偉業達成の藤井聡太八冠 進化の過程に“5つの決断”[2023/10/15 11:00]

最初のタイトル獲得から3年余り。その後、タイトル戦の番勝負では負け知らずという、まさに破竹の勢いで、ついに全てのタイトルを手に入れた藤井聡太八冠。いったいなぜ、ここまで強いのか?進化の過程で見せた、5つの決断に注目しました。(10月14日OA「サタデーステーション」より)

藤井聡太八冠
『実感や達成感が徐々に湧いてきたところと、一方で重みも改めて感じているところかなと』

13日、地元・愛知県で凱旋会見を行った藤井聡太八冠(21)。

Q愛知県で少しでも落ち着く場所は?
『一番よく行っている場所は、実は師匠の研究室になるのかなと。行くと今でも落ち着くなと感じます』

藤井八冠の「落ち着く場所」だという師匠の研究室。その師匠、杉本八段の証言などをもとに、全冠制覇に繋がった、藤井八冠の非凡な決断を紹介します。

注目すべき決断の1つ目は、プロデビューから29連勝を達成した14歳の時の決断です。当時の藤井八冠の対局を振り返ってみると…

(解説棋士)
『うわーすごい、こんな強気なんだ。うわぁ…』

藤井八冠は、このころ通っていた中学校でも“強気”な決断をしていました。

■藤井八冠の決断その1 「宿題拒否」

中学のクラスメート(2017年当時の取材に対し)
『頭いいけど宿題がね。すごい居残ってるよね』
『宿題を出さないんです。提出物を全く出さない』
Q先生に怒られなかった?
『怒られてます。職員室に呼び出されてたよね、去年』

藤井八冠は、14歳で「宿題をやらない」という決断をしていたんです。「授業内容は理解できているのに、どうして宿題をやらなければいけないのか?」と、先生たちと議論を戦わせていたといいます。

中学の担任(2017年当時の取材に対し)
『「本来、宿題は授業の中に入るかどうか」というところで、ちゃんと伝えましたら、本人納得しましたので…』

この、藤井八冠の「やらない決断」。師匠にも心当たりがあるそうです。

師匠・杉本昌隆八段
『藤井少年が当時指してない戦法、今も指してない戦法の本を書いたんです。「書いたからあげるよ。別に読まなくてもいいけどね」って言って、あげたら、本当に読んでいなかった。自分の信念に忠実だなと…』

■藤井八冠の決断その2 「お金の使い方」

そして、藤井八冠のお金に関する決断も、独特でした。実は藤井八冠、将棋の8大タイトルを独占しているだけではないんです。「一般棋戦」と呼ばれる4つの大会にも参加資格があるんですが、そのすべてで優勝!八冠どころか“十二冠”独占状態なんです。獲得賞金と対局料が2億円を超えるのではないかとの指摘もあります。

藤井聡太八冠(当時14歳)
Qプロ入り前にお小遣いは?
『そういうことはなかったです』
Qそれは今も変わらず?
『はい』

お小遣いはもらっていなかったという藤井八冠。プロ棋士になってから、約50万円で購入した、手のひらサイズの物がありました。パソコンの超高性能パーツです。

自分でパソコンに組み込んで、将棋の研究に活用していました。

藤井聡太八冠(当時18歳)
『寝ている時に、詰将棋の図面が浮かんだことがあった気がします』

夢の中で詰将棋を作っていることもあったという藤井八冠。この詰将棋で培ったのが、詰む、詰まない、を素早く読み切る「終盤力」です。その「終盤力」はどれほどなのか?比較のため、同じ詰将棋の問題を使って、“師弟対決”をしてもらったことがあります。師匠の杉本八段が7分16秒で解いた詰将棋。藤井さんが解くのにかかった時間は、わずか1分14秒。師匠の6倍のスピードでした。

