伝説のミュージカル劇団「東京キッドブラザース」でデビューし、1980年、「風神の門」(NHK)で主人公・霧隠才蔵に抜擢され注目を集めた三浦浩一さん。「鬼平犯科帳」シリーズ(フジテレビ系)の密偵・伊三次役、「剣客商売」シリーズ(フジテレビ系)の御用聞き・弥七役などで広く知られることに。今年は初めてシェイクスピア作品に挑戦し「リア王2024」(演出:横内正)に出演。11月1日(金)に映画「ぴっぱらん!!」(崔哲浩監督)の公開が控えている。
■初めてシェイクスピア作品にチャレンジ
デビュー以降、コンスタントにテレビ、映画、舞台に出演し続けているイメージの三浦さんだが、危機を感じた時期もあったという。
「映像の仕事を始めて最初から主役で、レギュラーもあったので、ずっとそういう状態が続くと思ってしまうんですよね。そんなことはあるはずがないのに。だから、30ちょっと過ぎぐらいから、ちょっと困りましたよね。子どもがまだ小さかったので。
最初にいい作品に恵まれていたこともあって、そうじゃなくなった時にはやっぱりすごく悩みましたけど、そんなこと言っていられないと思っていろいろやりました。何が大事かと言ったら家族をちゃんと食べさせることでしたからね。テレビショッピングとか昼帯(ドラマ)も何本かやらせていただきました。そういう時期がありましたね」
――昼帯はスケジュールがかなり過酷だそうですね
「めちゃめちゃでした(笑)。今はそんなことはないと思いますが、当時は27時終了で3、4時間後に開始みたいなこともありましたからね。
昼帯をやると女優さんも体調がおかしくなったりするくらい大変でしたね。でも、何だかんだ言っても何とか仕事が続いてきて、ここのところ舞台も結構続いているので本当にありがたいことだなと思っています」
三浦さんは、8月29日(木)〜9月2日(月)まで、俳優・横内正さんが主演・上演台本・演出を手がけた舞台「リア王2024」(三越劇場)に出演。ケント伯爵役を演じた。
「70歳にして初めてシェイクスピア作品にチャレンジしました。東京キッドブラザースにいたので、『シェイクスピアは俺とは違うな』って思っていたんですけど、横内(正)さんに声をかけていただいて」
――一癖も二癖もある登場人物の中でケント伯爵は良識ある役どころですね。衣裳もとてもステキでした
「衣裳もあそこまできちんと考えてくれているというのはなかなかないのですごいなあって思いました」
――83歳になられた横内さんが演出だけでなく主演もつとめられていて
「すごいですよね。横内さんのパワーに圧倒されました。普通は演出と主演を兼ねていると、稽古で演出をしている時は代役を立てたりするんですけど、横内さんは演出をしながらご自分でやってらっしゃいましたからね。
そんなこと普通はできないですよ。本当にすごい。やらせていただいて本当に良かったです。いくつになってもチャレンジすることって大切だなって改めて思いました」
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■泥臭い感じの映画をノリノリで■泥臭い感じの映画をノリノリで
11月1日(金)よりテアトル新宿、アップリンク吉祥寺他にて全国順次公開される映画「ぴっぱらん!!」に出演。この映画は、25年前にヤクザの組長だった父・百鬼剛(金守珍)が何者かに暗殺されて以来、離れ離れになっていた百鬼(なぎり)三兄弟が25年ぶりに集結。父の死の真相が明らかになっていく…という内容。三浦さんは、元ヤクザの国会議員・福沢正志役。
「元ヤクザの国会議員という設定はすごく面白いと思うんですよね。今だったらありえないじゃないですか(笑)。今のこのネット社会では絶対にあり得ないことだけど、改心してちゃんといい人になったのかと思ったら、実は…っていうね」
――崔監督とは「いちばん逢いたい人」(丈監督)でも共演されていますね
「はい。勢いがあるというか、今、この人間関係が希薄な時代にものすごく泥臭い感じの映画で、僕はもうノリノリでやっていました。
若い頃は、カッコいい役とか、モテる役とか、何かそういう役がいいなって思うじゃないですか。いい人の役がいいなって。でも 途中からはもうそんなことじゃなくて、やりがいがあるというか、自分で演じていて面白いなって思う役をやりたくなるんですよ。今回なんかはまさしくそういう役ですよね。
議員としての顔はとにかく善の塊みたいな顔でやって。でも、実は…という裏の顔はその真逆をやらせてもらって、面白かったですよね。表の顔と裏の顔が」
――山口祥行さんとは『日本統一』シリーズでも共演されていますが、あの時には人が良すぎる社長役でしたね
「そうですね。彼(山口祥行)とは『日本統一』の前に『ブレイブX(テン) 極道十勇士』
(金澤克次監督)という映画でも一緒だったんです。『DA PAMP』のISSAくんが主演で、僕は彼の父親の役だったんですよ。その時も僕はヤクザ役で、『日本統一』では真逆の善人役だったから、彼に『前と全然違いますよね』って言われましたよ(笑)。
でも、それが僕の役者としての醍醐味だったり、楽しみですよね。そう思ってもらうのがうれしい。いつも同じイメージじゃなくて、何かやるたびに違う色が出せればいいなっていうのはあるんです。今回は、共演シーンはなかったけど、現場や撮影のあとの飲み会では一緒になっていろいろ話せました」
――撮影で印象に残っていることは?
