「母親がこの中にいる。消防の方々が救助活動をしてくれている」。倒壊した住宅の前で立ちすくむ林淳彦さん(62)に出会ったのは地震発生から4日が経った1月5日のことだった。終始、拳を握りしめ言葉を絞り出しながら話を聞かせてくれた。
(テレビ朝日社会部 伊平晃司)
「とんでもないエネルギーだった…」体は飛ばされ下敷きに
石川県穴水町。林さんは母の喜美子さん(90)と兄と暮らす住宅で揺れに襲われた。
と当時を振り返る。
「私も地震直後に生き埋めみたいな状態で下敷きになっていたんですけど、兄だけが外に放り出されたんで助けを呼んでくれて…」。
林さんと喜美子さんは倒壊した住宅に取り残された。
林さんは住宅の中で頭すら動かせない状況だった。
意識が朦朧とするなか「ここにいる、助けてくれ」と叫び続けた。
15時間以上が経った2日早朝、助け出された。救出されて見た自宅は2階の屋根が腰の高さほどまで押しつぶされていた。
その後、5日午前11時ごろ喜美子さんも心肺停止の状態で救助されたが、死亡が確認された。林さんは母の姿を見ると、取材班の前で膝から崩れ落ちて涙を流した。
「地震が来たな」
これが母と交わした最後の言葉となった。
喜美子さんはこの場所で5年ほど前まで美容院を営んでいたという。寝たきりになってからは林さんが兄と2人で介護をしてきた。
築100年近い住宅。
「古いけど家は大きいんだ」
周囲と比べ少し大きな家を喜美子さんは自慢気に話していたという。
“高齢化率の高さ”と“耐震化率の低さ” 取材で見えた倒壊の要因
取材中、林さんの住宅と同じように崩れた多くの住宅を目の当たりにした。石川県によると1月28日時点で全壊や半壊、一部破損を含む被害棟数は4万3,755棟に及んだ。
被害が大きくなった要因について名古屋大学の福和伸夫(ふくわ のぶお)名誉教授はこう指摘する。
「強い揺れへの対策の一丁目一番地は家屋の耐震化にあるのは疑いがない。今回の被災地では耐震化率が5割くらいしかなかった」
2018年度、全国の住宅の耐震化率(震度6強から震度7程度の地震でも倒壊しない住宅などの割合)は平均で約87%だった。これに対し、穴水町ではその翌年の2019年度の調査でも約48%ほどで、全国平均を大きく下回っている。なぜ耐震化が進まないのか。
「耐震化の決断を後押しするサポートが必要」
福和名誉教授は
穴水町の65歳以上の割合は50%ほどと、高齢化が進む。高齢世帯の多くは、耐震化の間の住まいをどう確保するかや、耐震化をしても次に住む人がいないなど対策に踏み切れない事情を抱えている。また過疎化が進み、耐震化を進めようにも人材の確保も困難だ。
福和名誉教授は
とした上でこう強調した。