ドイツ高官が語る「脱原発」とG7交渉の舞台裏 石炭、EVの行方は!?[2023/04/23 11:00]

今月15〜16日に札幌で開かれたG7気候エネルギー環境大臣会合は、排出削減対策が講じられていない全ての化石燃料の段階的廃止を加速させることなどで合意した。
この閣僚会合中にドイツは、国内に残っていた原発3基を停止させ脱原発を達成。事務方トップとしてG7の交渉に参加したドイツ経済気候保護省のパトリック・グライヒェン次官に、交渉の舞台裏、脱原発を達成したドイツのエネルギー政策、EVの行方、日独の再生可能エネルギーなどについて聞いた。
そのインタビュー要旨を2回にわたり掲載する。聞き手は、日本やドイツの再生可能エネルギーの取材を続けている、テレビ朝日アナウンサーの山口豊。

■ 石炭火力発電の廃止時期「日本から反対あった」

東京・広尾の坂の途中に建つ、重厚なつくりのドイツ大使館。窓越しに有栖川宮記念公園の美しい新緑が映える一室でインタビューは行われた。
日本では、「ドイツは、送電網がつながっているフランスなどから電力を融通できるので脱原発が実現できる」、「平らな土地が少ない日本では、ドイツのようには再エネは広がらない」などと指摘がされているが、ドイツのエネルギー政策の中枢を担うグライヒェン次官はどう見ているのか?様々な質問をぶつけてみた。
まず聞いたのは、G7閣僚会合の舞台裏について。交渉では、石炭火力発電の廃止時期やEVの導入目標などをめぐって、日本と各国との間で意見の隔たりがあり、議論の応酬があったという。

Q:ヨーロッパは石炭火力の廃止の時期を示したかったと聞いています。日本と意見の相違があったのでしょうか?
A:「全ての化石燃料、石炭・石油・ガスから2050年までに撤退しなければなりません。つまりあと30年ないのです。脱石炭はそれ以前に実現しなければなりません。ドイツでは2030年に撤退、他の欧州各国でも同様です。しかし、日本では恐らくもっと長くかかるでしょう。ですが、我々は2035年までには、我々の電力システムをほぼ脱炭素化するという見解で一致しています」

Q:しかしドイツは今、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあって、石炭の使用量が増えていると聞いていますが?
A:「ドイツはロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響で、ひと冬だけ石炭火力の利用を増やしました。ただ、それはあくまで戦争が起きている間に限定したものです。2030年までに全ての石炭エネルギーからの撤退を目指しています。だからこそ、我々は今、再生可能エネルギーを加速させています。2030年までに80%を再生可能エネルギーでまかなう予定です」

Q:G7閣僚会合で、石炭火力発電の廃止時期を示すことに、日本側から反対の意見があったのでしょうか。
A:「そうです、その通りです。ドイツやイギリス、フランス、イタリアは2030年に脱石炭を実現したいのです。しかし、日本はその目標をまだ公言できない。それは日本にまだ再生可能エネルギーが十分に導入されていないからです。より多くの再生可能エネルギーの導入を加速する必要があります」

Q:G7で日本は石炭のアンモニア混焼を主張したと思いますが、石炭火力にアンモニアを混ぜて発電することを推進する日本の方針については?
A:「風力と太陽光を使う方が、明らかに安くなると思います。というのも、資源を直接使っていますから。アンモニアはいくつものステップを踏まなければならず、時間がかかります。最初に電力を作り、そこからアンモニアを作る、こちらの方がよりコストがかかるはずです。そのため、私は発電でのアンモニアや水素の利用は、ごくわずかになると思います。コスト的に安いのは、風力と太陽光、そしてバイオマスです。
そして、考えなくてはいけないのは、今が新しい時代だということです。新しい時代は、再生可能エネルギーこそが資源となる、そういう時代です。アンモニアを使って石炭火力発電を延長するなど古いシステムにしがみつく、これは未来への道ではありません。未来は、多くの風力・太陽光を使い、そこから暖房や運輸・産業まで広げていき、ガスからの置き換えをすることです」

■ 合成燃料使用は「一部の高級車向けの特別な解決策」

EUは、2035年までにハイブリッド車を含むエンジン車の新車販売を事実上禁止することを目指していたが、今年3月ドイツの主張で合成燃料(e-fuel)を使うことを条件にエンジン車の販売継続を認めることを決めた。日本では、この修正を歓迎する意見も多く聞かれるが、ドイツの方針転換は何を意味するのか?聞いてみた。

Q:EVについて伺いたい。G7閣僚会合で、EVの導入目標をヨーロッパもアメリカも示したかったと聞いています。ここでも日本との相違があったのでしょうか。
A:「交通部門では、2035年までにCO2排出量を半減するという見解で一致しています。これはほとんどの国で、ドイツや欧州、アメリカ、そして中国でも、EVの方向性で進んでいます。ここの点に関して私たちは確信を持っています。ただ日本は水素燃料やハイブリッド技術を推進している結果となっています。私が言えるのは(日本以外の)残りの世界はEV車へのトレンドが目に見えて強まっているということです」

