「初めての強盗で怖くて動けなかった」 なぜ「素人集団」が犯罪に手を染めたのか[2023/03/02 18:00]

 全国で強盗事件が相次ぎ、強盗殺人事件にも発展。首謀者が「ルフィ」と名乗り指示を出していたとされる事件が世間を騒がせた。
実は、この事件の約3年前にも関東広域で高齢者宅を狙った強盗事件が連続発生していた。犯行は、同じように「闇バイト」を通じて集まった20代の若者たちが中心だった。

埼玉県の事件・事故を担当する私は今年2月、3年前の事件にかかわったとされる男の刑事裁判がさいたま地裁で開かれたことを知った。裁判を聴けば、「ルフィ・グループ」とも重なる犯行の経緯やそのやり方について情報を得られるのではないか。

だが、法廷で耳にしたのは、予想していなかった被告たちの言葉だった。
「初めての強盗で怖くて現場で動けなくなった」「侵入しようとしたが窓をうまく割れなかった」

凶悪犯罪に手を染めようとしながらずさんな犯行を繰り返す「犯罪素人集団」を追った。
(テレビ朝日社会部 埼玉県警担当 秋本大輔)


■闇バイトに応募 強盗できず「バーベキューしていたから…」とうその言い訳

さいたま市の28歳の被告の男は2019年11月〜12月、「犯罪グループ」10人以上と共謀し、埼玉、東京、群馬、神奈川、山梨で高齢者宅を狙った強盗4件(未遂も含む)や監禁などの罪に問われていた。

グループ内での主な役割は「リクルーター」だった。犯罪を実行する人物をSNSなどで「リクルート」する役割だ。グループでは、実際に犯行を行う「実行役」と、それらを動かす「指示役」の中間に位置する。

被告は、ネット上で募集しているいわゆる「闇バイト」を通じて犯罪グループに入った。ある男からSNSを通して強盗の仕事を紹介された。最初の仕事は都内の一軒家に強盗に入る「実行役」だった。

「老夫婦がいるから縛って金を奪え。最悪殺してでもやれ」
指示役から日付を指定され、住所が送られる。被告は現場には行ったが、実行に移すことが出来なかった。
法廷で被告は「一般市民を襲う強盗だとわかってやめた」と打ち明けた。グループに正直に言い出せなかった被告は、「庭で5,6人がバーベキューをしていた」などと指示役に適当な言い訳をした。
しかし、どうしても金が欲しかった被告は「実行役でなくて稼げる仕事はないですか」と男に尋ねた。
「リクルーターなら報酬が出せる」と言われた。
「自分では(強盗を)やりたくなかったが他の人がやるならそれで良いと思った」
被告は、「リクルーター」を引き受けた。

■「フォーマット」に両親の氏名「裏切ったら実家に人を行かせる」か

被告は初めての仕事で2人の男を勧誘した。被告がリクルートしたときのやり取りが裁判で明かされた。すべて、一定時間過ぎるとメッセージが消去される、秘匿性の高いアプリ「テレグラム」でのやりとりだ。

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〜2019年11月6日〜
被告:ツイッターからです。いま電話できますか
男:はい
被告:名前、職業、年齢、電話番号、両親の名前、実家の住所、両親の電話番号など記載をお願いします。身分証もお願いします
男:(フォーマットに記載して提出。免許証の写真も送る)
被告:明日からよろしくお願いします
男:これだけで大丈夫なんですか
被告:はい。大丈夫です。
==

「両親の名前や、実家の住所まで送るのか」。聞いていて不思議でならなかった。
被告によれば、これは「フォーマット」と呼ばれる闇バイトの「申し込み様式」で、両親の情報のほか、免許証の表と裏の写真、免許証を持って写っている本人の顔写真を送らせるという。裁判で被告は、自分自身も「裏切りとみなせば実家に人を行かせる」と脅されたことがあると証言した。また、「仕事」を断るためにグループとの連絡を断とうとしたところ、免許証の写真や住所をツイッター上でさらされ「指名手配にします」などと投稿されたメンバーもいたという。

