「想像以上だった」ふるさと納税に活気づく町 でも、職員が抱く複雑な思い[2022/12/20 11:30]

2008年に始まった、ふるさと納税。
寄付額は年々増加し、昨年度は約8300億円となり過去最高となった。

福島県でも、過去最高の寄付額を記録する自治体が相次いでいる。
福島市では、季節に合わせたフルーツの定期便が返礼品として大人気。
棚倉町では意外にも、ペット用吸水シートが最も多く選ばれている。

しかし、こうした市や町の担当者からは、喜びの一方で、「町の魅力を発信できていないのでは」など、複雑な声が聞こえてきた。

寄付を受ける側から見た、ふるさと納税の現状を取材した。

■「こんなに増えるとは…」 ペットシートで寄付額が20倍超

福島県南部にある棚倉町。
人口1万3000人ほどの町が、ふるさと納税で活気づいている。

昨年度の寄付額は2億4000万円を超え、町として初めて2億円を超えた。今年はそれを上回る勢いで寄付を集め続けている。

返礼品として一番選ばれているのは、衛生用品の大手メーカー「ユニ・チャーム」のペット用吸水シートだ。ペット用のおむつや子ども用のおむつなども合わせると、棚倉町に寄付をした人の8割ほどが、返礼品にユニ・チャーム製品を選んでいる。

ユニ・チャーム製品を返礼品にする前、年間1000万円ほどだった寄付額は年々増え続け、この4年で20倍を超えた。

「想像以上だった」と話すのは、棚倉町役場総務課の近藤聡さん。
町がユニ・チャーム製品を返礼品にしたのは、2018年のことだった。
「町内に工場があるということで、町からユニ・チャーム製品を返礼品にできないかとお願いしました。当時の担当者もここまで増えるとは想定していなかったと思います」

寄付額が増え続ける背景には、新型コロナの感染拡大や物価高の影響が考えられるという。
「コロナの感染拡大で自宅にいることが増えたこと、また物価高の影響で、消耗品のニーズが高くなったのかなとみています。リピーターの方からの注文が多いです」

年々寄付額が増え、喜びを感じる一方、近藤さんはある悩みを抱えているという。

「寄付額をさらに増やすためには、ユニ・チャーム製品を増やすなど、まだ手はあります。しかし、『おむつの町』という印象が強くなりすぎてしまって、さらなる町の魅力が伝わりにくくなってしまうのかなと…。
返礼品が人気になり、せっかく注目が集まっているときだからこそ、町の魅力を多くの人に知ってもらい、観光客を増やすなど、長期的な町の利益につなげたい。
役場内でも、とにかく寄付額を増やそうという意見と、町のPRにつなげなくてはという意見で分かれています」

ユニ・チャーム製品以外の返礼品には、地元野菜の詰め合わせや町の特産品ブルーベリーのジャムなどが並ぶ。しかし、注文数は伸び悩んでいるのが、現状だ。

「ふるさと納税をして、町に興味を持ってもらって、来てもらってつながりができるというのが理想です。今後はそのあたりに力を入れていけたらいいのですが…」

■市の組織改革 寄付額が6倍に

福島県内で最も多い寄付額を集めているのが、福島市だ。昨年度の寄付額は、12億5000万円を超えた。

福島市で最も選ばれている返礼品は、モモやナシ、リンゴなど季節に合わせたフルーツが届くフルーツ定期便だ。定期便以外も合わせると、果物が全体の8割を占めている。

福島市が、寄付総額で県内トップになったのは、2年前のことだった。
この年、福島市は大きな方針転換をしていた。

福島市シティセールス推進室の齋藤智博室長は、当時をこう振り返る。
「ふるさと納税を使って、市の魅力を発信できないかということで、動き出しました。ふるさと納税を中心に扱う『シティセールス推進室』を新設し、地元の観光協会などとも連携しながら、PR活動を始めました。
それまでふるさと納税は、税金や観光の部署が担当していたのですが、他の業務もあり、あまり力を入れられていませんでした」

シティセールス推進室ができた2020年、市は手始めに掲載するふるさと納税サイトの数を増やしたほか、返礼品の種類を増やすなどした。するとそれだけで、ふるさと納税の寄付額は、前の年の6倍となった。

