去年4月の世界ランキング女子シングルス125位だった大藤沙月選手(21)は、そこから約1年で世界ランキング8位まで上り詰めました。
シングルスだけでなく、世界選手権で混合ダブルス銀メダル、そして女子ダブルスでは世界ランキング2位です。
突如、世界を席巻する存在に。一体どうしてなのか、そこには唯一無二のサーブがありました。
■世界ランク1位を圧倒するサーブ
先月の世界選手権、混合ダブルス準々決勝。世界ランク1位の中国ペア相手に大藤選手がみせたサーブは衝撃でした。
なぜかサーブを返せず、世界ランク1位がタジタジ。何を仕掛けていたんでしょうか?
「“パカーン”ってアウトしたやつあったじゃないですか?『この選手どうしちゃったんだ?』と思った」
「相手がレシーブをする前から『ミスするだろうな』。普通の選手は上回転サーブを出す時に、ラケットを下から上に擦って回転をかける。私はラケットを上から下に落とすので、相手からしたら下回転サーブに見える」
「上回転なのに下回転にみえる」。一体どういうことなのでしょうか?
一般的に、卓球のサーブは、ボールに当たるまでの「ラケットの動かし方」で球種を判断します。
例えば、上回転サーブの場合、通常ラケットを下から上に動かします。打球は手元で伸びます。
一方で、下回転サーブの場合、通常ラケットは上から下へ。打球は相手の手元で止まります。
実際に大藤選手のサーブを見てみると、上回転と下回転、全く見分けがつきません。どのように打ち分けているのでしょうか?
「ラケットを上から下に落としながら上回転をかけられます。当たる瞬間だけで上回転サーブにできます。世界でできるのは私しかいない」
大事なのは、ラケットとボールが当たる瞬間です。ラケットの向きを一瞬変えることで、回転を打ち分けているというんです。
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■プレースタイルを「守備型」から「攻撃型」へ■プレースタイルを「守備型」から「攻撃型」へ
まさに唯一無二のサーブ。しかし、1年前まではその強みを生かしきれていなかったと言います。
そこで去年1月、卓球選手としては超異例の決断をします。
「守備型から攻めるプレースタイルに大きく変えました。ラケットもラバーも全部変えました。『サーブからの3球目』で決まるところを、わざわざ入れにいってたので、『なんてしょうもないことをしてたんだ』って。相手にミスさせたい思考だったので、自然と『守りの卓球』になっていた。台から下がったところでも強打、前にいても全部強打」
「自分の卓球を変えたきっかけは?」
「平野美宇選手に“0対4”で敗戦。現実を突きつけられた」
サーブを打った後のプレースタイルを「守備型」から「攻撃型」へ。
変えるきっかけになったという、去年1月の平野美宇選手(25)との試合を見てみると、大藤選手得意のサーブに平野選手のレシーブは甘くなります。にもかかわらず、この後の3球目、ただただ、返球。そして、打ち込まれる。サーブを生かした攻撃がまったくできていませんでした。
一方で、そのわずか2カ月後の試合では、大藤選手のサーブから甘くなったサーブレシーブをバックハンドで強打。サーブから強打を浴びせまくる、思い切ったプレースタイルの一新が、世界ランク急上昇の原動力となっていました。
「攻撃したことによって、自分のサーブをどう捉えるようになりましたか?」
「これだけ効くサーブを出せる選手はいない。攻めのボールも増えたので、サーブが本当に生きている。あの時自分の卓球を変えて本当に良かった」
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■松岡さん「大藤選手のサーブは本当の唯一無二」■松岡さん「大藤選手のサーブは本当の唯一無二」
「このサーブを打てるのは世界で私しかいないんだって、力強い言葉ですね」
「本当にそう思います。アスリートが唯一無二の武器を持つって大事ですよ。でも、その武器をどうやって生かすのか、そして、それをどのように決断していくのか、見つけていくのか。大藤選手の場合、思い切りプレースタイルを変えたわけです。そうしたことによって、大藤選手のサーブは本当の唯一無二といいますか。それを探し求めたんだなという気がしますね」
「人間が強みを持つことって大事ですね。しかも、強みをどう自覚していくか、1人のアスリートのブレークスルーの瞬間というものを見させてもらいましたね」
「そのなかには唯一無二の自信がつきますね」
(「報道ステーション」2025年6月13日放送分より)