Q:しかし、ドイツからの要求で合成燃料(e-fuel)を使えば、2035年以降も新車のエンジン車を販売していいという話になりました。これはなぜだったのでしょうか。
A:「私は新車販売のほとんどはEVになると考えています。99%はEVになります。ただポルシェやブガッティなどの高級車の一部で、内燃機関を保持したいということで、そのための特別な解決策が必要なのです。合成燃料の価格は高くなると思います。合成燃料は、通常の電気を使うよりも約7倍高くつきます。ですから、誰もが利用するような車はEVになります」

世界では急速なEV化が進んでいる。最大の自動車市場である中国では、今年の新車販売の3分の1がEVをはじめとする新エネ車(通常のハイブリッド車は含まず)になる見通しだという。一方、アメリカでは約100万円の税額控除を受けられるEVは、テスラなど米国メーカーだけに絞られた。
グライヒェン次官によれば、合成燃料(e-fuel)は値段が高く、わずか1%の高級車向けだという。そもそも、合成燃料(e-fuel)はグリーン水素とCO2から作られる。グリーン水素を作るには再生可能エネルギーが必要。つまり、再生可能エネルギーをどれだけ多く安く作れるかが、ここでも重要になってくるのだ。

■ 「脱原発」のドイツ 本当に電力は足りるのか?

気候エネルギー環境大臣会合の2日間にわたる交渉の最中、15日にドイツでは延長されていた3基の原発が停止され「脱原発」が達成された。電力不足が懸念されるが、ドイツ連邦統計局によると2022年は、ドイツがフランスに輸出した電力量が、フランスから輸入した電力量を上回った最初の年になったという。一体どういうことなのか、グライヒェン次官に聞いた。

Q:先日ドイツは脱原発を達成しました。ただ世論調査では、半数以上が反対だということです。脱原発についてはどのような意見をお持ちですか。
A:「ドイツはすでに2000年に脱原発を決めていて、再生可能エネルギーへの移行も同時期に始まりました。再生可能エネルギー法も可決されました。福島での原発事故のあと、ドイツでは2022年末までに全ての原発を止める決定がなされました。ウクライナ戦争のために、それを3カ月半延長し、この冬を乗り切ることができました。この路線は変更しません。再生可能エネルギーこそ未来のエネルギーであり、原発はリスクを伴う技術です。常に事故によるメルトダウンの危険性があることを頭に入れておかなければなりません。また放射性廃棄物の最終処分という問題もあります」

Q:ドイツは脱原発をして本当に電気が足りるのでしょうか?例えば送電線がEUの中で繋がっているので、フランスから原発の電気を購入しているから、電力が足りているのではないかとの声もありますが…。
A:「昨年、フランスにおいて、原子力発電は100%信頼できるものではないということが明らかになりました。40年以上経っている原発が稼働しており、その多くが補修や改修を必要としています。そのため、フランスの原発は(十分な)電力を供給できなかったのです。そして、ドイツがフランスに石炭火力による電気を供給しなければなりませんでした。ドイツでは再生可能エネルギーが拡大したことにより(全体が底上げされて)、電力を輸出できるようになったのです。この冬は、ドイツの石炭火力発電でフランスを助けたのです。ただ、それはドイツの炭素収支に悪い影響を与えました」

Q:G7閣僚会合では、原発を使っている国々に関して、原発はリーズナブルで低炭素なエネルギーということが、共同声明に盛り込まれました。これについては?
A:「原発を新設するのはとても高くつきます。現在、フィンランドやフランスで進行中の数少ないプロジェクトから分かるのは、原発新設には3倍のコストがかかり、計画より時間もかかります。そのため原発新設は安い技術ではありません」

■ 原発は「気候危機の対処には遅すぎる」

Q:原発は高レベル放射性廃棄物の最終処分などを考えるとコストが高くなり、トータルで見ると原発は安くはないという意見もあります。どう見ていますか。
A:「まず新しい原発を作るのは高くつき、二つ目に建設には非常に時間がかかります。(急激に進む)気候危機に対処するには遅すぎるのです。三つ目に、原発には解決されていない最終処分場の問題もあります。これは将来数世代にも及ぶ高いコストと問題を引き起こします。1万年以上放射能に汚染された廃棄物を安全に保管できるのかという問題は、未だ解決されていません。原発は高くつく技術であり、今現在私たちが抱える問題、気候危機に対する戦いの助けにはならないのです」

福島の原発事故から12年。日本は再稼働を進め、次世代原発の新設へと舵を切った。私も3年前、福島第一原発の中に入って取材したが、いまだにデブリの取り出しができないなど、廃炉計画は長期化が避けられない状況だ。
一方のドイツは、ウクライナ戦争で深刻度を増したエネルギー危機の中で、批判を受けながらも脱原発を達成した。新たに浮体式のLNGターミナルを設置し、カタールから天然ガスを輸入する長期契約を結ぶなど、したたかな戦略も見せ、ロシアからの天然ガスが途絶えた冬も乗り越えた。そして、代替エネルギーとして、国産の再生可能エネルギーの拡大を急いでいる。

グライヒェン次官は、日独の再生可能エネルギーを比較する中で、「日本にはドイツよりも多くの再エネのポテンシャルがある」、「再エネで日本は自立できる」と語り始めた。

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