「過去のシーンは、すごく時間をかけて撮ったんです。当たり前のことですけど、午前2時とか3時とか、どんなに時間がかかっても、やっぱりいいものを作ろうという熱が僕らキャストにもあるし、スタッフさんにもありましたね。
音楽もすごく印象に残っていて。『シーナ&ロケッツ』の奈良敏博さんがすごくセンスあるなあって。エンディングも軽快な気持ちにさせてくれました」
としてください。
――撮影はスムーズに行きました?
「そうですね。監督は僕なんかが迷っている時も、スパッと決めてやっていくタイプですね。例えば、丹波組組長が刑務所から出てきて宴会になっているところに議員として入っていくシーンの時に、もともとはヤクザなんだからヤクザ風にして入って行ったんですけど、崔さんに『ここはそうじゃない顔で入ってきてください』って言われて。そういう感じで彼の中ではイメージがちゃんとできていて、スパッと的確に言ってくる。
よっぽど僕の考えと監督の考えが違うときは意見を戦わすんですけど、基本舞台は演出家のものだと思うし、映画は監督のものだと思っているから、僕はその色に染まるというか、監督の求めているものをやろうという風に思っているんですよね」
――崔監督はトリプル主演の3兄弟の一人で出演もされていますね
「そう。すごい人はやっぱパワーがあるなと思う。だって、切り替えなきゃいけないじゃないですか。自分が芝居をしている時も監督として全体を見なきゃいけないわけですからね。
僕はもともと映画がやりたくて役者になったんですけど、『これが僕の代表作』と言えるものがなかなかなくて。この作品が代表作になると思っています」
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カンヌ国際映画祭と亡き妻の夢カンヌ国際映画祭と亡き妻の夢
私生活では、「東京キッドブラザース」のトップスターだった純アリスさんと1980年に結婚。純アリスさんは、2019年7月12日に亡くなられた。3人の息子さんたちに恵まれ、次男は元俳優の三浦孝太さん、三男は俳優の三浦涼介さん。かつては親子共演されたことも。
――以前は親子共演の舞台もありましたが、今後予定は?
「全くわからないですけど、僕はやりたいですね。最初の共演は東京キッドの再演の舞台で、次がNHKのドラマだったんですよ。その時に、僕はOKなんだけど、あいつが嫌がるんじゃないかなと思ったの。そうしたら意外と大丈夫だったんですけど、今後も機会があればやってみたいですね。
次男は、今は役者を辞めています。大河に出たりすると、どこかで僕は…って思ったかもしれないですけど、そうそう甘いものじゃないですからね。特にコロナで全部中止になったり、決まっていたこともなくなって、役者以外もそうですけど、エンタメ業界はコロナでかなり苦労しましたよね」
――涼介さんは、「仮面ライダーオーズ/OOO」(テレビ朝日系)のアンク役で知られていますが、三浦さんの息子さんだということは昨年知りました。妖艶な雰囲気が印象的ですね
「涼介は、若い時はまず女の子に間違われていて、そういう役が多かったんですけど、だんだん男っぽくなってきて、仮面ライダーのアンク役で全国的になって。
もともとは歌手になりたくて、小学校5、6年の頃から安室奈美恵さんとか、スピードの歌ばかり家で歌っていたんですよ。それで、ライジングプロダクションのオーディションを受けに行って、グランプリは獲れなかったんですけど、歌やダンス、ドラムのレッスンとかをタダで受けさせてもらうことになって。
そうこうしているうちに、彼は、最初は『おぎゃあ。』(光石冨士朗監督)という映画に出ることになって。主人公が子どもを宿して、そのお腹(なか)の中にいる子ども・キジュマルの役をやったんです。
息子たちが仕事を始める時に『僕は一切手助けはしないよ』って言っていたんですよ。要するに、三浦浩一と純アリスの息子だということで出たって彼らのためにならないと思うしね。
