世界に誇る日本の女子レスリング。国民栄誉賞を受賞した伊調馨さんや吉田沙保里さんなど、名選手を輩出していますが、新たな注目選手が出てきました。
その注目選手は、藤波朱理さん(19)です。
2021年、世界選手権53キロ級で金メダルを獲得。世界女王になりました。中学生のころから無敗で、公式戦は119連勝を達成しています。
そんな彼女に、松岡修造さんが話を聞きました。
■伊調さんも絶賛する「朱理距離」
先月、吉田沙保里さんに並ぶ119連勝を挙げた、藤波朱理さん。
実は、ものすごい記録がもう一つあります。なんと、29試合連続で無失点なのです。
レスリングでは背中をとられても、場外に出されてもポイントを奪われますが、それさえも許さない。強さの秘密は、何なのでしょうか?
藤波さん:「自分のなかで『バシッとくる距離間』があって。それは『自分だけの距離間』」
松岡さん:「朱理距離?」
藤波さん:「朱理距離だと、相手の状況が見える。相手の身体の状態が分かる。相手の距離ではなくて、自分だけの距離」
松岡さん:「僕らも画面を見て、『はい!きた』って分かります?」
藤波さん:「分からないですね。『はい!きた』って言ったほうが、いいですかね?」
藤波さんにしか分からない「朱理距離」。この距離間について、父でコーチの藤波俊一さんに聞いてみました。
日本体育大学コーチ・藤波俊一さん:「相手が攻めてくる間合い」
松岡さん:「間合い?」
俊一さん:「相手が攻めようと思った時にはいない。『これくらいの距離なら守れる』、動きでその間合いをとっている。(相手が)来るまでにすかす」
松岡さん:「すかす?」
俊一さん:「(相手が)行くぞと思った時には、脚はない。それまでに動いておく」
朱理距離のすごさについて、オリンピック4連覇を成し遂げた伊調馨さんも絶賛します。
伊調さん:「私の場合は、脚を触られることが多かった。どっちかというと、粘り。脚を触られてから、ポイントをとらせない方法。私の場合は、そっちのほうが得意なんですけど。藤波選手の場合は、足を触らせないことが1番すごいです」
松岡さん:「すかされる感覚は、ありますか?」
伊調さん:「もちろん、あります」
松岡さん:「えっ、ある?」
伊調さん:「そこが脚を触らせない部分に繋がっている」
朱理距離では、足をとることができない。現在、伊調さんはコーチという立場で、藤波さんとスパーリングをすることも多いそうです。
スパーリングを見てみると、伊調さんでも藤波さんの脚をとれません。
松岡さん:「どうなったら、朱理距離ができるんですか?」
藤波さん:「自分の中で分かるんです。朱理距離が掴めない時が、一番危ない。なるべく早く、見つけるようにしています」
■父に負けたくない一心で…こなした実戦練習
では、朱理距離はどのように培ったのでしょう?
藤波さん:「昔からマットでの実践練習が多くて。反復練習とか、嫌になるくらい父にやらされて。『なんで、こんなこと毎日やらなあかんのや』って。出されたメニューに対して、『手を抜いたら自分の負けや』と思ってたので」
松岡さん:「父に負ける?」
藤波さん:「出されたメニューに対して、手を抜いたら悔しいじゃないですか。自分の中で負けなんですよ。それが、今に活きているなと感じる」
父に負けたくない一心で、こなした実戦練習。時には、男子選手と稽古を行い、朱理距離が養われました。
実は、その効果「脚をとらせない」は、守りの部分だけではありません。朱理距離を極めることで、カウンター攻撃もできるのです。
松岡さん:「相手が攻めている時、どう捉えていますか?」
藤波さん:「チャンスやな。逆に攻められる」
松岡さん:「攻められないですよ。向こうが、攻めているんですから」
藤波さん:「そこがチャンスなんです。構えた状態が、一番バランスが良い状態。でもタックルが入ると、バランスは崩れるんですよ」
松岡さん:「相手がタックルしてくるところが?」
藤波さん:「相手のバランスが崩れているということなので、そこを攻める」
そして、カウンターでポイントを奪い続けると、さらなる効果が!
藤波さん:「相手は、(私が)カウンターが得意だと分かっているので、逆に攻めづらくなるのもメリット」
朱理距離では「脚をとらせない」。攻めてきた相手から「カウンター攻撃」で逆にポイントを奪う。「カウンターを恐れて攻めてこない」という究極のサイクルが、29試合連続無失点という大記録をつくりました。
■藤波さん「オリンピックに勝ってこそ評価」
来年のパリオリンピック、藤波さんにとっては、どんな舞台なのでしょう?
藤波さん:「オリンピックに勝ってこそ評価される。周りの人の目標でもあるので、その分も頑張りたい」
松岡さん:「そのプレッシャーって、どういうものでしょう?」
藤波さん:「正直、期待されるのは、すごく好きなので。どんどん注目してほしい。どんどんプレッシャーかけてこいと思います」
(「報道ステーション」2023年5月15日放送分より)
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