最低賃金の目安 過去最大の上げ幅31円で全国平均961円に 背景に物価高の深刻な影響[2022/08/04 00:46]

▼物価高を背景に過去最大の引き上げ幅「全国平均31円に」
8月1日、最低賃金の引き上げ幅を決める大詰めの審議が決着した。今年度は31円の引き上げで、全国平均で時給961円とする目安がまとまった。ウクライナ侵攻などの影響で物価高が家計を圧迫していることが反映された形で、引き上げ幅は過去最大だった昨年度の28円を上回った。一方で、原材料費の高騰も続く。経営者側からは「利益をどう出せばいいのか」と悲鳴も聞こえる。労働者側と経営者側。双方の思いを取材した。

▼アルバイトで生計 40代男性「時給が上がれば生活は少しでも楽に」
都内の飲食店で働く40代の男性は、過去最大の引き上げ幅に評価を示しつつも、「生活への影響を感じられるかは疑問」と語る。25年勤めていた会社はコロナ禍で倒産した。現在は週に4日ほど、アルバイトとして生計を立てている。手取りは月に平均12万円で、妻もパートとして働いているが、娘3人の学費に加え住宅ローンも重くのしかかる。家族5人で生活するには「全然足りていない」と嘆く。

―アルバイトで働く40代男性
「今まで貯めてきた貯金を切り崩しながら生活している状態。物価高で野菜などもすごく高騰しているので、玉ねぎひとつ買うにも特売しているスーパーを探し回っている。時給が上がれば、やっぱり生活は少しでも楽になると思う。生活にもゆとりが出てくると思うので、徐々にでも最低賃金を上げていってほしい。」

現在、最低賃金が最も高いのは東京都の1041円(最も低いのは高知県と沖縄県で820円)。
今回決まった目安通りに引き上げが行われれば、東京都の最低賃金は1072円になる。しかし、男性は「日本の賃金水準は海外と比べても低く、生活にゆとりが持てるようになるには、時給1500円はほしい」と大胆な引き上げを求める。実際に諸外国の最低賃金は、イギリス約1530円、フランス約1460円となっている。

▼飲食店経営者「利益をどう出せば」「負担はかなり大きい」
一方の経営者側。引き上げには慎重な意見が聞かれた。都内でイタリア料理店を6店舗展開する会社では、およそ80人のアルバイトが働く。東京都の最低賃金を基準に、時給を1050円からのスタートにしていて、月々の給与の支払い総額は400万円ほどにのぼるという。仮に決定通り時給をおよそ30円引き上げるとすれば、月におよそ10万円の支払いが増えることになる。年間では120万円以上負担が増えることになる。

―ピアンタカンパニー伊藤秀樹社長
「最低賃金が、働く方々にとって欧米並みに上がっていくことについては非常に好意的には受け止めている。ただ状況が状況で、特に飲食店に関してはまだまだ厳しい状況。この先の見通しが立たない。コロナ前の2019年と比べると売上が戻りきらない中で、引き上げの議論というのは率直に、『また今年もか』という印象」

新型コロナの影響で売り上げに大きな打撃を受けた。そこに拍車をかけたのが、物価の高騰だ。「原材料費は上がるいっぽうだ」と伊藤社長は漏らす。取引先の企業では、この春、7割以上の商品で値上げが行われたという。

―ピアンタカンパニー伊藤秀樹社長
「原価率の高騰や食材費の高騰などもこれからどこで着地するのかがわからないぐらい上がり続けている。そんな中で、人件費も圧迫している。飲食店はいま利益をどうやって出そうかという中で、人件費の負担増というのは舵取りをかなり考えさせられることになる。景気が良くなって売り上げが上がり、働く方々の待遇が良くなるのが一番自然な流れだと思うので、世の中の消費行動を加速するような対策を期待したい」

▼異例の日程で結論 1週間の持ち越しを経ての決着で 今後の対策は?
今年度の審議では、労働者側も経営者側も共に「引き上げの必要性」については一致していた。しかし、労働者側が大幅な引き上げを主張したのに対し、経営者側は支払い能力に見合った引き上げを求め議論は難航した。
取材をしていると、異例の事態が起きる。大詰めの審議は7月25日に始まったが、この日は決着がつかなかった。例年ならば翌日に再開されるが、なかなか次の開催日が決まらない…。
厚労省の担当者は会見で「例年以上に引き上げの目安と根拠を明確で納得できるものにしてほしいという労使双方からの主張があった」と明らかにした。背景にあったのは昨年度の引き上げ幅の決着の仕方だった。本来、最低賃金は労働者側と経営者側が議論を尽くして目安案を受け入れる形で決められる。しかし、昨年度は政府が事前に繰り返し大幅な引き上げを求めるなど強く介入したことから、決着の前に経営者側から反対の手が挙がったのだ。最終的に採決の形をとり決着した。そのため、今年度はより慎重な議論が必要と判断された。これが異例の事態が起きた理由だった。
その後、水面下で調整が行われ、1週間後の8月1日に再度審議が開かれる。最終的には労使双方が過去最大の引き上げ幅を受け入れてようやく決着した。
今後は示された目安をもとに、各都道府県の審議会で実際の金額が議論され、10月ごろに新たな最低賃金が適用されることになる。政府は最低賃金をできる限り早く、全国平均で1000円に引き上げる方針を示していて、社会情勢を睨みながらになるが賃金の底上げは続きそうだ。

テレビ朝日社会部厚労省担当 上田健太郎

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