たどりついた「復讐代行屋」が打ち明けた闇 「殺人依頼もありますよ」[2022/12/24 11:00]

東京・足立区に住む瀧田深雪被告(45)は夫(45)を殺害するよう「復讐代行屋」ら2人に依頼し、寝ている夫の左胸をサバイバルナイフで突き刺し殺害しようとした罪で10月、懲役10年の有罪判決を言い渡された。公判の中で瀧田被告は「復讐代行屋」に連絡したが、殺人依頼はしていないと無罪を主張した。

「復讐代行屋」とはいったいどんなものなのか。様々な手段でアクセスを試みると、1人の「代行屋」が取材に応じた。
(テレビ朝日社会部司法担当・島田直樹)

■「復讐代行屋」は実在するのか?

私は瀧田被告の携帯電話の履歴にあったとされる言葉「復讐代行屋」や「裏稼業」をツイッターで検索した。すると、「殺人依頼、復讐代行が可能です」「個人的な恨み晴らします」などの投稿がずらりと出てきた。その中には瀧田被告がダイレクトメッセージを送ったとされたアカウントもあった。
「復讐屋」と称する名前のそのアカウントの最後の投稿は2021年5月末、「依頼は必ず遂行する」という内容のものだった。取材を申し込んだが返信はなかった。

では、他の「復讐代行屋」はどうか。「復讐代行を引き受ける」という内容をこの半年以内に投稿した9つのアカウントに取材を申し込んだ。すると、その内1つからメッセージを送って1分後に返信がきた。

「初めまして。可能になりますが」
簡単に取材を応じないだろうと予想していた私は少し驚いた。
「違法な依頼をする人はいますか?」
私がすぐさま返信すると「通話でもいいですか?」と通話での取材に応じた。

■「殺人依頼は何件かあります」

「復讐代行屋」というのは反社会的な人たちだろう。通話では相手が乱暴な言葉を使うかもしれないと思って、恐る恐る「初めまして」とあいさつすると、応答した男性は柔らかい口調で「初めまして」と返した。その声から20代~30代の男性のように感じた。

「復讐代行屋」の男性によると、依頼者とやり取りをする際はもっぱら「テレグラム」を利用するという。一定時間するとメッセージが自動的に消えるアプリだ。

「『テレグラム』を使う理由はツイッターのDM(ダイレクトメッセージ)だと履歴が残ってしまうからです。そして、なるべく(「テレグラム」の)通話でやります」

男性の元には“復讐代行”の依頼が月に100件ほどあるという。その中に犯罪の依頼はあるのか。

「違法な事を依頼する人は半分くらい。殺人依頼は何件かあります。ほとんどが痴情のもつれや相手がむかつくからという理由。報酬は100万円や200万円ですね。5000万円の依頼もありました。“半グレ”を名乗り『けんかでけがを負って後遺症が残ったので、同じようにしてほしい。できれば殺してほしい』というものでした。あまりにも高額で依頼を受けるか迷いましたが本人のものというツイッターアカウントが“初期アカ”だったので『受けられません』と断りました。」

“初期アカ“とは投稿が1つもない、登録されたばかりのアカウントだ。相手の素性がわからないため、信頼できなかったという。

「違法な依頼はリスクがあるので返事はしません。何か言ったら(犯罪に加担したという)教唆で引っ張られる(逮捕される)かもしれませんから。依頼を受ける時は、捕まって刑務所に入った時のことを考えて割に合う依頼かを判断しています。なので、違法なものは割に合わないんです」

しかし、男性のツイッターアカウントには「復讐代行」「裏バイト」などの言葉が並ぶ。本当に違法なものを受けていないのか……。

「もともとはなんでも屋をやりたかったんです。でも多くの競合他社がホームページ(HP)で依頼を受けています。HPには経費が掛かるから依頼の価格帯が高いんです。SNSでの依頼は信用は少し劣りますが、経費をかけない代わりに安い価格帯で勝負ができます。そのなかでもアングラ(非合法)系の依頼はお金が稼げるのでアングラ系の文言をツイートしています。」