師匠・杉本昌隆八段
『…まあ、そんなもんですよね。藤井七段(当時)の凄さが証明できてよかったです…』

この脅威の終盤力は、タイトル戦でも発揮されました。高校3年生の夏に、二つのタイトルを獲得。

藤井聡太八冠(当時18歳)
『将棋界を代表する立場としての自覚は必要になるのかなと』

■藤井八冠の決断その3 「高校中退」

この後、藤井八冠は大きな決断をしました。通っていた高校を中退したんです。

藤井聡太八冠(当時18歳)
『タイトルを獲得できたことで、将棋に専念したい気持ちが強くなりました』

将棋界には、中学生でプロになった棋士が、藤井八冠の他に4人いますが、全員、高校は卒業しています。

高校中退を決めた時期は、“藤井八冠が一生忘れない対局”があった時期と重なっていました。それは、デビューから5連敗していた天敵、豊島将之九段(33)との対局です。藤井八冠は、6戦目にしてついに、AIによる勝率が99%の場面までたどり着きました。ところが…

(解説棋士)
『うわっ!(藤井二冠)非常手段ですよ、これ。とてもいい手には見えない。これだけの大逆転、プロになってから初めて受けた洗礼って感じでしょ、公式戦で』

珍しく動揺を隠せない藤井八冠。頬を何度も叩く場面もありました。

(解説棋士)
『シャツ戻してますよ。投了の準備でしょ、これ。一生忘れないでしょう』

まさに天敵。豊島九段には「序盤」からリードを奪われ、完敗することがしばしばあったんです。

■藤井八冠の決断その4 「新たなAI導入」

そこで藤井さんが下した決断は、他の棋士が使っていないAIの導入でした。

藤井聡太八冠(当時19歳)
『今年は序盤について、重点的に取り組んでいる』

実は、豊島九段に連敗していた時期に、将棋界で“AI革命”とも言える出来事が起きていたんです。しかもそれは、一人の男性が趣味で開発を始め、無償で公開した、新たな「将棋AI」がきっかけでした。

最強将棋AI開発者 山岡忠夫さん
『(開発に)100万円以上は使っています。作ったものをできれば使ってもらいたい、という気持ちで公開していた』

2020年に世界最強の将棋AIを決める大会で優勝。その「序盤の強さ」にいち早く気付き、導入したのが、藤井八冠だったんです。豊島九段に6連敗した後の成績は、なんと22勝5敗。天敵から2冠を奪取することに成功しました。現在、師匠の杉本八段の研究室には、藤井八冠が当時使っていたパソコンが寄付されています。

師匠・杉本昌隆八段
『100万円前後はしたんじゃないかなと思うんですけど…。今までお年玉をあげてきた甲斐がありましたね。最近、東海地区でたくさん棋士が増えていますけど、彼らはこれを使っている』

■藤井八冠の決断その5 「唯一の練習相手」

そして、この師匠の研究室で、藤井八冠が定期的に会うことを決めている棋士が一人だけいました。八冠制覇の“最後の壁”となった、永瀬拓矢九段(31)です。

研究室で2人が会う際は、毎回、タイトル戦のような雰囲気で、将棋に没頭していると言います。

師匠・杉本昌隆八段
『今は上座に藤井八冠、下座に永瀬九段。挑戦者のように永瀬九段が座っていて、藤井八冠が到着する20分前にはもういますね。朝10時頃から夜9時過ぎまでいることもあった』

「努力の天才」とも呼ばれる永瀬九段は、今回のタイトル戦で藤井八冠をかつてないほどまでに追い詰めましたが、あと一歩、及びませんでした。

(解説棋士)
『記憶にも記録にも残る大逆転でした』

永瀬拓矢九段(王座戦の対局後)
『前のタイトル戦よりは、だいぶ差が縮まったのかな、とも思っていたんですけど…』

藤井聡太八冠(王座戦の対局後)
『永瀬王座にVS(練習将棋)という形で教えてもらうようになって、それを通して、すごく成長できたのかなと思っています』

八冠を独占した後も、お互いを高め合う関係は続いていきそうです。

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