■初めての犯行はガラス割れず逃走

 被告たちの初めての「犯行」は埼玉・秩父市だった。2人をリクルートしてすぐに、指示役から「秩父に2千万円くらいの案件。老夫婦がいるから向かってください」とテレグラムで連絡がきた。

「リクルーター」の被告は現場には行かず、集めたメンバーら3人が車で向かった。全員が初対面だった。メンバーの1人は、現場近くに防犯カメラがあることに気づいていた。「大丈夫じゃないと思ったがやるしかないと思った」。証人として被告の裁判に出廷したこのメンバーはそう証言した。

1人が、現場近くでたまたまみつけたジャッキで「目標」の住宅の窓を2回突く。しかし、窓ガラスは大きな音を立てるだけで割れなかった。「防犯ガラスだ」。どうすればいいのか分からず、事件発覚を恐れた3人は、ジャッキをおいたまま逃走。ジャッキは後に捜査の証拠となった。

■「強盗なんかしたことなくて動けなかった」 続く失敗

その日のうちに、被告には指示役から次の現場が指示された。東京・東久留米市。「再び高齢者の家に強盗に入れ」
被告はまた自分で現場にはいかず、同じメンバー3人を向かわせた。今度は、実行役の3人で犯行前に役割分担を話し合った。1人が窓ガラスを割って侵入し、中の人を取り押さえる役。残り2人が現金の探索だ。早朝、現場に到着した3人は近くの空き地でスコップを見つけ、手に持った。

裏口に回り、侵入する機会をうかがう。すると、突然住人が出てきた。1人がとっさにスコップを住人に向かって振り下ろす。スコップは住人の腕をかすめるだけだったが、住人はしりもちをついた。本来なら残り2人が侵入するはずだった。しかし、なかなか2人が物陰に隠れて出てこない。
住人が「泥棒」と大きな叫び声を上げる。「逃げるぞ」。3人は逃走、強盗は失敗した。

中に入るはずだった1人は、取り調べに、「今まで強盗なんかしたことがなかった。秩父の事件でも見張りだったので、(住人の)男性が現れたときとっさに動くこともできなかった」と話している。
その程度の気持ちで人の生命も脅かす強盗事件を起こしたのかと、私は驚かされた。

■強盗や窃盗8件試みるも「失敗」続き

被告らへの指示は続く。最初の事件から20日後の11月28日に群馬県高崎市の住宅、翌日には横浜市の住宅での強盗。これら事件では「リクルーター」の被告も、実行犯が金を持ち逃げしないか見張る役目で現場へ出た。
指示役からテレグラムで送信される被害者の氏名、年齢や在宅時間、保有金額などの情報をもとに、毎回寄せ集めのメンバーが実行に移す。

高崎市では中にいた夫婦に大きなけがをさせ、妻の方が大きな悲鳴をあげると全員が逃走した。実行犯の男の一人が現場に落としたイヤホンの付着物から検出されたDNA型が、のちの逮捕につながった。
横浜市では住人には知られず侵入したが、近隣の住民に見られ、1分ほどで何も盗まず逃走した。

12月、山梨県で中古車販売店の窃盗に入り、被告は警察に捕まった。窃盗をした後に宿泊したホテルでチェックアウトしたところを警察に囲まれた。11月上旬からわずか1カ月ほどで、強盗や窃盗に8件かかわったが、いずれも目的を遂げなかった。

■ずさんな犯行に警察「計画性のない犯行 絶対に逃げきれない」

 闇バイトグループによるずさんな犯行を、警察はどう見ているのか。

強盗事件などの捜査に携わる埼玉県警の捜査幹部は、「闇バイトで集まる実行犯たちは寄せ集めのメンバーで仲間意識もない。指示を受けて実行するだけで計画性もないので、証拠も必ず現場に残る。防犯カメラが増える中、一切映らずに逃げ切ることなど不可能」という。

 「なぜこんなずさんな犯行を続けたのか」
この疑問を確かめるために私は被告に直接会いに行った。そこには闇バイトを始めた者がグループから抜けられなくなる生々しい証言があった。

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