藤井聡太五冠は「ホントに将棋が好きなんだ」 敗戦直後の笑顔に見えた「切り替え力」[2023/03/18 11:00]

将棋の棋王戦五番勝負第4局が19日、栃木・日光市で行われる。

第3局では中盤でリードした渡辺明棋王(38歳、名人との二冠)に対して、挑戦者の藤井聡太五冠(20歳、竜王・王位・叡王・王将・棋聖)が懸命の粘りを見せ、稀に見る激戦となった。

終盤、渡辺棋王側の玉に“11手詰め”の状況が生まれたが、「詰将棋の天才」藤井五冠が“詰み”を逃すというまさかの事態となり、最後は渡辺棋王が押し切った。

今後の戦いにも影響を及ぼしかねない“手痛い敗戦”。
だが、第3局当日、現地でファンに向けての大盤解説会を行った高見泰地七段(29)は、終局後の感想戦を見て改めて藤井五冠の強さを感じたという。

「途中から結構、笑顔が出ていたんですよね…」
先輩棋士が驚いたのは、藤井五冠の「切り替え力」だった…

■ 「連敗しない男」 高勝率続ける秘訣は

「最後一瞬チャンスだったと思うので、少し残念ではあるんですが、ただまあ全体的には負けの局面が続いていたとは思うので、仕方ないのかなと思います」

つかみかけた勝利を逃すという痛恨の敗戦だったはずだが、終局後の藤井五冠は、意外なほどサバサバした表情だった。

大盤解説会を終え、感想戦を見守った高見七段は、当時の様子をこう話した。
「(藤井五冠は)悔しいはずなんですけど、詰みを逃したことよりも、そこまでかなり苦しかった、その原因を渡辺棋王と探していて、そのときに途中から結構、笑顔が出てきていたんですよね」

「切り替えの早さ」…
2年前、ABEMAオリジナルの団体戦「ABEMAトーナメント」で藤井五冠と同じチームになった高見七段は、その“長所”に気づいていた。

「切り替えが早いな、いうのは身近で見て思ったことですね。
(棋王戦でも)自分だったらたぶん笑顔にはなれない。こんなに手痛い負けをしても、負けてしまった後悔ではなくて次にどうすればいいかと切り替えて、次への充実につなげる探求心…切り替えの早さが勝率の高さにつながっているのだと思います」

藤井五冠は今年度、ここまで62局戦っているが、いまだに連敗をしていない。
高勝率を維持できる理由のひとつが、この「切り替え力」だと高見七段は見ている。

「感想戦中、少なくとも感想戦が終わって翌日にはかなり『切り替え』が済んでいるように見えるんですね、内心はわからないですけど…でもほかの棋士に比べて圧倒的に早いと思います。
(負けを)引きずっていると、その分の時間は将棋に向かっても、どうしてもクオリティは下がるんです。そういうのを藤井五冠はきっとうまくやっているんじゃないかなと思わせるんですね」

■ 「ちょっとやりすぎた…」 それでも続ける挑戦

棋王戦第3局から中2日。
藤井五冠は広瀬章人八段との順位戦A級プレーオフで勝利し、渡辺名人への挑戦権を獲得した。

さらにそこから中2日、今度は羽生善治九段との王将戦第6局に勝って、王将のタイトルを初防衛した。
棋王戦での衝撃的な敗戦から見事に切り替え、再び連勝街道を走り始めている。

他の棋士も驚くような「切り替えの早さ」、そしてあくなき「探求心」。
それらは一体、どこから来るのだろうか。

「たぶんホントに将棋が好きなんだと思います。それは羽生先生とも共通するところで、トップ(の人が備えている資質)だなと思います。『切り替えの早さ』も羽生先生にすごく似ていて強みになっていますね」(高見七段)

棋王戦第4局では中盤、藤井五冠が自分の玉をあえて敵駒に近づけていくような指し回しを見せ、解説の棋士らを驚かせた。
藤井五冠自身が「ちょっとやりすぎだった」と反省する手だったが、高見七段は、そうしたチャレンジも「探求心」の賜物だと評価している。

「勝っていても現状に満足せず新しいことに常にチャレンジしていく、常に進化・進歩を求めて将棋のスタイルを少しずつ増やしていくのが藤井さんの強さなので、こうした『定石』ではない戦い方、いろんな手段を取り入れていくのかなと思います」

実は藤井五冠、今回の棋王戦を含めた過去13回のタイトル戦でも、連敗したことが一度もない。

19日に行われる棋王戦第4局では、完全に気持ちを切り替えた藤井五冠が六冠目を獲得するのか。
渡辺棋王が藤井五冠相手にタイトル戦で“初の連勝”を記録するのか。
目が離せない大一番となる。

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