スキー場に「SDGs専門部署」発足 背景に“雪不足”…2人の挑戦“山岳エコの聖地”へ[2023/02/03 11:57]

 「未来をここからプロジェクト」。長野県のスキー場で、気候変動問題などに取り組む2人の女性を取材した。2人が所属しているのが、SDGs専門の部署。背景には、スキー場が抱える深刻な問題があった。

■スキーの聖地で…「SDGs」学ぶイベント開催

 ボランティアの大学生:「SDGsは世界中にある様々な問題を、いつまでに解決していこうという計画・目標でしょうか?」
 小学生:「2030年!」
 ボランティアの大学生:「正解〜、すごい!」

 子どもたちが雪の上でSDGsについて学んでいる。ここは、国内最大級の規模で「スキーの聖地」とも言われる長野県・白馬八方尾根スキー場。

 地元の子どもたちに「地球温暖化について知ってもらいたい」と、この日、イベントが開かれた。

 このイベントを主催しているのが、松澤瑞木さん(50)と、太田美紀さん(43)の2人だ。

 八方尾根開発・松澤さん:「スキー場のリフトを再生可能エネルギーで。知ってる?再生可能エネルギーって」

 八方尾根開発・太田さん:「雪があるのは当たり前ではないんだよ、ということを(子どもたちに)伝えながら。何年後かも同じように雪があるといいね、ということを伝えられたらと思って始めたイベントです」

 参加した子どもたちは…。

 参加した小学2年生:「楽しいし…SDGsをよく知れると思います」

 参加した小学4年生:「地球温暖化を悪化させるのはCO2だとか、ということを学べるので良かったです」

■「雪不足」深刻…“気候変動問題”専門部署を発足

 2人には会社から“ある使命”が課せられている。それは「スキー場を再生可能エネルギーで運用する」というものだ。そのきっかけとなったのが「雪不足」だ。

 八方尾根開発によると、白馬村は、この30年の間で平均気温がおよそ1℃上昇し、年間の降雪量も100センチ減少しているという。

 2018年12月には、ゲレンデの雪不足で日中も降雪機を稼働し下山ルートを確保した。20年の2月には、リフト乗り場付近の雪が溶けてしまったこともある。

 松澤さん:「(2020年)降雪機のないゲレンデは、ほぼほぼ開いてないですね。下山はできるくらいの、1人分通れるくらいのコースを作った」

 そこでスキー場の運営会社は、気候変動問題などに取り組む専門部署を発足させた。その名も「SDGsマーケティング部」だ。

 この部署を任されたのが、環境問題に大きな関心を抱いてきた松澤さんと太田さんの2人。一体どのような対策が行われているのか?

■「リフト」「人工降雪機」を“再エネ化”

 スキー場にとっては死活問題となる雪不足に危機感を抱いた会社は、スキーヤーなどが中心となり、気候変動問題に向き合う環境団体「POW Japan」とパートナーシップを結んだ。

 POW Japan・高田翔太郎事務局長(37):「“冬を守る”というスローガンを掲げて、世界各地に組織があるんですけれど。この気候変動の問題を、自分たちスキーヤーやスノーボーダーの立場から解決できる社会にしていくために、様々な活動を行っています」

 その後、会社は「SDGsマーケティング部」を立ち上げ、太田さんと松澤さんが任された。

 地元出身の松澤さんは1995年から、このスキー場のパトロール隊として勤務。その間、白馬の自然の変化を見続けてきた。

 松澤さん:「自然の変化をずっと見てきて。ちょうど環境問題に取り組む部署ができるので、そこでやってみないかって話を頂いて。今、とても必要な時代になってきているので」

 2人がまず取り組んだのが、スキー場にはかかせない「リフト」だった。

 太田さん:「このリフトも、CO2FREEを使ったリフトになります。スキー場として、電気はすごく使ってますし。地球温暖化が進んで雪が降らないという中で、そういったCO2をたくさん排出するという矛盾を少しでも解決させるために。まずは、スキー場のリフトも徐々に再生可能エネルギーに変えてみようと」

 再生可能エネルギーとは、太陽光や風力、地熱といった温室効果ガスを排出しないエネルギーのこと。それらを使用した電力会社と契約を結び、2020年から「脱炭素化」へ向け、切り替えを始めたという。

 今では22基あるリフトのうち、16基が再生可能エネルギーに切り替わっている。

 さらに、人工降雪機56台の稼働電力も再生可能エネルギー化。年間CO2排出量をおよそ1000トンの削減が期待されているという。

 この取り組みに、利用客は…。

 大学生:「SDGsって、どこの企業も心掛けてやっていることなので。スキー場もやっていることは素晴らしいことかなと思います」

 サービス業:「雪山で自然の中で遊ばせてもらっているから、ありだと思います」

 メキシコからの観光客:「すばらしいですね。どの国も、そのような取り組みをするべきだと思います。尊敬しますよ」

■2人が変えた「環境意識」…食材は「地産地消」

 さらに、2人の活動は脱炭素化以外の場にも広がっている。

 太田さん:「2年前から私たちが始めた、リフト券の回収ボックスがこちらに」

 プラスチックでできたリフト券を使用後に回収し除菌。データを書き換えて再利用することで、プラスチックごみ削減を実現している。

 そして2人の活動は、スキー場内で働く他の部署の意識も変えていった。

 イタリアで6年間修業を積んだ鈴木伸悟シェフ(41)が腕を振るうレストランでは…。

 鈴木さん:「こちらは、白馬の地元のビーツを使っております。肉も野菜も魚も、なるべく地元のものを使うようにしていますね。地元のものを食べたいという気持ちがある。食材は地元のものを使っていきたいという気持ちがありました」

 この「地産地消」の取り組みは、鈴木シェフ自らが提案し、フードロスや運搬によって発生するCO2削減にもつながっている。

 オーストラリアからの観光客:「とてもおいしいです」

■今後は…「皆がそれぞれ取り組むことが重要」

 環境問題へ危機感を持ち、「SDGsマーケティング部」という未知の部署へ飛び込んだ松澤さんと太田さん。今後の活動については、次のように話す。

 太田さん:「白馬って、とても自然が美しい所だと思うんですよ。スキー場も、もちろん雪がたくさんあって。夏は夏で、本当にここは日本か、というような景色が見られるような所がたくさんある。そういった素晴らしい環境を、たくさんの子どもたちに見せてあげる機会がつくれればいいなって」

 松澤さん:「結構やることが多岐なんですよね。だから本当は私たち、この部の人数が増えるということよりも、皆がそれぞれに取り組むということのほうが重要なのかもしれないね」

■「脱炭素」目指す 2人の未来図とは…

 SDGsの専門部署で気候変動問題に取り組む太田さんと松澤さんに思い描く未来図を描いてもらった。

 絵は2人が描いたものだ。左側の「ウインターシーズン」と右側の「グリーンシーズン」に分かれている。

 左側を見ると、VTRでもあったCO2フリーリフトがあり、雪だるまなどを作って、子どもたちの笑顔や多くの雪であふれるスキー場にしていきたいという。

 そして、右側は春から秋のグリーンシーズン。雪が溶けたゲレンデにはゴミがたくさん出るなどの問題もあるそうだ。そのため対策を講じ、ごみのないゲレンデを目指したいそうだ。

 このような取り組みで、オールシーズン豊かな自然を楽しめるスキー場を未来に残していきたいという。

(「大下容子ワイド!スクランブル」2023年2月3日放送分より)

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