【熊谷6人殺害その後】“警察の対応を問う”控訴審結審…判決は6月◆日曜スクープ◆[2023/03/12 23:16]

事件発生に伴う警察の注意喚起のあり方を、犯罪被害者の遺族が問う裁判の控訴審。2015年に熊谷市で起きた男女6人殺害事件で、妻と2人の娘の命を奪われた加藤裕希さんは、埼玉県警による周辺住民への注意喚起が不十分だったとして、埼玉県を相手取った裁判を起こしている。その控訴審の第3回口頭弁論が3月10日、東京高裁で開かれた。当時、埼玉県警は、最初の殺人事件が起きた際、熊谷署から逃走中だったペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン受刑者を「参考人」として全国に手配していたが、ジョナタン受刑者の逃走については、加藤さんの事件が起きるまで、埼玉県警は明らかにしていなかった。防災無線などで注意を呼び掛けることもなかった。

1審のさいたま地裁は去年4月、「県警の対応には問題がなかった」として、加藤さんの訴えを棄却。控訴審で加藤さん側は改めて、“最初の殺人事件が起きても、連続発生の可能性を認めることはできなかった”とする埼玉県警の主張を問題視した。埼玉県警側は「通り魔事件や複数の資産家を狙った計画的強盗殺人事件と目される兆候が認められない限り、連続発生の可能性を認めることはできない」と回答。加藤さん側の代理人、高橋正人弁護士は「(最初の殺人事件発生後)付近住民に対して、防犯無線とかでちゃんと通告しなさいと言っているだけなのに…。こんなこと、本当に裁判官が認めるのか」と反発する。

加藤さんにとって、家族との幸せの思い出が残る自宅は、妻と2人の娘が犠牲になった場所でもある。加藤さんは今なお住宅ローンを支払いつつ、その自宅に積み続ける。「やはり帰ってくる場所が3人にちゃんとあるんだというのを、自分の中で思って…」と語る加藤さん。「県警に、亡くなった3人に対してきちんと向き合って謝ってほしい。でないと報われない」と訴える。ただ、加藤さん自身、精神的な負担から、この2か月近く休職している。現在、復職を検討中だ。

控訴審は3月10日の口頭弁論で結審し、判決の言い渡しは6月27日に決まった。司法は、地域の安全と安心にどのように向き合うのか。

■埼玉・熊谷6人殺害事件
2015年9月に、住宅3軒で男女6人が殺害された事件。強盗殺人などの罪に問われたナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン受刑者は18年3月、1審・さいたま地裁で死刑判決。東京高裁は19年12月、心神耗弱を理由に1審判決を破棄、無期懲役を言い渡した。検察側は上告を見送った。最高裁が20年9月、無罪を主張する弁護側の上告を棄却、控訴審の高裁判決が確定した。

★アンカー:木内登英 (野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)

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