『おぎゃあ。』の公開前に、スポーツ新聞が『三浦浩一の息子ということで記事を書きたい』って言ってきたから、それは僕はやらないって言ったんです。どこの誰かわからないっていう感じで出た方がいいからって。
その時に妻は、『何で自分の息子が出るのに協力しないの?』って怒ったんだけど、それが僕のやり方だし、それが僕の愛情のかけ方なんです。だから、どっちがいいとか悪いとかじゃなくて、その名前を出して応援する人もいたけど、僕はどこの誰かわからないで出た方がいいと思って」
――涼介さんが『誰々の息子って言われるほど不愉快なものはない』とおっしゃっている記事を読みました
「そうなんです。あいつは自分の力で頑張っているんですよ。今本当に頑張っている。彼も演出家に恵まれていてね。ミュージカルでも小池修一郎さんの演出作品でいい役をいっぱいやらせていただいているんですよ。
蜷川幸雄さんにも気に入られて、蜷川さんのことを『じっちゃん、じっちゃん』って言っていたの。だから『お前、蜷川さんのことを“じっちゃん”って言うやつなんていねえぞ』って言ったんですけど、蜷川さんは本当に可愛がってくれていましたね。
10月11日(金)から14日(月・祝)は、橋爪功さんと舞台でご一緒させていただくことになっていて。橋爪さんは僕の尊敬する俳優さんですし、涼介もいろいろ学ばせていただけたらいいなって思っています」
三浦さんは現在、10月4日(金)に初日を迎えるミュージカル「本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜」の稽古の真っ最中。
「もともとは小説で、それが漫画になって、アニメになって、今回初めてミュージカルの舞台になったんだけど、これにも悪いヤツで出るんですよ。これもとんでもない悪いジジイでびっくりしました(笑)。
――ミュージカルということは、歌って踊って?
「一応ね。子どもたちがメインなんですけど、オーディションで選ばれたこの子どもたちがすごいんですよ。 僕は曲数も少ないけど、ただものじゃないの、この子どもたちが。もちろん、大人のキャストもアンサンブルの皆さんもすばらしい!!
主人公の日本の女子大生・本須麗乃は、本に埋もれて亡くなり、異世界に行って子供になっちゃう。子どもたちはセリフの分量も歌も半端ないんだけど、セリフは最初から入っているんですよ。演出家が『もう覚えているのか?』って言うぐらいすごい。半端じゃない。本当に今どきの子はすごいなと思って。
僕は2曲歌うのと、あとはコーラス。そういった意味ではみんなに比べれば少ないんですけど、これ子どものミュージカルだと思ったら大間違いで、話の内容はものすごくしっかりしていて大人の人が見ても感動する作りだと思います」
――今後映画も続きますね
「そうですね。『ぴっぱらん!!』が11月に公開になって、来年も『囁きの河』(大木一史監督)という映画があります。4年前の大洪水で氾濫した熊本県の球磨川のほとりにある『人吉旅館』も大変な目にあったんですけど、ボランティアのおかげで何とか再建したその旅館の主の役をやらせていただきました。
あと、来年は戦後80周年なので、それに向けて太平洋戦争末期の陸軍の精神病院を題材にした映画『ハオト』(丈監督)もありますけど、もっともっとという思いはあります」
――カンヌ国際映画祭に行くのが夢だそうですね
「そうそう。死ぬまでに行きたいですね。カンヌじゃなきゃいけないということでもないんだけど、この世界でやっていると、やっぱり海外の映画祭とかで脚光を浴びたいという思いはありますよね。
あと、妻が亡くなって5年になりますけど、彼女の夢が『シアター365』(東京キッドブラザースが毎日芝居をやるために、新宿・職安通りから路地に入ったビルの地下に作った小劇場)みたいな劇場をつくることだと話していたと聞いたので、その夢をかなえてあげたいと思っています」
間もなく舞台の初日、『ぴっぱらん!!』の公開も控え、仕事に、夢の実現に向けて忙しい日々が続く。(津島令子)