予報士のつぶやき 天気予報の「寒気」は2種類ある[2022/11/11 13:21]

「寒気が入ってくるのに、気温が上がるって意味わからん。」

これは先日、友人に会った際にかけられた言葉です。私の気象解説をテレビで見てくれたようなのですが、開口一番、厳しい感想が飛び出してきました。友人としての忖度はありません。いえ、むしろ友人だからこその“愛あるコメント”なのでしょう。

当時、私がどんな解説をしたかと言いますと……

「上空に寒気が入ってくる一方で、地上の気温は上がるので、大気の状態が不安定になります。急な雷雨にご注意ください。」

ざっくりこんな感じです。同じようなコメントを天気予報で見聞きしたことがある、という方もいらっしゃるかもしれません。気象予報士として何の疑いもなく発した言葉でしたが、見てくれた友人にとっては疑問の残る解説だったそうです。すべては私の未熟さゆえです。ごめんなさい……。

じつは、天気予報に登場する「寒気」は主に2種類あります。今回は、2種類の寒気を見分ける際のポイントと、それぞれの特徴を紹介します。

■寒気の種類を見分けるポイントは?
注目するポイントは、寒気が入ってくる高度です。寒気の予想画面が出てきた際に、「上空○○m付近」という文言が画面のどこかに入っているはずです。2種類の寒気は、この高度に違いがあるのです。一つは、上空5500m付近の寒気で、こちらは雨雲・雪雲を発達させる力を持っています。もう一方は、上空1500m付近の寒気で、地上の気温に影響しています。

■寒気その1 雨雲・雪雲を発達させる力を持つ寒気
まずは高い空の寒気、上空5500m付近の寒気についてです。高い空の寒気なので、地上の気温には影響しません。上空5500m付近に寒気が入ると、上昇気流が強まりやすくなります。いわゆる「大気の状態が不安定」になるのです。大気の状態が不安定になると、雲が空高くまで成長して、雷雨や大雪をもたらす積乱雲にまで発達することがあります。このため、上空5500m付近に寒気が入ってくるときは、天気の急変や大雨・大雪に注意を呼びかけます。

■寒気その2 地上の気温に影響する寒気
もう一つは、より低い空の寒気、上空1500m付近の寒気です。こちらの高さの寒気は、地上の気温に大きく影響します。上空1500m付近に強い寒気が入れば地上の気温も下がりますし、寒気が抜ければ地上の気温も上がるのです。数字的な目安としては、上空1500m付近で0℃以下の寒気が入れば山で雪が降るような寒さに、-6℃以下の寒気が入れば地上でも雪が降るような寒さになります。

私は気象の勉強をするまで、寒気の高度の違いに気づきもしませんでしたし、それぞれの特徴も知りませんでした。天気に携わった仕事を毎日していると、一般的な視点をつい忘れてしまいがちです。友人からの率直な言葉は、2分弱のテレビの気象解説の中で、どういう画面作り、言葉選びをすれば、より伝わる解説になるのか、立ち止まって考える機会になりました。

これから冬が本格化するなかで、天気予報に寒気が登場する機会は増えてくると思います。寒気の予想画面が出てきたら、寒気の高度にもぜひ注目してみてください。その上で、気象キャスターが何に注意が必要と呼び掛けているのかに耳を傾けていただけると嬉しいです。

テレビ朝日気象デスク 津田紗矢佳

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