分譲マンションの「老朽化」「修繕費不足」問題…長期計画が見直されず“工事費高騰”[2023/03/18 11:00]

今、マンションの修繕費用不足が深刻な問題となっています。建物が老朽化する一方、修繕費は足りない…。この問題に取り組む人々を追跡しました。

■独特な形状で…高額な修繕費「通常の2倍」

神奈川県川崎市にある築29年、全19戸の分譲マンション。

豊田賢治郎さんは、マンションの大規模修繕に関するアドバイスや工事会社を紹介しています。このマンションには、“ある問題”があるといいます。

豊田さん:「建物の中に水が入ってしまっていて、中の鉄筋がさびて膨らんで、割れが出て、さび汁が出ている状態となっている」

このマンションには、こうした箇所が数多くありました。

豊田さん:「これが2年くらいすると、どんどんさび汁が出てくる。ひび割れが増えてくる」

今回の依頼者は、このマンションの理事長(70)。その部屋の玄関前の階段にも、大きなひび割れがあります。

マンションの管理組合の理事長:「かなり割れてますもんね。ちょっと怖いな」

そこで2年前、修繕積立金およそ4000万円で、外壁などの修繕をする計画を立てました。しかし、管理会社が出してきた見積もりは…。

マンションの管理組合の理事長:「6000万円近かった。それはちょっと…という感じで」

実は、建物が横に広がった独特な形状が、修繕費が高くなる原因になります。

豊田さん:「複雑に足場を組まないといけないので、金額が通常の大規模修繕の1.5倍〜2倍になる」

■3社から見積もり “2〜3割削減”できることも

「修繕費が2000万円足りない」。マンションの住人にとって、由々しき事態でした。

ここで27年暮らしているという夫婦は、次のように話します。

マンションの住人(60代):「『ここまでの予算しかないんだから、この予算の中でやって』というやり方もあるので。(住人からの)持ち出しっていうのは、やっぱりあり得ない。出すつもりもない。出せないし」

このお宅では、およそ4000円の管理費と、1万3000円の修繕積立金を毎月支払っています。

「追加でお金は出せない」という夫婦には、切実な事情がありました。

マンションの住人:「脳内出血」「左脳の脳内出血で右半身はだめだった。リハビリをやって、だいぶ良くなった」

71歳の夫は15年前、脳出血で倒れ、右半身が不自由に…。現在の収入は、保険会社で働く60代の妻の収入と夫の障害年金です。

マンションの住人:「月々出ていくお金(修繕積立金)が上がるのは、とても大変なことだと思う」

高齢化が進み、多くの住人にとって修繕積立金の値上げは大きな負担。豊田さんにも相談し、3社の工事会社から見積もりをとり、予算内で工事ができないか交渉しているといいます。

マンションの管理組合の理事長:「3000万〜4000万円で、しっかりやってくれるところがあればお願いしたい」

豊田さんによると、適正価格を把握するためにも複数の工事会社から見積もりを取ることが必要。同じ工事内容でも、修繕費用が2〜3割程度削減できることもあるといいます。

■“人件費・資材の高騰”で…修繕費“不足”

一体なぜ、今、修繕積立金不足のマンションが増えているのか?

実は、44%のマンションで定期的に長期修繕計画の見直しがされていません。さらに近年問題なのが…。

豊田さん:「近年の人件費・資材の高騰が大きい」

長期の修繕計画を立てた時より工事費用自体が高騰、人件費だけでも、ここ10年で25%近く高くなっているといいます。しかも…。

豊田さん:「築年数の経過とともに、必要な工事費はどんどん増えていく。ただ、住人の支払い能力が下がっていく状況のなかで、修繕積立金が足りないのは、非常に深刻な問題である」

