東京電力福島第一原発で廃炉作業が進む一方で、増え続ける処理水を巡って福島県内の漁業関係者の間では懸念が高まっています。
市場に鐘が鳴り響くと仲買人が獲れたての魚を囲みます。相馬市で水産加工業を営む中澤正英さんも競りに加わっていました。たくさんの魚を買いつけ、忙しそうに駆け回ります。
水産加工業・中澤正英さん:「こういうの大好きなんだ、俺。こういう魚。シラウオっていう魚」「(この辺では有名?)そうそうそう」
満足そうな中澤さん。市場も活気があるように見えますが、県内の水揚げ量はいまだに震災前の2割に満たない状態です。
水産加工業・中澤正英さん:「震災前に比べれば全然(少ない)…試験操業の中でやってるから仕方がないんだけどさ」
試験操業。原発事故の後、福島では2012年から漁の回数や水揚げ量を制限して漁業を行ってきました。来月からは制限を緩和していく計画ですが…。
水産加工業・中澤正英さん:「あれから10年経って、変わったか?て言ったら、確かに風評被害は少なくなってきてるんだけど、『福島の』っていうところは、まだあるんだよ」
徹底した検査をして安全な商品を出荷していても、いまだに残る原発事故の影響。水揚げ量が戻ったとしても新たな壁が立ちはだかります。
福島県水産加工業連合会・小野利仁代表:「スーパーにしても各市場にしても一番先に言うことは安定供給っていうんですよ」
10年もの間、通常の漁業が再開できなかったことで福島の魚を売る場所が失われてしまったのです。水揚げ量も限られる試験操業では安定供給が難しく、その間に他県の魚が福島の魚に取って代わってしまったといいます。
福島県水産加工業連合会・小野利仁代表:「とりあえず魚をどんどん揚げて、それを各市場にどんどん供給して、福島の漁業、結構やってるんだなって一般の人にも認識してもらわないと、その次の段階には行けないと思う」
そして今、別の問題が漁業関係者の頭を悩ませています。
福島第一原発の敷地内に並ぶ1000基以上のタンク。放射性物質に汚染された水を浄化処理した水が保管されています。しかし、このタンクも来年秋ごろには満杯になる見通しで、処理水の処分方法として有力視されているのがさらに薄めたうえで海に流す海洋放出です。
国際的に認められた処分方法ですが、さらなる風評被害が懸念されているのです。
また、福島県沖で先月水揚げされたクロソイという魚から基準値を超える放射性物質が検出され出荷停止に。漁業関係者は不安がぬぐえません。
水産加工業・中澤正英さん:「不安がないのはうそだから。でも不安ばかり考えるより希望の方がいいのかなと。今度、拡大操業てなるにつれて魚が揚がってきて年が経つことで風評被害が少なくなってくれたらいいなと」
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