“危険な盛り土”千葉に集中する理由 崩落事故も…住民「泣き寝入りするしかない」[2022/12/07 15:29]

今年9月、市に無許可で「土砂を搬入し盛り土をした」条例違反の疑いで、建設業の男2人が逮捕されました。

 熱海の土砂災害を受け、来年施行される「盛り土規制法」など規制強化が図られるなか、現在の「危険な盛り土」はどうなっているのか?その実態を追跡しました。

■地権者の一人「勝手にやられた」「警察を呼んだ」

 今も、盛り土は危険な状態。目の前の家の住人は、次のように話します。

 「盛り土」の目の前に住む住民:「だいぶ崩れてきてますよ。いくらかね」「圧迫感もあるし、台風がきたり、大きい雨が降ると、見に来ちゃいますよね、朝とか」

 警察によると、男らは地権者の一人に「あなたの土地にくぼみがある。無料で埋めてあげますよ」などと持ち掛けました。その後の捜査で、およそ1万平方メートルの空き地に5月までに大型ダンプカー3300台分の土砂が搬入されたことが確認されました。

 「盛り土」の目の前に住む住民:「夜中の4時とかから作業が始まって」「すごい騒音、ダンプが来てたんで。あれよあれよという間に、こんなんなっちゃった」

 地権者の中には、「全く話を聞いていない」という人もいます。

 地権者の一人:「勝手にやられたの。(盛り土と)関係なくて、土がどんどん押し寄せて。うちまで被害を受けたので。警察を呼んだの、野田警察署」

 市は事業者に対して、土砂を撤去するよう措置命令を出しましたが、現在も撤去作業は始まっていません。

 逮捕された事業者はその後、略式起訴され、80万円の罰金刑を受けています。撤去はするのか?事業者は、次のように話します。

 事業者:「(Q.撤去命令が下されているが、その後の対応は?)まだ分かりません。相談してやります。失礼します」「(Q.12月28日が期限ですが…?)…」

 市は、事業者がこのまま土砂の撤去に従わない場合、「刑事告発も検討する」といいます。

■なぜ千葉に「盛り土集中」? “狙われる要因”は…

 去年7月、熱海市で発生した土石流災害。「不適切な盛り土」が一因だとされています。

 通常、工事などで出た残土は、許可を受けた処分場に運ばれて適正に処理されますが、事故を受け国が調査したところ、「是正が必要な盛り土」の数は全国に1000カ所以上。実は、その3割にあたる329カ所が千葉県に集中し、北部・中部を中心にほぼ全域に渡っています。

 中でも5件は、「崩落で住宅等への被害の可能性がある」とされています。その1つでは、すでに崩落事故が起きていました。

 多古町にある高さおよそ30メートルの巨大な盛り土。去年6月、この盛り土が崩落。土砂はガードレールを壊すなどして、県道を約60メートルに渡って塞ぎました。

 盛り土の目の前に住む女性は、事故後、夜間は宿泊施設で避難生活を送ることになりました。

 「盛り土」の目の前に住む女性:「これが、もっとダダダッと来そうな感じでしょ。すごい奇跡なのね」「(Q.奇跡的に、ここでピタッと止まった?)まさか、こんなことが起こるなんて。夢にも思ってませんでした」

 事故から1年半が経っても、盛り土は残ったままです。

 「盛り土」の目の前に住む女性:「泣き寝入りするしかないよ。今の状況では」

 町役場によると、事業者は盛り土を低くする作業は行っているが、撤去費用が支払えないため、すべての残土を撤去できるかは分からないと話しているといいます。しかし、一体なぜ、千葉県で無許可の盛り土が横行するのでしょうか?

 26年間で、100件以上の不正盛り土の実態調査を行ってきた、残土・産廃問題ネットワークちばの藤原寿和さんによると…。

 藤原さん:「首都圏の大量に残土が出る東京・神奈川等から、千葉は近いから距離的な問題は大きい。アクアラインから房総のほうに、持ち込みやすくなった」

 開発工事などが多い、東京や神奈川などの大都市から近く、高速道路から山間部の多いエリアへアクセスしやすいことが、狙われる要因になっているというのです。

 さらに、許可を受けた処分場では一定の費用がかかるため、無許可の土地に土砂を運び込む悪質な業者が存在し、なだらかな山が多い千葉県内の谷や休耕地に、危険な盛り土をしているといいます。

 藤原さん:「谷地は埋め立てやすい。経費もかからずに、簡単に埋め立てができる。平地の場合は、目に付かない所で不耕作地が狙われやすい」

■寺関係者「工事は寺の施設を造るためではない」

 追跡取材班は、千葉県が住宅への危険を指摘した盛り土がある県南部の君津市へ向かいました。

 山の上に盛られた大量の残土は、高さ13メートル。上空から見ると、山を切り開き、盛り土されているのが分かります。整地されていますが、かなり急な斜面になっている場所もあります。

 住宅に面している一部分には、崩落防止のブルーシートが掛けられています。

 盛り土のすぐ下の家を訪ねました。

 「盛り土」のすぐ下に住む男性:「雨が怖いですね。ゆっくり崩れてきているんで。寝てる時に土砂が来てしまったら、一番困るなという。すごい恐怖があります」

 作業が始まったのは去年の1月ごろ、10カ月で現在のような盛り土ができたといいます。

 「盛り土」のすぐ下に住む男性:「ダンプが来てる時は、毎日、震度4〜5くらい揺れている状態だった」

 住民説明会も開かれましたが…。

 住民説明会に参加した男性:「何ができるか、はっきり言わなかったですね。『図面があったら見せてくれ』と言ったら、『そんなものはない』って」

 一体、何のための工事なのか?土砂の搬入口に行ってみると、そこには、寺の名前が書かれた立て看板がありました。

 県に確認したところ、寺の施設を建てる計画になっていました。

 実は、この山を所有しているのは、ある宗教法人で、およそ35年前、寺の施設を作るため開発を始めましたが、バブル崩壊の時期に工事は中止に…。それが去年、突然再開したというのです。

 寺の住所を訪ねてみました。しかし、人がいる気配はありません。近所で聞いてみると、「3年以上誰も住んでいない」といいます。

 すると突然、寺の関係者だという男性は、「工事は寺の施設を造るためではない」といいます。

 男性:「私自身、(寺の)責任役員になっているんだけど、(寺と)縁を切ろうと思っている。山にダンプで土を入れる考えは、5年ぐらい前からあったみたい」「(寺の事業者が)お金が欲しいから、産業廃棄物の土を入れさせて、お金をもらおうという考え」

 盛り土は、産業廃棄物を運搬するトラックのための道作りだというのです。

 県は土砂の搬入を中止させ、今年5月、寺に対して盛り土を撤去するよう復旧命令を出しましたが、従わないといいます。

 撤去は行わないのか?追跡取材班は、この男性から情報を聞き、現在、寺があるという東京都内へ。そこは、またも住宅街にありました。何度か訪ねましたが、話を聞くことはできませんでした。

 熱海の災害を受け成立した「盛り土規制法」。最高3億円の罰金など規制を強化し、来年5月に施行される予定です。

(「スーパーJチャンネル」2022年12月6日放送分より)

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