「やめたら将来必ず後悔する」震度6強に2度襲われた酒蔵…壊滅的被害から再建へ

[2024/02/02 20:00]

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「店舗も自宅も全壊ですけど、それでもよければ撮影していってください」      

櫻田酒造の櫻田博克代表(52)はそう言うと、私たちを案内してくれた。

酒蔵はなんとか外観を保っているが、中はぐちゃぐちゃ…。事務所前には、がれきに加えて割れた一升瓶やケースがひどく散乱していた。

実は地震の被害に遭うのは今回が初めてではなかった。こんな状況にもかかわらず、櫻田代表はどこか開き直った様子で、時折明るい表情も浮かべるのが印象的だった。再建に向けての決意を聞いた。

(テレビ朝日社会部 中野希友未)

漁師町で100年以上愛されてきた老舗酒蔵

能登半島の先端、古くから漁師町として栄える珠洲市蛸島町で櫻田酒造は1915年に創業した。

創業は1915年 漁師町の地酒として愛されてきた 櫻田酒造HPより

能登半島の地酒として地域住民に愛されてきた。

家族4人で営む小さな酒蔵で、櫻田代表はその4代目だ。

看板商品の大慶(たいけい)  櫻田酒造HPより

看板商品は、大漁の時の喜びをイメージした特別純米酒「大慶(たいけい)」。

米本来の旨味を感じられる味わい深い日本酒だ。

倒壊した櫻田酒造 2024年1月29日

この地域では震度6強の揺れが襲った。家族は全員無事だったが、店舗は屋根から崩れ、潰れてしまった。酒蔵も被害を受け、約1000本以上の在庫が廃棄になってしまったという。

在庫のうち1000本以上が割れた 2024年1月13日

「本当は、正月明けから“さぁ酒造りを再開しようか”と話していたところだった」

取材を進めると、この「再開」という言葉には重みがあることをのちに知ることになる。

再出発に向け準備万端 その矢先に…

実は珠洲市では去年5月にも、震度6強の揺れに襲われていた。 

2023年5月の被害 櫻田代表提供

この時も櫻田酒造は酒蔵が傾くなどの被害を受け、仕込みができない状態になってしまっていた。櫻田代表は、仕込みを始める今年1月までには何としても間に合わせたいと地元大工に頼み込み、酒蔵を修繕。去年12月末には地元産の酒米を仕入れ、再出発に向けて準備は万端のはずだった。 

櫻田酒造代表の櫻田博克さん(52) 2024年1月13日

潰れた事務所の前で、

「酒米も事務所に置いてあったんでね、もうダメだと思います」

と肩を落とした。

無残な店舗や自宅を前に、どこから手を付けていいかわからず、被災直後は「廃業」の文字が頭をよぎった。

だが、客や取引先から応援のメッセージが続々と届き励まされた。

『櫻田さんのお酒がまた呑みたい』
『再建したらいっぱい買うよ』
『まだ商品があるなら買い取りたいです』
届いた応援のメッセージ

再建に向けて何とか前向きに頑張っていきたいと自分を奮い立たせた。
近くの避難所に身を寄せながら毎日酒蔵に通った。
まずは片付け作業から地道に進めていった。

その様子を見守り続けたいと思いながらも、私たち取材クルーは帰京の時を迎えた。

奇跡の酒米救出劇 「ありがとうという気持ち」「幸福な気分」

瓦礫の下から見つかった酒米 2024年1月18日
無事だった酒米
無事だった酒米

朗報が入ったのは1月18日のことだった。

「酒米、無事だったよ!」。引き継ぎで現地に入った記者からの連絡だった。
廃棄を覚悟していた在庫数百本も、割れずに無事だったという。雨の中、ボランティアが手伝い、搬出作業をしてくれたそうだ。

在庫数百品も無事だった 2024年1月18日
「暗いことばかりだったけど、もう地震のことなんか忘れて、ただ単にありがとうという気持ち。幸福な気分」

満面の笑みを浮かべる櫻田代表を映像越しに見て、泣きそうになった。

「手伝いできることがあったら何でもやるぞ」

被災してすぐ、30年近い付き合いがある「車多酒造」(白山市)の代表から連絡があった。別の友人からは、車多代表が櫻田酒造のために酒蔵を貸す準備をしていると聞いた。今年度の酒造りは絶望的だったが、酒米が無事だったこともあり、間借りして仕込むことを決めた。

車多酒造  石川・白山市  同社HPより

さらに今回は強力な助っ人も一緒だ。大学2年の長男・慎太郎さん(20)が力を貸してくれることになった。

東京農業大学で醸造について学ぶ慎太郎さんだが、実はこれまで家業を継ぐことに迷いがあったという。

長男の慎太郎さんと

今回の震災を受け、覚悟を決めた。櫻田代表は、苦労をかけるかもしれないと心配な面もあるが、決心した長男をみて“自分もまだまだ頑張らなきゃ”とやる気が出てきたと話す。

「復興のシンボルでもないけどなんとか美味しい酒を作って、日本酒を味わってほしい。ホッとして欲しい」

長男が春休みに入る3月から本格的な仕込みを始める予定だ。

櫻田酒造HPより

地震の被害から立ち直り、再出発の矢先にまた被災。それも、今回はちょっとやそっとでは復旧できない状態だった。大正時代から続く家業が自然災害によって危機にさらされる…。私だったら耐えられただろうか。目を背けたくなっただろう。

櫻田代表の再建への強い思いはどこからくるのか。気になって尋ねた。

櫻田代表

「やっぱり酒造りは非常に面白いので、これで辞めるのは本当につらいし、辞めたら必ず将来後悔すると思う」

“好き”という気持ちが、どこまでも人を動かすエネルギーになるということなのか。

1カ月経った今もいまだ断水が続き、全壊した建物に電気は通っていない。避難所生活も続く。櫻田代表はこの先もしばらくは妻と2人で避難所に身を寄せるつもりだ。

それでも、再建に向けて少しずつ道筋が立った今、今後について話す表情は、一点の曇りもないように感じた。

  • 櫻田酒造 石川・珠洲市  同社HPより
  • 創業は1915年 漁師町の地酒として愛されてきた 櫻田酒造HPより
  • 櫻田酒造HPより
  • 看板商品の大慶(たいけい)  櫻田酒造HPより
  • 倒壊した櫻田酒造 2024年1月29日
  • 杉玉も落下 2024年1月15日
  • 醸造用のタンクも被害を受けた
  • 頭を抱える櫻田博克さん
  • 在庫のうち1000本以上が割れた 2024年1月13日
  • 2023年5月の被害 櫻田代表提供
  • 櫻田酒造代表の櫻田博克さん(52) 2024年1月13日
  • 届いた応援のメッセージ
  • 瓦礫の下から見つかった酒米 2024年1月18日
  • 無事だった酒米
  • 無事だった酒米
  • 在庫数百品も無事だった 2024年1月18日
  • 車多酒造  石川・白山市  同社HPより
  • 長男の慎太郎さんと櫻田代表
  • 櫻田酒造HPより

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