論は平行線のまま年を越した。古川元久氏(国民民主党代表代行)は、税調協議が打ち切りとなったときの状況を以下のように述べた。

12月13日の3党協議で「年収の壁」の引き上げ額を「123万円」と提示されたとき、「これでは話しにならないが、一応持ち帰ります」と伝えた。党内に持ち帰り協議したが、やはり「これじゃあ…」ということだった。そのため、17日の3党協議には新しい提案があるかと思ったが、提案はなく、自民党は本当にやる気がないな、と。やる気がないのに協議を続けていても仕方がない、ということで席を立った。

番組では、国民民主党の主張を以下の3つに整理して伝えた。

1つ目は引き上げ幅。玉木代表(役職停止中)は、引き上げ幅について、150万円という額に言及している。
さらに2つ目、「123万円のままなら予算案は反対」。
そして3つ目は、「103万円の壁」について「178万円を目指し2025年から引き上げ、こうした3党合意を履行するなら予算案に賛成する」としている。

古川元久氏(国民民主党代表代行)は、党の主張について以下のように訴えた。

古川氏
我々が主張しているのは、123万円から178万円のどこかの間で決めるという「バナナの叩き売り」のような話ではない。ここは(自民党税調会長の)宮沢さんと私も同じで、理屈が大事だと思っている。 
そもそも我々は、現行の48万円という基礎控除額が低すぎると考える。与党側の提案では、この額が10万円上がって58万円になるが、この課税最低限とは、生活をするのに最低限の所得には税金をかけない、との考えから決められている。しかし、48万円を12ヵ月で割ったら月に4万円。地域により差はあるが、生活保護の受給者が非課税で10万円もらえるのに、働いて税金を納めている方が4万円しか保証されていない。この控除額は、憲法25条の生存権と照らし合わせて、どうなんですか、というのが我々の議論だ。
与党側は、物価の上昇分に対応するとの主張だが、問題はそもそもの控除額が低すぎることではないか。与党側は、違う根拠があるなら、出せばいい。その根拠を出さず、基礎控除の部分が低すぎるという議論をしないのは金額以前の問題だ。178万円という金額は、例えば生活保護を考えたら月10万、年120万。そこに給与所得控除(現行の最低額は55万円)を加えれば、ほぼ我々と言っている金額と変わらない。

2)「103万円の壁」引き上げの財源は? 国民・古川氏の説明に立憲・長妻氏は…

「年収の壁」引き上げのための、財源について問われた古川元久氏(国民民主党代表代行)は、近年の税収増加により当面の財源は確保できるとし、まずは経済の好循環を優先すべきと強調した。

トラスショック
足元のところで言えば、デフレからインフレになり、税金は名目GDPにかかるので、非常に税収が増えている。その税収増を「年収の壁」引き上げに必要な財源に充てれば当分は大丈夫だと思っている。 
何よりも今、大切なのは、物価上昇を越える給料アップを実現して、持続的な経済の好循環を生み出していくことだ。現役世代の給料が上がらないと、年金の給付額も増えない。いち早く実現していきたいが、その過程でまだ時間がかかる部分がある。今のままでは実質賃金が下がり、デフレに逆戻りしてしまう可能性がある。 
政治ができることは、直接給料を上げることはできないが、電気代やガス代、あるいはガソリン代などの生活に必要な費用を下げること。それによって、手取りを増やす。経済が分岐点にあるからこそ、財政措置や減税で支えていかなくてはならない。我々は今、それが必要だ。プライマリーバランスの、今年の黒字化は諦めるべきだが、同時に、中長期で財政をチェックする、独立機関の設置も訴えている。
プライマリー

長妻昭氏(立憲民主党代表代行)は、今が日本経済の分岐点だとする古川氏の主張には理解を示しつつ、「103万円の壁」を引き上げる場合は恒久措置となることを踏まえ、財源の確保と格差是正のあり方に言及した。

長妻氏
この措置によって、お金持ちが得をして減税になるのではなく、格差が拡大しないようにしないといけない。どこから財源を得るかによって、格差の是正は左右される。所得税がかかる年収を178万円に引き上げた場合、相当な財源が必要とされており、7兆円前後とも言われている。それだけの財源があれば、例えば、大学の無償化が実施できるし、社会保障の、ほころびとなってきた懸案事項もかなり対応できる。どこにどのように予算を投じるのが効果的なのかという議論も、次の段階では必要ではないか。

3)“連続選挙”夏の陣に向けて… 与党過半数割れ「内閣不信任案」提出は?