アングラ系とはどのようなものなのか?男性は「グレーなもの」と表現する。
「特殊工作というものです。例えば『上司のセクハラを密告したいが会社に自分だとバレたくないので、会社に密告してほしい』という依頼があった時は、女性工作員を入社させてセクハラを受けているかのように会社に報告させるなどのことをしています」「日給2万円で引き受けたりしますよ。」

男性は違法でないと主張するが、このような嘘の申告で相手を陥れることは刑事罰の対象になる可能性がある。
15分間の通話で「復讐代行屋」の男性が語った依頼内容は、殺人や略取・誘拐、強制性交などの罪に問われるようなものもあった。男性はこういった依頼を受けないと話すが、最後まで信用することはできなかった。

■「理にかなった心情かもしれない」

なぜこのようなSNSでの「殺人依頼」が存在するのか。日本犯罪心理学会の常任理事でもある東洋大学桐生正幸教授は、「理にかなった心情かもしれない」と分析する。
「日本では他国と比べて殺人が非常に少ない。殺人は親族間や恋愛関係のトラブルが大半です。人間関係のトラブルを解消しようとするめに殺人を選択する人もいます」

法務省の犯罪白書によると2020年の殺人罪の検挙件数は824件。そのうち47.1%が親族間での事件だった。桐生教授はそれでも殺人を踏みとどまっている人は多いと言う。

「特に顔見知りの人とケンカになって殺害を考えた場合、殺害した後の死体の状況などを想像して踏みとどまります。それでも殺人を犯す人はいます」

今回、問題が浮き彫りとなった殺人依頼はSNSによって容易になったと言える。
「自分が手を下さなくていいという手段があれば殺人依頼を選択するのは理にかなった心情かもしれない。犯罪を依頼する人にとって代行してくれる人たちとのアクセスはSNSによって容易になりました」

■裁判を利用する「復讐代行屋」も

瀧田被告の裁判の初公判から5日、「テレグラム」のチャンネル(複数人が閲覧する掲示板)には裁判を伝える報道を引用して次のような文章が投稿された。
「この女性は安価な業者に頼んだところ、このような始末になってしまったという訳です」「承っている依頼は高額ではあるもののほとんどの場合お客様がご満足されている上、任務遂行する人間はプロです。もちろん逮捕などは以ての外です」

投稿したのは「復讐・報復代行屋」を名乗る別のアカウント。私は殺人依頼を本当に受けているのか取材を申し込んだ。すると、3日後に「いくら払えますか」と返信があった。お金が払えないことを伝えると「かしこまりました」と答えがあったのみで質問の回答はなかった。

今回取材した瀧田被告の裁判では、「復讐代行」を請け負ったとされる小西受刑者の証言がおおむね認められた。だが、その証言には首をかしげてしまう部分がいくつもある。
殺人という重大事件を請け負ったのに報酬は50万円。値上げを要求せず、金も事前に受け取らなかった。殺害するはずの瀧田被告の夫の顔も自分から瀧田被告に写真を求めるなどして確認しようとしなかった。

そんなずさんさの一方で計画を淡々と話す小西受刑者の姿は、人の命を「安く」見ているようにうつり、怒りがこみあげた。

取材した「復讐代行屋」によると、「むかつくから」や「自分の負ったけがを相手にも負わせたい」という理由で申し込む人がいるという。短絡的な考えにあきれてしまう。
だが、今回の事件では瀧田被告の夫の左胸に突き刺されたサバイバルナイフは左の肺に達していた。亡くなっていてもおかしくなかった。一瞬の怒りや一時の金欲しさによって人の命を奪うことが、現実になる寸前だった。

瀧田被告は復讐代行屋に依頼したことを否定し、無罪を主張した。しかし懲役10年の有罪判決を受け、これを不服として東京高裁に控訴した。2審で瀧田被告がどのようなことを語るのか取材していきたい。


前半は
<「夫の殺害依頼はしていません」妻の言葉に「復讐代行屋」は法廷で語り始めた>

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