子どもが受ける「女だから」という“呪い”日々の“もやもや”がジェンダーギャップに[2022/07/14 18:00]

「親から『女の子なんだから料理ができるように』とか『女の子なのに口が悪い』とか言われる。女らしくなくてもよくない?」
福島県で「こども食堂」を運営する鴻巣麻里香さん(43)は、中学生の女子生徒からこんな疑問を投げかけられた。
「女の子だから…」「女の子なのに…」
家庭や学校で言われ続ける言葉に“もやもや”を感じる女子たちは多い。鴻巣さんは、こうした言葉を「“呪い”のようなもの」と指摘する。そしてこんな不安を感じてしまうのだ。
「この“呪い”は大人になってもつきまとい、女性の人生を変えてしまっているのではないか?」
先日、世界経済フォーラムが公表した各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数で、日本は116位。例年同様、主要先進国の中で最も低い。“政治”と”経済”の分野での男女格差が足を引っ張っている。
一向に改善されない日本のジェンダーギャップ。その背景を、「こども食堂」に集まる子どもたちの“もやもや”から考えてみる。

◆「女の子は気が利く」「男の子だからしょうがない」の“もやもや”

「おかえりー!」
毎週月曜の夕方になると、鴻巣さんが子どもたちを迎える声が響く。
福島県白河市のこども食堂「たべまな」。福島県のスクールソーシャルワーカーを務める鴻巣さんが、子どもの居場所づくりとして2015年に始めた。
現在は小学生から高校生まで、毎週20人ほどの子どもたちが集まる。子どもたちにとっては、友達と一緒に過ごす場所であり、何となく居心地の悪さを感じる学校や家から解放される空間ともなっている。ここで子どもたちは、他の学校の友達や、年上の高校生や手伝いにくる地域の大人たちとご飯を作ったり、一緒に勉強したりする。
鴻巣さんも子どもたちと積極的に話をする。家からも学校からも離れた場所だからこそ、子どもたちは普段感じている、ちょっとした悩みや疑問を気軽に口にできる。鴻巣さんが特に気になるのは、ジェンダーに関して女子たちが感じている”もやもや“だ。

中学3年の女子生徒(14)も学校でこんな“もやもや”を感じた。卒業式の練習の時だった。
「女子は足をそろえて、手を重ねて座れと先生に言われた。男子は足を少し広げて、手を拳に。なんかちょっと違和感っていうか。姿勢よく座っていればどっちでもいいんじゃないかなと思って。」
また、こんな場面もあった。
「男子が性に関する話を大きい声でしていたり、女子の見た目について、一方的にデブとかブスとか言っている。でも先生は『男子は子どもだから仕方ない』とあまり問題にしていなかった。」

鴻巣さんは「相手が嫌な思いをしているのに、『男の子は子どもだから』で片づける場面は多い。でも、『男の子だからしょうがない』と言われてきた結果、大人になって、平気でセクハラ発言したりするんじゃないかな。」と答えた。

子どもたちは、他にどんなところで“もやもや”を感じるのか。鴻巣さんに聞いてみると、こども食堂の中でも「女の子だから」「男の子だから」が垣間見えることがあると話してくれた。
「女の子が率先して片づけをしたときに、ある親御さんが『いいね、女の子は本当に気が利いて』と言ったんです。でも、それって本当に“呪い”で。『女の子は気が利かなければならない』ってことにつながるんですよね。逆に、男の子が洗い物をしたりすると、『男の子なのにえらい』みたいな。」「私たちの世代が上の世代にナチュラルに言われてしまって、もやもやしたり、しんどいなって思ってきたものを、やっぱり繰り返してしまっている場面というのはよく見ますね。苦しかったはずなのになって。」

「家事をするのは女性」という性別による役割分担の考え方は、母親ばかりが家事をすることなど、日々の生活を通して、自然と子どもたちに引き継がれてしまうことが多いと、鴻巣さんは指摘した。

◆「女の子だから」で生まれる学歴の差

鴻巣さんは、性別による役割分担の考え方が、子どもたちの学歴の差にもつながっていると感じている。
「この地域は、とりあえず女性はいずれどこかに嫁いで子どもを産むんだからという考えが根強い。私よりもずっと年下の子たちが『まあ女なんだから大学はいかなくていいだろう』とか言われているんです。あとは『女の子だから大学とかは行く必要はないけど、まあそれだと今どきかわいそうだから、短大は行かしてやった』という年配の方とかがいて…。」

こども食堂に来る高校生の中には、「県内の大学にしか行かせられない」と親に言われた女子生徒がいた。一方、兄や弟は、東京など他県の私立大学の受験を許されていたという。女子生徒からは「男女の差で、機会が奪われていたことに気がついた」という声が寄せられたという。

「家の中で『女の子だから勉強もしなくていいし、家の中のことができればいいから』というメッセージを浴びて育ってしまう人たちがいる。女の子は大学なんて行かなくたって構わないという価値観の中で、自分に何かができるという可能性を、最初からその芽を家庭の中で摘まれてしまっている子もいるんです。」
鴻巣さんは、日々の生活の中の男女の扱いが、学歴、それに伴う経済力の差につながり、男女の格差「ジェンダーギャップ」に表れていると考えている。

◆子どもたちがチャンスをつかむには

鴻巣さんはこども食堂に、たくさんの本を置いている。中でも、ジェンダーに関する本を手に取る子どもたちが多いという。自分たちでいろんな情報に触れようとする若い世代に、希望を持っている。
「今は良くも悪くもSNSなどでいろんな情報が入ってくる。びっくりするくらい、ジェンダーやダイバーシティなどについて調べている子たちがいます。情報量が圧倒的に私たちの頃より増えているので、自分の環境を相対化できる可能性があるいうことです。」「そうすると環境に恵まれていなくても、ポンと抜け出せる子たちも出てきます。」
「ただ自分を相対化して、そこから抜け出そうとしても、チャンスの差や機会に恵まれなかったりすると、本人の努力だけでは難しいケースもあります。」

「女だから」と子どものころから受けてきた“呪い”は、大人になってからも色濃く残ると鴻巣さんは指摘する。鴻巣さんが関わった女性たちの中には、生まれた場所や家庭環境の差で、活躍したくても活躍できない女性たちがいるのだ。

テレビ朝日報道局 笠井理沙

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