噴煙「上空1万5千m」が基準…火山噴火で「津波可能性情報」 運用に「22年の反省」

[2023/11/25 18:00]

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11月20日に南太平洋で発生した火山の噴火では、日本でも津波到達の可能性があるとして気象庁が一時、注意を呼び掛けた。結果的に津波は国内外ともに確認されず被害はなかった。しかしなぜ、気象庁は噴火で「津波可能性情報」を出したのか。この情報が出る決め手は「噴煙の高さ」で、背景には「2022年の反省」があった。

(テレビ朝日報道局社会部 災害担当 中尾洋輔)

■噴煙の高さ15,000mが「津波可能性情報」の引き金に

今回噴火したのは、南太平洋の島国・パプアニューギニアのニューブリテン島にある、ウラウン火山だ。

気象庁によると、南太平洋の火山の監視を担当するオーストラリアの情報機関から、日本時間午後3時24分に噴火の情報が発表された。この時点では噴煙は上空30,000フィート(約9,000m)とされていた。午後3時45分に情報が更新され、上空50,000フィート(約15,000m)と明らかにされた。

これを受けて気象庁は、今回の「津波可能性情報」の発表の検討を始めその後「気象衛星ひまわり」の観測データをもとに噴火の状況の確認を進めた。数十分かけて噴煙の状況を精査すると、多くの雲がかかる中を大きな噴煙が上がっている様子が確認できた。こうして午後5時3分、気象庁は最初の「津波可能性情報」の発表に踏み切った。

実は、情報の発表基準はただ一つ、噴煙の高度が15,000メートルを超えたかどうかというところにある。専門家らが過去の火山噴火に伴う津波を精査したところ、いずれの場合も噴煙がこの高度を超えていたことから現在、唯一の発表の基準になっている。今後、海外の火山噴火の情報に触れたときには、これを一つの判断基準として注意していただきたい。

■火山噴火なのになぜ「地震」? 背景には「2022年の反省」が

フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイの噴火を確認する地質学者たち(トンガ当局のフェイスブックから)

ところで、先ほどから述べている「津波可能性情報」の正式名称は「遠地地震に関する情報」という。火山噴火による津波の可能性を知らせる情報なのになぜ「地震」というのか、不思議に思われるかもしれない。実はこの対応、「2022年の反省」に由来する。

2022年1月、南太平洋のトンガにある火山で大規模な噴火があった。このときこの火山周辺で津波が発生したことから、気象庁は当初、日本への津波の影響について注意を促した。しばらくして「若干の海面変動があっても被害の心配はない」と更新した。しかし、その後に日本近海で大きな潮位の変化が確認され、気象庁は急遽、津波警報・注意報を発表した。

トンガの噴火に伴う「津波」で転覆した漁船 高知・室戸市 2022年1月

人的被害はなかったものの、太平洋沿岸の各地で漁船が転覆するといった被害もあった。その後の気象庁や専門家の分析によるとこのとき、これまで知られていた“海底の地形の変化による津波”とは別に、噴火に伴う気圧波により津波のような大きな潮位の変化があったことがわかった。津波のように被害をもたらす潮位変化があったにもかかわらず、注意喚起ができなかった時間があったこと、これが「2022年の反省」だ。

トンガの噴火後、情報発表の見直しを決めた際の気象庁会見 2022年4月

気象庁幹部は当時を振り返り、「噴火による気圧波で海面が大きく変動することが時折あるのは知られていたが、これほどのことが起こると初めて思い知らされた」と話す。

2022年に複数回まとめられた専門家による報告書は、「潮位変化は大規模噴火に伴う気圧波の伝播等によって生じた」と結論付け、今後同様の大規模な火山活動が起きた際には「津波への防災対応が必要となる可能性があることを伝えることが重要で」、「気圧波等に起因する潮位変化を発生させる可能性のある大規模噴火を覚知した場合には、その旨の情報を提供するべきである」と指摘した。

気象庁は専門家の指摘も踏まえ、気圧波による海面の変動も事実上、津波とみなすことにした。また、海外の大地震による津波を念頭にしていた「遠地地震に関する情報」の基準に大規模噴火も加え、海面の変化がなくとも、日本に津波が到来する可能性を知らせることにした。この名称での運用は当面続けるが、今後変えることも検討しているのだという。

■「心配なし」判断まで6時間… 運用に課題も

気象衛星ひまわりによるトンガの噴火の様子 噴煙の周囲を円状に薄く広がるのが「気圧波」とされる(気象庁HPから)

今回のパプアニューギニアの噴火の場合は午後5時の最初の「津波可能性情報」発表の後、2時間に一度は情報が更新されていたものの、「国内外の観測点で潮位の変化は確認されていない」という内容は長くそのままだった。午後11時になってはじめて、「日本への津波の影響はない」、つまり津波の心配がないという文言が入った。本格的な就寝時間帯になるまでに安心を伝える情報が出たことには私自身ほっとしたが、それでも噴火から7時間半、最初の発表から6時間かかっている。

気象庁は6時間後の判断となった理由として、トンガの噴火による津波の際に複数の気圧波がかかわったことが専門家に指摘されているからだとしている。ウラウン火山を中心に、秒速300mを超える「ラム波」と、秒速200m程度の「内部重力波」が同心円状に広がったと仮定した場合、日本の領土の北端に達するのが午後11時ごろだったのだという。

現在の科学では、計算上この波の影響が出ない時間まで海の状況を見極めないと、津波の影響がないか判断できないということだ。気象庁幹部も「避難が必要かもしれない地域の人に『影響がない』と伝えるのに長時間かかるのは心苦しいが、これが現在の科学の限界だ。我々も突然知らせるよりはましだと思うしかない」と話した。その上で、「噴火の際の気圧波による津波は100回に1回あるかないかの現象ではあるが、情報を伝える判断を遅らせるわけにはいかない」と現在の対応の意義を強調した。

取材を通じて、「津波可能性情報」である「遠地地震に関する情報」は、過去の災害発生事例をもとに科学の限界の中で呼びかけたものだとわかった。「100回に1回あるかないか」でも、気象庁としては過去に実際の被害があった以上は無視するわけにはいかない。しかし情報の受け取り手としてはこの新しい情報をどう生活に生かすかは難しいところも感じられる。

こうした「幸い、何もなかった」機会をとらえて、とっさに避難できる体制の再確認を進めたり、日ごろ伝えられている情報の意味を知ったりする機会にしていただきたい。

  • 衛星でとらえたウラウン火山からとみられる噴煙
  • フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイの噴火を確認する地質学者たち(トンガ当局のフェイスブックから)
  • トンガの噴火に伴う「津波」で転覆した漁船 高知・室戸市 2022年1月
  • トンガの噴火後、情報発表の見直しを決めた際の気象庁会見 2022年4月
  • 気象衛星ひまわりによるトンガの噴火の様子 噴煙の周囲を円状に薄く広がるのが「気圧波」とされる(気象庁HPから)

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