「福島市のモモやリンゴなどの果物は、以前から市の様々な部署でPRを続けていることもあり、全国的にも知られていました。
サイトを増やしたことなどで、もともと知ってくれていた方が注文をしてくれたことや、
それまで農家さんに直接注文をしていた方が、ふるさと納税に切り替え、注文数が増えたということもあります。
新たな部署で、すぐに何か特別なPRをしたというわけではないんです。」

■“墓参”や“勝負服” 話題の返礼品も次々と

「その代わり…」と齋藤さんは続けた。
「注目を集めるようなものを返礼品にできないか、職員たちが動きました。初めに話題になったのは、『墓参りの代行サービス』です」

新型コロナの感染が拡大し、実家への帰省を自粛する人が多かった事情を考慮し、市内の企業に依頼し、墓参りの代行サービスを返礼品にしたのだ。シティセールス推進室が動き出した2020年のことだ。
すぐに注目を集め、ニュースなどでも取り上げられたという。

さらに「全国的にも珍しいもの」を返礼品にしたいと、職員たちは市内にある福島競馬場に目をつけた。
騎手が着る「勝負服」をつくる市内の企業に依頼し、特別につくった「勝負服」を昨年から返礼品にした。全国初の試みに、競馬ファンなどの間で話題になったという。

「寄付をしてもらうだけじゃなく、市の魅力をどうやって伝えていけるか。どれだけ市の魅力を吸い上げてPRできるかを考えて動きました」

しかし、果物以外の商品の注文が増えた、という結果はまだ出ていない。果物以外の返礼品は、全体の2割ほどに留まっている。

■次の目標はファンを増やすこと

福島市自慢の果物で寄付額を増やす一方、齋藤さんはこれを機に、市とのつながりを深めることはできないか、模索を続けている。
「果物以外にも、こんな新たな魅力があるんだということを知ってほしいんです。せっかく寄付をしてもらっているので、何度も足を運ぶような福島市のファンになってほしいんです。
寄付をたくさんもらっているこのチャンスを、何とか次につなげていきたいなと思っています」

地元の産品で人気を集める中、全国的にも珍しい返礼品を開拓する福島市。
一方、生活に密着した返礼品で人気を集めたものの、地元の産品に注目が集まりにくい棚倉町。

ふるさと納税の返礼品には、寄付を集めるだけでなく、地元の魅力を伝える糸口にしたいという自治体の思いが詰まっているようだ。

■返礼品が出せない町 それでも集まる寄付

返礼品選びに苦慮する自治体がある中、そもそも「返礼品が用意できない」という町もある。
福島県双葉町だ。

2011年の東京電力福島第一原発の事故のあと、双葉町は全町避難となり、長い避難生活が続いた。
事故から11年が過ぎた今年8月、町の避難指示が一部解除され、ようやく町に住民が戻った。

双葉町に昨年集まった寄付額は895万円。前の年の倍だ。

双葉町の担当者は「震災・原発事故から10年ということで、寄付をしてくださる企業や個人の方が増えました。復興のために使ってほしいということでした」と増額の理由を話した。

原発事故の前、町はふるさと納税の返礼品として、町でつくられた「双葉ダルマ」やボールペンなどを用意していた。
しかし、原発事故後、町は役場機能を移転するなど混乱が続き、返礼品を用意できない状態が続いた。

それでも、寄付は毎年途絶えることなく続いていて、1500万円を超えた年もあった。
「復興に役立ててほしい」と毎年寄付してくれる人も多い。

「『行ったことはないですが』とコメントしてくれていた方が、『やっと町を訪れることができました』とコメントにも変化が出てきました。コメントを見て、こちらも温かい気持ちになりました」と担当者は話した。

これまで集められた寄付は、今後町の復興のために活用する予定だという。
住民の一部が戻った町は、感謝の思いを伝える返礼品が出せるよう検討を続けている。

生まれ育った町や、応援したい地域の力になろうと始まった、ふるさと納税。
職員たちは、多くの寄付を集めるだけでなく、どんな魅力を伝えられるか、日々頭を悩ませている。

魅力的な返礼品ばかりに気を取られがちだが、寄付をきっかけに町の魅力を知り、つながりを持つなど、「ふるさと」のためにできることを考えてみてもいいのではないだろうか。

テレビ朝日報道局 笠井理沙

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