急増する「生活全般低調タイプ」とは?特殊詐欺 “闇バイト”の深い闇<後編>

[2023/11/04 10:00]

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「携帯ゲーム代や遊ぶ金が欲しくて…SNSで高額バイトを検索して詐欺グループの人と連絡をとりました」
「やっぱり楽に稼ぎたいっていう気持ちがすごく強くあったので誘惑というか自分の欲求に抗えませんでした」

いわゆる“闇バイト”から特殊詐欺の「出し子」を繰り返し多摩少年院に収容されている19歳の少年。
多摩少年院は関東大震災のあった大正12(1923)年設立、わが国最古の少年院だ。100周年を迎えたということで今回、取材を申し込んだ。

(テレビ朝日報道局デスク 清田浩司)

■「楽に稼ぎたい」と闇バイトで特殊詐欺

かつては生活苦からの窃盗などが中心だったが、今この少年のように特殊詐欺に手を染めてしまい少年院に送られるケースが後を絶たない。

送致される非行内容の罪名は1・傷害、2・窃盗、3・詐欺(8月取材時)の順で少年院も“時代を映す鏡”になっていると言える。

設立当初の多摩少年院
設立当初の多摩少年院

詐欺の形態も時代が経つにつれ変化している。
2015年(平成27年)には少年鑑別所入所者のうち実に84%が「オレオレ詐欺」で、続く「融資保証金詐欺」は3%、「架空請求詐欺」「還付金等詐欺」はそれぞれ2%であった。
これが2020年(令和2年)になると「キャッシュカード詐欺」が60%を占め、「オレオレ詐欺」が22%、「架空請求詐欺」「還付金等詐欺」がそれぞれ4%と変遷している。
詐欺グループは手を変え品を変え、高齢者たちから金を詐取しているのが分かるデータだ。

取材時、83人の少年を収容
取材時、83人の少年を収容

少年たちを指導する教官は
「特殊詐欺の場合、窃盗、傷害等と違って、直接被害者の顔を見ていないので、被害者が自分のしたことでどれだけ苦しんでいるのか、今どんな思いで生活しているのか具体的にイメージできないんです。自分がやったことにちゃんと向き合わせて少年たちにどう考えさせるか工夫してやっていかなければならないんです」とこぼしていた。

特殊詐欺は役割が細分化されているため全体像が見えにくいこともあり、少年たちの罪悪感の希薄さも大きな問題だ。教官、少年たちの話を聞くにつれ、今の日本社会が抱える問題が凝縮されている気がした。

■「自分を上手く表現できないがゆえに取り込まれる子が目立ってきた」

「少年院は怖いイメージがあってやっていけるのか不安だった」と入院当時を語った
「少年院は怖いイメージがあってやっていけるのか不安だった」と入院当時を語った

 多摩少年院は八王子駅から車で十数分、設立当初の写真を見ると木々に囲まれるのどかな風景が広がっていたが、今では周囲を多くの住宅に囲まれている。取材したのは猛暑日続きの8月だった。

インタビューを始めると19歳の少年ははにかみながら、こう話した。
「元々あまり対人関係を築くのが、上手くないというか下手で、こういうふうに対面で話すのが苦手なんです。緊張しちゃって上手く話せないというか…」

犯行から数カ月後、警察官が来たときは「やっぱり捕まるんだ」と思ったという
犯行から数カ月後、警察官が来たときは「やっぱり捕まるんだ」と思ったという

高校時代は学校が終わってから夜はバイトという生活の繰り返しで友達もあまりできなかったという。

池田一院長も「他人に自分のことを上手く表現できないがゆえに犯罪組織に取り込まれてしまったという子も最近目立ってきた」と話す。

「設立当初から少年院職員は心を砕いて少年たちに伴走している」と語る池田一院長
「設立当初から少年院職員は心を砕いて少年たちに伴走している」と語る池田一院長

■「ホワイトです」を信じてから逮捕まで

詐欺グループからの指示はテレグラムを連絡手段として使われるケースが多い 再現画像
詐欺グループからの指示はテレグラムを連絡手段として使われるケースが多い 再現画像

 少年は当初、アルバイトをしていて月15万円ほどの収入があったものの、夜勤続きで体調を壊しやめてしまう。しかし、携帯ゲームなど遊ぶ金欲しさにツイッターで見つけた“闇バイト”に安易に飛びついてしまう。

「やったことないとわからないと思うんですけど、色んなアカウントがほとんど『高額バイト募集しています』『安全』とかそういう感じです。その中から適当に選びました」
 とはいえ怪しいと思った少年は「仕事の内容はホワイトですか?」とメッセージを送る。「ホワイト」とはネットの隠語で“闇バイト”ではないという意味だ。

当然、先方は「ホワイトです」と返し少年はその言葉を信じて安心してしまう。

「自分、ネット依存症気味で…ネットの情報を何でも鵜のみにする所があったんです」と今では悔いている様子だった。
そして、「詳しいやり取りはテレグラムという別のメッセージアプリでやりたいので、アプリをダウンロードしてアカウント名を教えるように」との指示が来る。

今回取材した複数の少年たちはほぼ全員「まずテレグラムを使うよう指示が来た」と証言した。テレグラムは一定期間が過ぎるとメッセージが消えるため詐欺グループの連絡手段として悪用されている。