■「修繕委員会」立ち上げ 修繕内容の見直しへ

この日、「修繕工事費を見直したい」という依頼がありました。

向かったのは、東京・台東区にある全31戸の分譲マンション。築年数はまだ23年ですが、近いうちに2度目の大規模修繕工事を行う予定です。

豊田さん:「あっ!割れ大きくなってません?」

住人:「伸びた。こっち何ともなかったのに、こっちまで伸びてきちゃった」

豊田さん:「割れ自体が大きくなりましたよね」

その他にも、エントランスの扉の破損や、階段の手すりの劣化など、老朽化が進んでいるといいます。

実は、このマンションでは去年、管理会社を通じて水道管の工事を行いましたが…。

マンションの住人:「管理会社が見積もり取らないで、(工事会社を)1社に決めちゃった」

その結果、予想以上の高額になったといいます。そこで今回の修繕工事は、管理会社任せにせず、住人による「修繕委員会」を立ち上げました。この日に行ったのは…。

豊田さん:「これシートなんですよ。(床に)カチカチのシートが貼ってあって。これを全部はがして張り替えるのが、見積もりに入ってるんですけど、まだまだ使える」

「修繕工事」の費用を見直すため、業者提案の修繕内容をチェックし、優先的に行うものとそうでないものを精査していきます。

豊田さん:「(シートの張替えを)見積もりから除外しませんか?」

住人:「各階きれいでしたもんね」

結果、今回の修繕工事では、早急に必要な屋上の防水や外壁の修繕などを優先的に行い、工事内容を絞ることにしました。

■“積立金”上回る見積もり 住民から不満の声

続いて向かったのは、東京・港区にある築44年、全38戸の分譲マンション。

中島綾子さん(35):「今期、理事長をしている中島と申します」

中島さんは3年前に入居し、現在、理事長を務めています。

中島さん:「壁のひび割れがあるんですけど、これが管理組合が修理せずに放置していて。壁の一部がもし落ちたりなんかすると、下の人に迷惑が掛かる」

その他にも、さびによる劣化が激しいフェンスや、数年前からつかなくなっているという外灯など、至る所に修繕が必要な箇所があります。

そこで、管理会社に大規模修繕工事の見積もりを依頼したところ…。

中島さん:「元々の修繕積立金が6000万円くらいあって。それをさらに超える6800万円が最初の見積もりだった」

当然、住人からは不満の声が上がりました。

マンションの住人(64):「修繕費が上がっていくとか、一時的に(お金を)出さなければいけないことがあると、ちょっと困る」

■「住人の負担を増やさない」修繕計画を…

そんななか、中島さんは子育てをしながら、去年6月に立候補して理事長になりました。

中島さん:「今は月々3万円の修繕積立金と管理費を倍にしていかないと、必要な工事ができないという計画になっていたので、誰かが行動を起こさないと」

住人の声を受け行ったのが、工事業者の見直し。「住人が積極的に参加できる」ようにと、先月の臨時総会では業者によるプレゼンを行い、住人が直接の投票で工事会社を選びました。

中島さん:「業者に丸投げすると、どうしても業者視点の工事になってしまって、住民の目線が反映されないことがある」

当初含まれていた内階段の塗装は先送りにするなど、工事内容も精査し、当初の6800万円から4000万円に削減できました。それでも一戸あたり平均105万円になる負担額について…。

中島さん:「105万円の買い物したことありますか?最近。結構大きい出費だと思う。そういった気持ちで(修繕工事に)臨んでいきたいと思うので、住民の皆さんもそのつもりでお願いします」

マンションの住人(64):「(Q.理事長の中島さんについて)お子さんがいて忙しいだろうに、すごく尽力してくれるなと思いますね」

同時に進めているのが、管理会社の見直しによる管理費の減額。「住人の負担を増やさず、修繕費を確保するため」です。

中島さん:「(Q.管理会社を変えることに抵抗する人も?)いました。そこはすんなりは決まらなくて。色々変えたところで、『自分たちのその仕事が増えたり、追いつかない部分が出たら…』という心配は聞きました」

それでも、説明会を開くなど理解を求め、管理会社を変更へ。その結果、ほぼ管理内容は変わることなく、管理費を減額。その分を修繕積立金に上乗せできることになりました。

中島さんは、これからも「住人の負担を増やさない」修繕計画を考えていくといいます。

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