野党第一党である立憲民主党はどのような動きを見せているのか。小川幹事長は「2月には本予算、3月に企業団体献金、4月には選択的夫婦別姓を含めた重要法案。そして6月以降、政権を信任するかどうかも含めて大きな議論、7月には都議選、参議院選」と述べた。与党過半数割れの衆院に内閣不信任案を提出するということなのか。長妻昭氏(立憲民主党代表代行)は、今後の国会審議の展望を以下のように述べた。

小川幹事長
内閣不信任案を出すか出さないかという議論は、今年はまだ始まっていない。まず3月までの大きな勝負が私は二つあると思っている。一つは、企業団体献金をパーティーも含めて禁止する。これは3月末までに結論を出すと石破首相も言及されているので、絶対にやりたい。日本の政治、予算が歪められて、皆さんが税金、社会保険料を払えども、払えども自分たちの生活が良くならないと。この実感を変えて、まともな配分を行うためにも企業団体献金の廃止は重要だ。
もうひとつは、3月は春闘の妥結の時期でもあり、労働組合がない企業も含めて賃金に大きな影響を与えるので、あらゆる政策を総動員して給料が上がるようにしたい。そのような勢いをつけて、構造的な改革に結びつける。非正規の問題や、最低賃金のさらなる引き上げ。企業は株主を優遇しすぎて、配当・内部留保・自社株買いが増えている。これらを給料に回すような構造変革が必要だ。3月末までに徹底的に取り組んでいく。
そして、4月5月はおそらく各委員会で法律の審議になる。選択的夫婦別姓含めて、多くの問題、課題に取り組み、実現しなくてはならない。 
本予算ではもちろん、教育の無償化、給食費の無償化、あるいは高校授業料の所得制限撤廃、大学の無償化の段階的実現などへの取り組みが必要になる。あとは、国会がコントロールできる、介護や保育士の方々の報酬、給与。大幅に処遇改善したい。このようなことが相まって、4月5月6月と行くので、その後の審議や政策実現の状況を見ながら判断することになる。
山場

「年収の壁」問題で国民民主党が自民党に合意した場合、本予算に賛成することとなる。仮にその後、立憲民主党が6月に内閣不信任案を提出した場合、国民民主党が不信任に賛成する展開もあるか、との久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)の質問に対し、古川元久氏(国民民主・党代表代行)は、「十分あり得る」と発言した。

あらゆる可能性は否定しない。今の状況下では、与党はどこかを味方につけ賛成を得なければ予算も成立することができない。我々はあくまで、本予算に賛成するかもしれないという、いわば条件としての協議をしているのであり、予算案に賛成をしたからと言って、全体が全部、良いと思っているわけではない。不信任賛成も十分あり得る。それを否定するものではない。

番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は長妻、古川両氏に「政治を動かしていただきたい。国民のエネルギーが溜まっているので、是非この国会、真剣に慣例を無視してやっていただきたい」と述べ、この日の議論を締めくくった。

<出演者>

長妻昭(立憲民主党 党代表代行。元日経BP記者。衆院東京27区選出 2000年初当選。厚生労働大臣、政調会長など要職を歴任。9期目)

古川元久(国民民主党 党代表代行。元大蔵官僚。1996年に衆院愛知2区で初当選。国家戦略担当大臣などの要職を歴任。10期目)

久江雅彦(共同通信社編集委員兼論説委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評。新著に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』(岩波新書))

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。永田町や霞が関に独自の情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)

(『BS日曜スクープ』2025年1月19日放送分より)