再現画像 
再現画像 



 その後「個人情報が分かるものを出してください」とメッセージが来る。少年は写真付きの証明書がなかったので保険証を持ったまま顔を自撮りして送ると初めて仕事内容が告げられた。

「『1日3万から5万円くらい自分たちが管理している口座からお金をおろすだけだから』みたいに言われました。今の人たちって結構いろんな銀行にいろんな口座を持っていても珍しくないから別に変じゃないかなって思って」

 その次の日、「朝9時に東京の〇〇駅に来てください」と具体的な指示があり、その後は住宅の住所が送られ「少し待つように」とメッセージが来る。
指定された場所は東京23区内の閑静な住宅街、そこに半袖短パン姿の20代前半と見られる男が現れる。

「封筒を渡されて、中身に外国人名義のキャッシュカードが入っていて、そこで初めてヤバい仕事かなって気が付いたんです」

特殊詐欺の中でも近年“キャッシュカード詐欺”が急増している傾向にある 再現画像
特殊詐欺の中でも近年“キャッシュカード詐欺”が急増している傾向にある 再現画像

キャッシュカードは全部で11枚、名義はほとんどが外国人だった。ここで引き返すこともできたはずだが、少年はすでに自分の個人情報を詐欺グループに渡してしまっていたため、もう後戻りできないと思い込む。

“出し子”は1週間ほど犯行を繰り返し足がつき逮捕されるケースが多い 再現画像
“出し子”は1週間ほど犯行を繰り返し足がつき逮捕されるケースが多い 再現画像

渡された11枚のキャッシュカードから計450万円もの現金を数回に分けて引き出し報酬として5万円を受け取ったと言う。

こうした“出し子”を1週間ほど繰り返した少年はその後、防犯カメラの映像などから逮捕された。被害総額は2千万円にも上るという。

 少年院で1年近くを過ごしている少年、いまどんな心境か聞いてみると
「楽して稼ぐ方法っていうのはないというのをすごく感じました」

「SNSの危険性みたいなものはどう感じていますか?」
「自分みたいにコミュニケーションが苦手でリアルで友達を作りづらいという人は、やっぱりSNSで繋がりを求めてしまうんです。やっぱり距離の取り方とかは考えていかなければいけないかなとは思います」

「普通にSNSで高額バイトと入れて検索したのがきっかけ」と少年は語った
「普通にSNSで高額バイトと入れて検索したのがきっかけ」と少年は語った

法務省の調査でも2015年(平成27年)では「友人・知人からの勧誘」が6割で「インターネットによる勧誘」は1割にも満たなかった。
しかし2020年(令和2年)には「友人・知人」が約4割に減少し「ネットやSNSの募集」が3割強にも増加しているのだ。

■増える“非行歴がない”のに特殊詐欺に…「生活全般低調タイプ」とは?

増える“非行歴がない”のに特殊詐欺に…「生活全般低調タイプ」とは

法務省は特殊詐欺少年を「生活全般問題タイプ」「家庭機能不全タイプ」「生活全般低調タイプ」の3つに分類している。
この中で昨今、保護者との交流もあり非行歴はないものの自立性や主体性が乏しい「生活全般低調タイプ」の少年が、特殊詐欺にかかわるケースが増えているというのだ。

確かに今回取材した複数の少年たちは、いわゆる“不良少年”には到底見えない普通の少年で、このタイプと思われるケースが多かった。時代、社会情勢の変化とともに「特殊詐欺」の犯罪形態も少年のタイプも変遷していることに注目し今後、防犯対策や再犯防止策を講じなければならないと感じた。

まずはシンプルだが「世の中に楽して稼げる仕事などない!地道に働くのみだ!」ということを少年たちに植えつけることだろう。

「社会復帰することに不安はあるが専門学校で勉強したい」と最後に抱負を語った
「社会復帰することに不安はあるが専門学校で勉強したい」と最後に抱負を語った

最後に今回の取材を通じ印象に残った、同世代に向けた少年からの言葉をお伝えしたい。

「本当に自分も自分の周りの人も、被害者も被害者の周りの人も皆、不幸な気持ちになります。同世代の人たちには特殊詐欺は本当、絶対にやらないで欲しいです」

  • 多摩少年院が設立されたのは関東大震災の年
  • 設立当初の多摩少年院
  • 取材時、83人の少年を収容
  • 「少年院は怖いイメージがあってやっていけるのか不安だった」と入院当時を語った
  • 犯行から数カ月後、警察官が来たときは「やっぱり捕まるんだ」と思ったという
  • 「設立当初から少年院職員は心を砕いて少年たちに伴走している」と語る池田一院長
  • 詐欺グループからの指示はテレグラムを連絡手段として使われるケースが多い 再現画像
  • 再現画像 
  • 特殊詐欺の中でも近年“キャッシュカード詐欺”が急増している傾向にある 再現画像
  • “出し子”は1週間ほど犯行を繰り返し足がつき逮捕されるケースが多い 再現画像
  • 「普通にSNSで高額バイトと入れて検索したのがきっかけ」と少年は語った
  • 「社会復帰することに不安はあるが専門学校で勉強したい」と最後に抱負を語った

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