「のぞみ」増発の裏側 時短とコロナ…奇跡の両立![2020/08/08 09:11]

 1964年、オリンピック直前に開業した東海道新幹線。東京−新大阪間を4時間で結びました。それから56年…。
 藤井棋聖:「N700Sがデビューしたので、一度乗れたらいいな」
 藤井聡太棋聖も注目の新型車両も登場。今では、2時間30分以内に短縮。「のぞみ」の本数も1時間10本から12本。「のぞみ」12本時代に。増便の背景にはコロナ対策がありました。時短とコロナ対策、奇跡の両立。コロナ対策をしながら増便を達成した究極のダイヤの裏側に迫ります。
 一日あたり約47万7000人を運ぶ、日本の大動脈「東海道新幹線」。一日370本以上が走っています。コロナウイルスの感染拡大が続くなか、東海道新幹線ののぞみが1時間あたり最大12本に増便されます。その背景にはコロナ対策があるのだといいます。1時間10本を12本に増便することで客を分散し、「密」を避けるのが今回の新しいダイヤの狙いです。コロナ対策をしながら、増便を実現させた最高責任者・辻村厚さんを直撃しました。

 「最高速アップで本数を増やせ」
 JR東海新幹線運輸営業部長・辻村厚さん:「(Q.こちらに並んでいる車両は何という種類?)N700系です」
 JR東海新幹線運輸営業部長・辻村厚さん:「(Q.今ということですけど、元々は何種類かあった?)以前はN700系と700系の2種類ありました。実は、この車を統一したということは2本増やすことの大きな鍵になったんです」
 統一されたN700系は、カーブを高速で走行できるシステムを搭載。最高速度を15キロアップさせ、285キロになりました。
 JR東海新幹線運輸営業部長・辻村厚さん:「(Q.車両速度の違いで影響は?)前に遅い車両が走っていると、後ろから285キロで走っても、どうしても前が詰まってくる。列車本数を増やせないんですね」
 最高速度が違う列車が同じ線路を走ると、間隔が空いてしまいます。そこで、車両を統一することで、すべての列車が同じ最高速度で走れるようになりました。そのため、列車同士の間隔を詰めることができ、2本の増発が可能になったのです。しかし、これは理論上の話。実現は東京駅での時短に懸かっていました。増発すると、東京駅に出入りする列車が増えるため、「折り返し時間の短縮」が必要であることが判明。計算の結果、これまでよりも2分の短縮が必要であることが分かったのです。

 「新型コロナVS“神業”集団」
 「神業」職人集団に、2分の短縮とコロナ対策という2つのミッションが託されました。
 JR東海新幹線運輸営業部長・辻村厚さん:「(Q.新幹線が着きましたが、清掃員の方が並んでいます。掃除にも時間がかかるのですか?)以前は12分かかっていました。『のぞみ12本』のために、清掃作業をさらに短くする必要があった」
 車内のコロナ対策はどうなっているのか。2分短縮のミッションを託されたのが、清掃チームです。折り返し待ちの列車の清掃に密着しました。案内してくれるのは、この道12年のベテラン・徳永睦子さんです。
 新幹線が到着して扉が開きました。ここから清掃が終了するまでどれくらい時間がかかるのか、実際に計ってみます。制限時間は10分間。車内の清掃は2両を5人で担当します。まずは、座席を進行方向に向けて回転させます。あっという間にひっくり返ります。小さなほうきを手に取りました。
 新幹線メンテナンス東海・徳永睦子さん:「これは『座席払いぼうき付き濡れ検知器』といって、座席を払いながら濡れの検知するために掛けています」
 座席が濡れていると、ほうきに付いたセンサーが水分を感知、ブザーで知らせてくれる優れものです。コロナウイルスが潜んでいるかもしれないほこりも除去します。
 新幹線メンテナンス東海・徳永睦子さん:「(Q.ほうき掛けは一人でやっているんですか?)半分ずつですね。1車両で半分ずつ担当しています。今、濡れがありました」「(Q.ブザーが鳴ったわけですね。こうなると、どうなるんですか?)座席の上にシールを貼り、座席の交換をしてもらう」
 すぐに駆け付けた車掌の協力で原状復帰です。まもなく5分になります。ここで、もう一つの秘密道具が登場しました。
 新幹線メンテナンス東海・徳永睦子さん:「(Q.モップ掛けですか?)掃きながら濡れているところも拭ける『鋭角ラバーぼうき』といって、2つの仕事をします」
 これで舞い上がるほこりの吸い込みを防げますね。これらの道具に加えてスタッフの熟練、連携によって時短が積み重ねられています。さらに、新たに追加されたのは、車掌が車内を巡回しながら、乗客が触れる機会の多いトイレのドアノブなどの消毒作業です。
 もう一つ気になるのが「換気」です。窓が開かない新幹線の車内は、密閉空間と思われがちですが、N700系の換気装置でわずか6分から8分で車内の空気すべてを入れ替えています。
 3つ目の秘密道具がこちら。作業終了を専用のスマホアプリで報告します。各車両の責任者からスマホで続々と作業終了の報告が上がってきます。目標は10分以内、達成できたのか。目標の10分を大きく上回り、余裕を持って作業を終了しました。

 「新型コロナダイヤ“秒”の挑戦」
 線路を切り替える「ポイント」にも、時間短縮の鍵がありました。
 JR東海新幹線運輸営業部長・辻村厚さん:「(Q.カタカナの『ヨ』という字が出ましたね。さらに切り替わりました。これはどういう意味ですか?)『ヨ』はポイントを切り替える指示を出した予告灯の『ヨ』です。『〇』がポイントが替わったことを表した指示です」
 「〇」は、線路の準備ができたという合図です。新たに導入された「ヨ」の合図は「〇」に切り替わる予告で、その分、出発の作業を早めることができるのです。「ヨ」から「〇」に切り替わるまで、約5秒でした。東京駅からは1時間に最大18本の列車が出発します。仮にすべての列車で5秒削ることができれば、1分30秒の時間が生まれます。
 JR東海新幹線運輸営業部長・辻村厚さん:「この積み重ねでのぞみが12本になることができた。皆さんご経験あると思うんですが、例えば金曜日の夕方、バツがついていますね。予約ですべて満席と。それを今回、列車本数を増やすことで、なるべく『〇』にしていこうと」「(Q.1本増やすとどれくらい乗れる?)1本増やすと1300人ですね」
 列車の本数が増えることによって、駅や車内の滞在時間が短縮されるのに加え、密を避けることができるようになりました。まさに“withコロナ”のダイヤが7日から始まります。

こちらも読まれています